第17会 星空のローブと概念

 最近さいきんよくねむれない。

 

 寝付ねついてもすぐにめてしまう。

 

 それはゆめきたくないからだろうか?

 

 そうではないとおもうのだが。

 

 げん夢自体ゆめじたいてはいる。

 

 ただ、あべこべなだけで。

 

 彼女かのじょたちのいるゆめになかなか辿たどけなくなりつつあるのをかんじていた。

 

 「……という、なやみがありましてね。」

 

 「それは立派りっぱ睡眠障害すいみんしょうがい

 お医者様いしゃさまにかかることをおすすめするわ。」

 

 「いや、すでにかかってれてはいるんだけど。」

 

 「あまりくわしくはわないけど、いいねむりではないわね。

 そのうちにまたたおれるわよ?」

 

 「久々ひさびさですみませんな。」

 

 「いいんじゃない?

 こころ安定あんていしてきてるってことじゃない?

 精神的せいしんてき不安定ふあんていときしかこっちにてないじゃないの。」

 

 「まぁ、そうなんだけど。」

 

 「そんな貴方あなた面白おもしろいものをあげようかしら。」

 

 「なに?」

 

 「はい。」

 

 彼女かのじょしたのは群青色ぐんじょういろでスパンコールのようないしりばめられたローブ。

 

 「また随分高級ずいぶんこうきゅうそうなローブですな。」

 

 羽織はおろうとしたら大慌おおあわてでリーフェに制止せいしされる。

 

 「あっ、こらっ。

 まずははなしきなさい。

 いきなり羽織はおったら危険きけんなものなの。

 それは星空ほしぞらのローブってって、羽織はおぬしえらぶものなの。」

 

 「え。」

 

 「試練しれんされるわ。

 一番嫌いちばんいやことゆめこす。

 それをえられたら、そのローブは貴方あなたにとってちからになるでしょうね。」

 

 「一番嫌いちばんいやこと…。」

 

 「覚悟かくご出来できたなら羽織はおりなさい。

 わたしてるけど手出てだしは出来できないから。」

 

 「……かった。」

 

 けっしてその星空ほしぞらのローブとやらを羽織はおってみる。

 

 するとあたりがくらになり、おくひかりあらわまれるようにひかりおおきくなる。

 


 

 ひかりおさまると、つままえにいた。

 

 ……緑色みどりかみって。

 

 開口一番かいこういちばん、「離婚りこんして。」

 

 はんされ、署名しょめいまでされている。

 

 まえくらになった。

 

 自分じぶんゆめなのに制御せいぎょかない。

 

 われたことめない。

 

 一体いったいどこでなに間違まちがえたのか。

 

 「ちょ、ちょっとって。

 ぼくなにかした?」

 

 「そういうことだから、署名しょめいして判押はんおして役所やくしょしておいてね。」

 

 なかけられてつま姿すがたとおくへってしまう。

 

 いやだ。

 

 いやいやいやだ!

 

 なんでこんなゆめせられるんだ!?

 

 「う、うぅぅ……。」

 

 ゆめかっていてもあふれるなみだ

 

 ゆめをコントロールできない。

 

 明晰夢めいせきむじゃなかったのか。

 

 それともこのローブの試練しれんとやらのせいか。

 

 不意ふいにぐっと右手みぎてうごく。

 

 はんばしているのだ。

 

 「ちょっと、やめろ!

 なにをする!」

 

 ご自慢じまん明晰夢めいせきむ効力無こうりょくなく、はんされてしまった。

 

 署名しょめいをしようと右手みぎてがボールペンをにぎろうとする。

 

 「いい加減かげんにしろ!」

 

 右手みぎてふるえだす。

 

 はんしてしまっている以上いじょう署名しょめいをしたらわりだ。

 

 役所やくしょ提出ていしゅつをしてしまうカウントダウンしかない。

 

 左手ひだりてにぎられている離婚届りこんとどけ

 

 これをはなせばいいんだー……、とおもったがしかし。

 

 むねにベタっといた。

 

 でも署名しょめいさせるらしい。

 

 右手みぎてちかくのボールペンをひろおうとする。

 

 「さ、させるもんか……!」

 

 左手ひだりて右手みぎてつかむ。

 

 ゆめがコントロール出来始できはじめてきている。

 

 そうだ。

 

 いままでたりまえゆめがコントロール出来できていたけど…、

 

 こうして苦労くろうしてゆめをコントロールする訓練くんれん、してたっけ。

 

 「これは、ゆめだ!」

 

 むねいた離婚届りこんとどけがし、ビリビリにやぶてる。

 

 「はぁっ、はぁっ……!」

 

 なんという悪夢あくむだろうか。

 

 こんな悪夢あくむらしい悪夢あくむ幼少期以来見ようしょうきいらいみていないくらいだ。

 

 「……ん?」

 

 星空ほしぞらのローブのほし見立みたてていた宝石ほうせきいしかがやはじめていること気付きづいた。

 

 「……そうか、これが試練しれんえたあかし……かな?」

 

 ためしにちゅういてみる。

 

 ちゅうさい抵抗ていこうがない。

 

 疲労感ひろうかんがない。

 

 ……ける。

 

 「わぁぁぁぁぁーっ!」

 

 悪夢あくむはらうように絶叫ぜっきょうしながら滑空かっくうはじめる。

 

 時速じそく80kmはている。

 

 それにづいたのはあたりが道路どうろわっていたからだ。

 

 車全くるますべてをいている。

 

 赤信号あかしんごう無視むし

 

 横断歩道おうだんほどうひとうようにぶ。

 

 高速道路こうそくどうろかり、なお速度そくどがる。

 

 疲労感ひろうかん抵抗ていこうまったくない。

 

 これが星空ほしぞらのローブのちからか。

 

 「あははははは!」

 

 まるで王様おうさまにでもなった気分きぶんだ。

 

 ぎゃくすべてをうしったような気分きぶんにさえなった。

 

 時速じそくは120kmあたりだろう。

 

 こんなにはやんだことはい。

 

 そうえば、どこへかってんでいるのだろう?

 

 速度そくどはさらにしている。

 

 ふと気付きづくと新幹線しんかんせんならんでいた。

 

 成程なるほど、そこまで速度そくどているのか。

 

 上等じょうとうだ。

 

 いてやる。

 

 容易よういだった。

 

 新幹線しんかんせんさえいてしまうこのちから

 

 ものの数時間飛すうじかんとんだだろうか。

 

 つま新婚旅行しんこんりょこう場所ばしょにやってた。

 

 「そうか。

 そういうことだったのか。」

 

 つま大事だいじにしれていなかったかもしれない。

 

 もっとはないが必要ひつようなのかもしれない。

 

 出来できていたつもりだったのだろう。

 

 慢心まんしんがあったんだ。

 

 夕焼ゆうやけをていると、突如とつじょバチンと周囲しゅういくらくなる。

 

 もう一度来いちどくるか、悪夢あくむ

 

 と、かまえているとリーフェの部屋へやもどっていた。

 

 「おかえりなさい。」

 

 「あ、あれ?

 た、ただいま……、リーフェ?」

 

 「そうよ、どうかした?」

 

 「あれ?

 ゆめなかゆめていたのか?」

 

 「そうよ?

 貴方あなた試練しれんった。

 一番いちばん武器ぶきでありのぞみ、そらぶことに星空ほしぞらのローブはちからした。

 まさか時速じそく300km以上いじょうぶとはおもわなかったわ。

 わたしでも無理むり領域りょういきよ。

 そのローブは宿主やどぬし貴方あなたえらんだようね。」

 

 「そうか…、ん?」

 

 着衣ちゃくい見渡みわたすがローブがえない。

 

 「あれ?

 星空ほしぞらのローブは?」

 

 「一体化いったいかしたわ。

 貴方あなたちからとなって体内たいないえている。

 必要ひつようとすればちからしてくれるはずよ。

 星空ほしぞらのローブの試練しれんってそれなりにキツイものなのにつんだもの。

 

 まったく…。

 本来ほんらいならまれて精神崩壊せいしんほうかいする人が大多数だいたすうなのに貴方あなたってひとは…。」

 

 「たしかにキツイ悪夢あくむではあった。

 生々なまなましかったよ。」

 

 「……いま貴方あなたなら出来できるかしら。」

 

 「なにが?」

 

 「ちょっとついてらっしゃい。」

 

 「はぁ。」

 

 いていくと記憶きおく回廊かいろう最奥さいおくとびらひらいた草原そうげんだった。

 

 「あまり速度そくどさないでね。

 わたし案内あんないしたいのにされちゃ意味いみないから。」

 

 「どこくの?」

 

 「成層圏せいそうけん。」

 

 「そんなにたかく!?」

 

 「一度連いちどつれてってあげようとおもっててね。

 でも、そのためには星空ほしぞらのローブのちから必要ひつようだったの。

 じゃないと通常つうじょう人間にんげんではあのたかさまではべないから。」

 

 「は、はぁ。」

 

 「じゃあ、くわよ?」

 

 「ほい。」

 

 フワリとちゅうう。

 

 等速直線運動とうそくちょくせんうんどうのように摩擦無まさつなてんんでゆく。

 

 時間じかんはそんなにかからなかった。

 

 「はい、いた。」

 

 「うおー……、地球ちきゅうあおい……。

 あ、あそこ富士山ふじさんじゃない?」

 

 「そうよ。」

 

 「万里ばんり長城ちょうじょうえる。

 すっげぇ。」

 

 「子供返こどもがえりしてるわよ、クスクス。」

 

 「あはは。

 でも、これをると人生観変じんせいかんかわりそうだね。」

 

 「でしょう?

 これも星空ほしぞらのローブのちから

 

 もともとはこういう使つかかたをするためのローブだからね。

 名前なまとおり。」

 

 「たかさのためのローブなの?」

 

 「んー、厳密げんみつにはちがうわね。」

 

 「と、うと?」

 

 「あたえられるちからなにかはそのひとによる。

 貴方あなたあたえられるちから飛空ひくうだとわたしにはかってた。

 試練しれんえられるかは、確率五分かくりつごぶだったけど、無事乗ぶじのえた。

 そこはめてあげる。

 

 まぁ、なにいたいかっていうと、

 星空ほしぞらのローブでうらないにちからられるひともいるし、怪力かいりきられるひともいる。

 まぁ、明晰夢めいせきむ相当進歩そうとうしんぽしているひとでも星空ほしぞらのローブの試練しれんきびしい。

 くわえて前提条件ぜんていじょうけんとしてわたしのようなひとに”つづけるひと”じゃないといけない。

 

 確率かくりつわないでもわかるわね?

 地球上ちきゅうじょうでもコンマ1%もいないわよ、貴方あなたみたいなひと。」

 

 「げげっ……。」

 

 「さ、お茶会ちゃかいにしましょう。」

 

 「降下こうかですか?」

 

 「ここで。」

 

 「え!?」

 

 「星空ほしぞらのローブは自身じしん重力じゅうりょく酸素さんそ供給きょうきゅうすることも出来できる。

 だから貴方あなたはここにいることが出来できるの。

 だから……。」

 

 パチンとリーフェがゆびらすとティーセットがあらわれる。

 

 ゆかでもあるように。

 

 「あれ、本当ほんとうだ。

 空中くうちゅうあしがつく。」

 

 「それも星空ほしぞらのローブのちからすごいでしょ?」

 

 「おどろいた……。」

 

 「いつものでいい?」

 

 「勿論もちろん。」

 

 かぜながれないからマリアージュフレールのポンムのかおりがゆっくりかおる。

 

 クッキーを頬張ほおばりながら疑問ぎもんげかけてみた。

 

 「どうしてわざわざ危険きけん星空ほしぞらのローブをぼくに?」

 

 「素質そしつがあるとおもったからよ。」

 

 「コンマ1%未満みまんでも?」

 

 「貴方あなたならやぶれるとおもったから。」

 

 「無茶言むちゃいうなぁ……。」

 

 「わたしにも試練しれん義務ぎむがあるのよ。」

 

 「あれ?

