第50話【薄利多売ではなく暴利薄売】
「うーん。どうするかな」
(商人ギルドに登録する際には、おそらく素材鑑定をされるだろうからこの辺りでは入手出来ないレア素材を使っていると表示されたら面倒だ。
いっそ未登録で売ってやろうか・・・)
僕が唸りながら考え事をしているといつの間にかシミリが部屋に備え付けのティーセットで紅茶を淹れてくれていた。
「オルト君。
ひとりで悩まないの!私はパートナーなんでしょ。
相談するのが当たり前じゃないの?」
シミリは怒ったような拗ねたような態度で僕の頬をツネってきた。
「いてててて、悪かったよ。
そうだよな商売の事なんだからシミリの意見を優先させるべきだったな。
シミリどうしたら良いと思う?」
「登録自体は領主様から貰った『アレ』があるから問題ないと思うけど、素材が常備仕入れられないとなると最初に作れるだけ作って『今までに手に入れた素材で作ったが、素材が無いから今後は素材が入り次第作る』とでも言えばいいかな?」
シミリの前向きな発言に僕はちょっとばかり悪のりをして思い付いた案を話した。
「そうだな。
ならば一度飲んだら一年くらい飲まなくてもいい薬にして割高な価格設定で貴族や豪商を対象にした『暴利薄売』的なやつを作ってみるかい?」
「それ!いいですね・・・と言いたいですけど、それこそ効果の証明が大変ですよね。
貴族相手に嘘をついたとなれば不敬罪にとられるかもしれないですし・・・」
(まあ、それが一番のネックになるよな。それを解決する方法があるとすれば・・・)
「そうだ!いっそのこと領主に売りつければいいんじゃないか?(奥様の美容にどうですか?)とか飛び付いてくると思うんだけど」
「案としては『アリ』だと思いますが、いくらお嬢さんを治したオルト君の薦めでも病気ではなく美容薬でしかも飲むタイプは怪しすぎていきなり奥様には飲ませられないでしょう。
もしかしたら侍女さんかメイドさんに試されるかもしれないですけど・・・」
「それはそれでいいんじゃないか?でも、そこまでするならばもう『万能型』ではなくて『個別特化型』の方が楽かもしれないな」
「個別特化型?」
「うん。普通、悩みは人によって違うだろ?
例えば『痩せたい』とか『色白になりたい』とか『胸が大きくなりたい』とか・・・。
そんな体の悩みをサポートする相談治療をそれなりの金額で引き受ける。
効果がなければ返金するとかで美容にこだわりのある貴族婦人や娘をターゲットにしたらどうかな?」
「その最初のターゲットが領主家というのですね。
まあ、他の貴族や豪商との伝手がない今はそれしかないかもしれないですけど、本当にいいのですか?
あの領主家とはあまり深く関わらないのでは無かったのですか?」
「まあ、そうなんだけれど定期的にセーラ嬢の様子を見るために領主邸に行かないといけないからね。
そのついでに広告塔として使えないかなと思っただけだよ」
「領主様を広告塔がわりとはオルト君らしいですね。
でも、それでこそオルト君とも言えるかもしれないですね。
やりきれる自信があるんでしょ?
いいですよ。私が交渉してあげますからオルト君の好きなようにしてみてください。
でも、その前に・・・」
「その前に?」
「私の相談にものってください!」
シミリは顔を真っ赤にしながら涙目で下から覗きこんで『お願い』をしてきた。
もちろん僕がそれを断れるはずもなく、コクコクと頷くばかりだった。
* * *
「じゃあ本格的に営業に行く前の練習という事でいいかな?」
シミリがコクコクと頷く。
僕的にはシミリはバランスの良い体型をしていると思っていたのでコンプレックスを持っているとは全く思ってなかった。
まあ、彼女なりに考えた事なので強く反対はしなかった。
「それでシミリはどういったものをお望みかな?何でも言ってみてよ。
何でも出来るとは言わないけれど出来るだけ希望に沿った薬を作るから」
「ほっ本当にいいの?私オルト君になんにも返せないよ?」
「いいから、いいから。
ただ、僕は今のシミリは十分魅力的だとは思うけどね」
「えっ!?そっそうかな?でも背も低いし、むっ胸も小さいし、肌の色だって・・・」
「誰にだってコンプレックスはあるものだよ。
でもどれかひとつでも改善することによって自分に自信が持てるようになるならばそれは良いことだと僕は思うから遠慮せずに言ってみてね」
「うん、分かったわ」
シミリは目を閉じて少しの間考えていたが決心がついたのか僕の目をしっかりと見ながら答えた。
「色々考えたけどやっぱり少しでもいいから胸が成長すると自分に自信が持てる気がするの」
(男の僕にはもうひとつ女性の胸に対する評価が分からないのだが、そこまで拘るからには期待に応えてやるしかないだろう。
まあ、お試し薬で感想を聞いてから定着薬を使う流れでやってみるか)
「分かったよ。じゃあ早速作るから、変えたい部分を具体的に教えてくれ」
デリカシーの皆無な発言をした僕を顔を真っ赤にしたシミリが恨めしそうにプルプルと震えながら見ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます