第130話 動物園の後

レッサーパンダは渡された綱を渡り、そしてこちらを向いて二本足で立った。


「はぁ……かわいすぎます」

「レッサーパンダって立てるんだ。初めて知った」

「多分この子が特別なのかもしれないです」


葵はレッサーパンダに釘付けとなり十分以上その場から離れようとはしなかった。

レッサーパンダのゲージを後にしてからも象やダチョウに餌をやる事が出来たので、葵はずっと大興奮だった。


「凛くん、動物園でこんなに楽しかったの初めてかもしれません」

「それはよかった」

「私ばっかり楽しんでしまって申し訳ありません」

「いや、俺もすごく楽しかったから」


これは嘘ではない。

動物を前にして小さな子供のようにはしゃいでいる葵を見ていると、俺まで楽しく幸せな気持ちになれた。もちろん久し振りにいろんな動物も見れて良かったと思う。


「本当ですか? じゃあまた一緒に来てもらってもいいですか?」

「もちろん俺でよければいつでも誘ってよ」

「はい! 絶対また誘いますね」


葵は、本当に楽しんでくれたようでよかった。

動物園の出口の手前にお土産屋さんがあったので、葵の欲しそうにしていたレッサーパンダの小さなぬいぐるみをプレゼントすると、思っていた以上に喜んでくれた。

そして買い物を済ませて動物園を後にし帰ろうとしていた矢先に葵のサバイバーの端末に反応があった。


『ピピッ』


俺の端末はサイレントモードに切り替えていたので反応しなかったが、どうやら葵はパッシブモードに設定していたようだ。


「凛くん、申し訳ありません。動物で頭がいっぱいで設定を切り替えるのを忘れていました」

「別に謝るような事じゃないよ。それよりどうしようか。依頼受ける?」


現在地から依頼が来ているので、動物園のあるこのエリアはいつものエリアとは完全に違っている。

それに移動手段は徒歩のみだ。


「私たちが受けなければ、被害が広がるかもしれませんし、できれば受けたいです」

「わかった。じゃあマップを見ながら急ごう。だけど、装備がないんだから無理は禁物だよ」

「ありがとうございます」

「大丈夫だとは思うけど、危なくなったら逃げるからね」

「ふふっ、わかっています」


今日は家に帰るまで、依頼を受けるつもりがなかったので、今は完全に丸腰だ。

学校の帰りにも丸腰で依頼を受ける事はあるが、初めてのエリアであるここでは勝手が違う。

サバイバーに表示してされるマップを見る限りそこまで遠くはないようなので、急げばそれなりの時間では着くことができそうだ。


「葵もこのエリアは初めてだよね」

「はい、このエリアで依頼を受けるのは初めてです」

「エリアによってモンスターの種別とか変わったりするのかな」

「ホームからそこまで離れているわけではないので、大きく異なる事はないと思います」


俺も高校に上がる前は実家のある場所で活動していたが、ゴブリンしか相手にした事が無かったので、今回が実質初めてホーム以外のエリアでの活動だ。


あとがき

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