 リーフェって神様かみさまなの?」

 

 「冗談言じょうだんいわないで。

 私はただの幽霊ゆうれいみたいなものよ。

 宿主やどぬしんだらうつわる憑依霊ひょういれいみたいなもの。

 貴方あなたももうだいぶとしったけど、わたし接触せっしょくしている時間じかんはどこのだれよりもながい。

 

 もう十数人じゅうすうにん……、いえ、数十人以上すうじゅうにんいじょう人生じんせいわたしあゆませているのよ。

 結構楽けっこうたのしませてもらってるわ。

 だから、ためしたくなったの。

 貴方あなたもそろそろかるんじゃない?

 わたし性格せいかくが。」

 

 「退屈嫌たいくつぎらい。」

 

 「正解せいかい。」

 

 「玩具おもちゃぼくは。」

 

 「いーえー?

 玩具おもちゃこわすのは子供こども所業しょぎょう

 わたし玩具おもちゃなにかをするのがお仕事しごと

 もっとも、玩具おもちゃおもったことはないけれどね。」

 

 「じゃあ、もう1ついていい?」

 

 「どうぞ。」

 

 「リーフェ、さっき”わたしのようなひとつづけることが条件じょうけん”ってったよね?

 リーフェ以外いがいにリーフェのような役職やくしょくったひとがいるの?」

 

 「当然とうぜんいるわよ?

 老若男女様々ろうにゃくなんにょさまざまね。

 わたし、これでも結構位けっこうくらいたかいのよ?

 周囲しゅういからはかなりうらやましがられてるんだから。」

 

 「そうなの?」

 

 「一人ひとり宿主やどぬし長時間滞在ちょうじかんたいざいできるっていうのはあるしゅステータスなの。

 貴方あなたにはもう20年以上ねんいじょう宿やどってる。

 貴方あなたにとってはなんてことないことかもしれないけど、私達界隈わたしたちかいわいでは異常いじょうよ。」

 

 「マジで?」

 

 「マジもおおマジ。

 総合そうごうで1年宿ねんやどれないひとだっておおくいるのに、わたしいた時期じきこそあるけど20年以上ねんいじょうよ?

 明晰夢概念めいせきむがいねんってったらちょっとちがもするけど、これは前例ぜんれいがないの。

 

 かる?

 貴方あなたが12さいでやろうとしたことは異世界転生いせかいてんせいではないけれど、そのもの。

 ゆめなか世界せかいでまた1つきているんだから。

 ちがゆめることもあるけれど、わたし世界せかいゆめる。

 存在そんざい固定的こていてきになっちゃってるのね、わたしが。

 

 だから、宿主やどぬしつからない、固定出来こていできないひとにとってはわたしゆめのような存在そんざい

 はなたかいわ。

 ……ありがとうね。」

 

 「え!?

 いやいや、ぼくぼく我儘わがままでリーフェにきまとってるんだよ。

 こっちがありがとうだよ。」

 

 「そうじゃないんだけどなぁ……。

 そういう謙虚けんきょさが貴方あなたちからみなもとなのかもしれないわね……。」

 

 「あ、あー……。

 た、たとえばえばさ。

 リーフェ的存在てきそんざいべつひとえたり出来できるの?」

 

 「結論けつろんえば出来できるわ。

 でも、いやよ。

 絶対ぜったいにやらない。」

 

 「え?」

 

 「わたし領域りょういきおかされでもしたらたまったもんじゃないわ。

 だから、絶対嫌ぜったいいや

 たのまれてもしないからね?」

 

 「あ、あはは…。」

 

 ちょっとリーフェがおこってる。

 

 まずい事聞こときいたかな。

 

 「……なかなかあかるくならないわね。

 貴方あなたきれないの?

 れないんじゃなかったんじゃなかったかしら?」

 

 「あっれー?

 おかしいなぁ。」

 

 めずしくながねむりについた自分じぶん

 

 彼女かのじょはな時間じかん退屈たいくつしなかった。

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