第54話【オルトの怒りと悪人の末路】

「オルト君!!」


 部屋に飛び込んだ僕にシミリの声が聞こえた。

 声の先を見るとシミリが後ろ手に縛られて床に半身を起こした状態で倒れていた。

 はたかれて倒れた反動で衣服が乱れており、その顔には張り手の跡が赤く腫れていた。


「貴様!シミリに何をした!?」


 強烈な殺気を目の前にいる男に向けると束縛の魔法を男にかけてその場に捉えた。

 男はオルトの殺気を浴びて泡を吹いて気絶したがオルトはそれを許さなかった。


強制覚醒きつけ!」


 男に魔法をかけると同時にオルトはシミリに走り寄り手の束縛をほどいて回復魔法を唱えた。


「エクストラヒール」


 暖かい光がシミリを包み込むと赤く腫れた頬も含めての傷を癒していった。

 オルトはそれを確認すると気がついた男に向かって叫んだ。


「どうしてシミリを拉致した?

 お前の指示か?それとも誰かに命令されていたのか?

 お前のバックに誰かがいるのか全て喋ってもらうぞ!」


 僕はガクガクと震える男にさらに威圧をかけながら背後関係の有無やシミリを拉致した理由を聞き出した。


「わっ私は悪くない!

 あれはその女が無防備な格好でふらふらと街を歩いていたからだ!

 あれじゃあ襲ってくれといわんばかりじゃないか!

 たとえ私がやらなくても他の誰かがやっていたに決まっている!」


 男の勝手な言い分を黙って聞いていた僕は一通りの話を聞き終わると最後に背後関係を確認し、男の独断だと断定すると男に告げた。


「あんたの言い分は全て、あんたの身勝手なものだ。

 ここまでやるあんたの事だ、今まで何人も同じ手口で手込めにしてきたんだろう?

 この屋敷にそれらの娘達の反応らしきものが数人あるがお前のやり口からすると反抗した者は用済みとして処分したということか?」


 オルトの殺気がまた強くなり、慌てた男はオルトに取引を持ちかけてきた。


「まっ待ってくれ!女は返す!金も好きなだけやるから助けてくれ!」


 その言葉に僕はシミリを一度見てから男に向き直り宣言した。


「シミリは既に返して貰ったし、お前の汚い金など銅貨一枚欲しくない。

 お前は僕の世界で一番大切なパートナーを拉致して傷をつけた。

 怪我は治癒魔法で治っても拉致された恐怖はずっと残る。

 それを金で許せと言うのか?世界がお前を許したとしても僕がお前を許せない。

 だから死んで詫びろ!」


「ひぃっ!?わっ私を誰だと思ってるんだ!

 私に手を出すとお前達は裏の世界から狙われ続けるぞ!

 いっ今退けば私が口をきいてやる。

 おっお前達の為だぞ!」


「言いたい事はそれだけか?

 僕はお前が何者かは全く興味は無いんだ。

 裏の世界?いいぜ相手になってやろうか?

 なんならこっちから出向いて殲滅してやってもいいぜ。

 ほら、お前のバックとやらを言ってみな?」


 キレてさらに男を煽る僕に横からシミリが鋭い突っ込みを入れてきた。


「オルト君ならば、たとえ相手が領主や王族でも本当にやってしまいそうな感じがするわね。

 でも、それだけは止めてね。

 裏家業の悪人はいくら潰しても世のためになるから良いのだけどね」


「おっ!いつもの突っ込みが入りだしたな。

 よしよし、少しは元気が戻ってきたみたいだな」


 それを聞いた僕はニヤリと笑い、震えている男を一瞥してからシミリの肩を抱いて出口に向かいながら言った。


「シミリの目の前であんたをバラバラにしたらシミリの夢見が悪くなるからな。

 この場で殺すのは止めにしてやるよ。

 だが助かったとは思わない方がいい。

 あんたはこれから死んだ方がマシだったと思う体験が待っているからね。

 今まで好きにヤってきたツケを払うんだな」


 僕はそう言うと男にある魔法をかけてからシミリを連れて屋敷から出て、目立たないように宿屋に向かった。

 オルト達が去った後、男は憤慨して生き残った部下を集めてオルトに復讐をするべく大声で召集をかけた・・・はずだったが呼べど叫べど一向に声が出ない。

 口をパクパクするだけで声にならない。


『だっ誰か!誰か居ないか!』


 部屋という部屋には部下だった男達の死体が倒れているだけで生存者は居なかった。

 それを見て初めて男は世界中で絶対に敵対してはいけない者に喧嘩を売った事に気づいたが既に遅かった。


 後日、死体だらけの屋敷に役人が入った所、一番奥の部屋で屋敷の主が死亡していた。

 死因は精力枯渇による衰弱死だった。


 屋敷からは数人の娘が軟禁状態で発見され保護をされた。

 死亡した男の財産は全て没収されその一部は被害を受けた娘達や家族に補償金として配られた。


 日中に起きた事件だったにも関わらず、犯人は全く判らずに僅かに生き残った者達も皆口を揃えて分からないと言うばかりだった。


 あまりの惨状と人間業ではない現場に役人達も『人ならざる案件』として手出しをしないようにとの命令が出で捜査を打ち切った。

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