第95話【オルトは最善策を模索する】

「一体なんでそんな結論になるんだ?

 アレは救命行為だし、他には特にやましい事はしてないはずだ」


 疑問だらけの僕はエスカに質問をした。

 それを聞いたエスカは理由を教えてくれた。


「本当に分からないんですね・・・。

 オルトさんのおかげで私はおそらくこの街では上位の治癒士レベルになったと思います。

 それについてはとても感謝していますし、私の理想に限りなく近づけたと思います」


「その話からどうして僕が責任をとる話に飛躍するのかが分からないんだけど・・・」


「まず、私みたいな若い女性治癒士がどこかの病院に雇ってもらうにも病院主のプライドが邪魔をしておそらく雇ってもらえません。

 自分より優秀な小娘がどんどん自分に治せない患者を治療していたらそれは面白くないでしょう」


 それを聞いた僕は素直な感想を言った。


「この街にいる治癒士は、そんな糞みたいなプライドばかり気にする者ばかりなのか?」


 僕の疑問に側で話を聞いていたシミリがその疑問に答えてくれた。


「自分で病院を構えている治癒士は自分の腕にも自信があるからプライドも相当に高いのが当たり前だと思うわ。

 私たち商人でもやっぱり店を構えている商人はやり手としてプライドを持って仕事してるから分かる気がします」


 シミリの言葉に僕は半ば呆れながらも前世でよく居た『プライドばかり高い見栄はり』や『自分の自尊心ばかり優先する小者』の事を思い出してどこも似たようなものだなと思った。


「うーん。そんなものなんだね・・・。

 僕は優秀な部下や従業員がいた方が店や病院も大きく発展してもっと儲かると思うんだけどな。

 まあ、確かにプライド的には面白くないかもしれないけどね」


「で、次に私が病院主になればいいかと言えば確かにそうなんですけど、そうするには3つの壁が立ちはだかっているのです。

 まずは、資金の壁。次に実績の壁。最後に性別の壁になります」


 僕の隣ではシミリが全てを悟ったかのような表情でエスカの話を聞いていた。


「ひとつめの『資金の壁』は文字通り開業するだけの資金が無い事です。

 病院運営には病院の建設が必須ですけど私にそんなお金はありません。

 ふたつめの『実績の壁』はまだまだ駆け出しの私が仮に病院を開業出来ても知名度が無いために安心して治療に来てくれるかは未知数です。

 まあ、実績は少しずつ積み上げていくものですから最初は仕方ないですけどね。

 みっつめの『性別の壁』が一番厄介で、特に若い独身女性がやっていると良からぬ考えの人達が集まってきて、まともに経営なんか出来ないですよ」


(何かどこかでも聞いたような話だな・・・ってシミリの事か。

 シミリも独身女性の商人だといろいろとトラブルに巻き込まれるから早く婚姻を結ぶようにゴルドさんに言われたよな)


「成長させてもらって言う言葉じゃないのは十分承知はしてますけど、このままでは、私は成長した意味が無くなるんです!

 それで考えた結果が『オルトさんに責任をとってもらう』だったんです」


「いや、待ってくれ。どう考えてもその理屈はおかしいだろ?

 いや、おかしいのは僕の方なのか?いやいや・・・」


 僕が考えをまとめられないでいるとエスカは隣にいるシミリの手をとってためらいもなく言った。


「シミリさん。オルトさんと婚姻を結ばせてください!出来るだけシミリさんの邪魔はしないようにしますのでお願いします!」


「はぁっ!?」


 エスカは何故か僕にではなく、シミリに僕との婚姻の許可をお願いをしていた。


「うーん、そうね。今回の件はオルト君にもかなり責任があるからねぇ。

 同じような立場だった私を救ってくれたのも彼だったし、エスカさんがその結論に向かうのは安易に予想出来たから一応、心づもりはしていたのよ」


「じゃあ認めてくれるんですね?」


 エスカは期待を込めてシミリに確認をした。シミリは少し考えてから一応、僕にも意見を聞いてくれた。


「で、どうするのよ?この状況。

 エスカさんを第二婦人として迎え入れるの?それとも断って放り出すの?」


「どうするも何も全く考えてなかった事が降ってわいてきたんだ。

 すぐには答えられないよ。それにシミリはそれで良いのか?」


「まあ、エスカさんの気持ちは良く分かるし、訓練中の彼女を見てたけどそれなりにやって行けそうな気もしたから特に反対はしないわ。

 ただ、第一婦人としての立場は譲らないけどね」


(そういえばゴルドさんが言っていたな。女性は婚姻を結ぶと男が離れて、男性は婚姻を結ぶと女が寄ってくると。

 そして男性は第一婦人の意見を尊重する風習が強い・・・と)


「ーーー仕方ないか。

 いいよ、ふたりがそれを受け入れるならば僕も全てを受け入れよう。

 ただし、エスカさんの仕事については僕に案があるから任せてもらうよ。

 それと正式な婚姻はまだしないで、まずは僕とスポンサー契約をしてもらう。

 要は周りからちょっかいをかけられないで仕事がしっかり出来ればいいんだろ?

 それを試してもやっぱり婚姻を結ばないと不利益があるならばその時にはきちんと儀式を行うようにしよう。それでいいかな?」


「はい。よろしくお願いします」


 エスカは深々と頭を下げてお礼を言った。


「じゃあ今日はこれで終わりだよ。

 明日いろいろと交渉に行くから朝の鐘がなる頃には部屋にきてくださいね」


 僕はそう言うとエスカを部屋に返してこれからの事をシミリと話しあった。

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