第20話【商会の評判と狙う品物】

 僕は商会の場所をシミリに確認してこっそり下調べをするために出かけていた。

 まだ明るい時間帯のため人通りも多く商会にも客の姿が多く見られた。


(それなりには繁盛してるみたいだな)


 情報収集にはその辺の露店主に噂を聞くのが一番早いと思い、串焼きの店主に聞いた。


「店主。その串焼き美味しそうだね。

 二本貰えるかな?」


「あいよ。銅貨二枚だよ」


「ありがとう。これお代ね。

 ところでゼクス商会の評判ってどうだい?

 かなり大きい店構えだけど結構手を拡げてるのかな?」


「あんた商売人かなんかなのか?

 ならば悪い事は言わないからゼクス商会には手を出さない方が良いと思うぜ。

 あれだけの商会だから金にものを言わせてあちこちに手を拡げているらしく、無理矢理地盤を奪われた商店も結構あるみたいだぜ」


「そんなに酷いのか?」


「ああ、抗議しても金でヤバイ奴らを雇っているみたいで脅されて黙らせられてるらしいぜ。

 だからこの街で開いている商店の殆んどは奴の商会の支店扱いになってるらしいぜ」


 串焼き屋の店主も幾らかの被害を受けているらしく、こちらが聞きたい情報を話してくれた。


「そうか、しかしこの串焼き旨いな。

 もう二本包んでくれないか?連れに持って帰りたいんだ。

 それでその商会はどんな物を扱ってるんだい?」


「毎度!銅貨二枚だよ。

 基本何でも扱うらしいが特に力を入れているのが食料品で中でも酒は領主や貴族に納める権利を独占していて街で売る安酒さえも囲い込んでいるんだ。

 おかげで俺達の楽しみさえも割高で買わなければいけなくなってるんだ」


「それは大変だな。

 今日はいい話しを聞けたし旨いものも食えた。

 これは少ないがお礼だ」


 僕は収納鞄アイテムバッグから村で買った酒を店主に渡した。こういった交渉事に使うため買っていた物だったが役にたったな。


「本当に貰っていいのか!?すまないな。

 ちょっと待ってくれ、コイツも持って行きな。

 また来てくれよな、サービスするぜ」


 店主はさらに10本ばかりの串焼きを持たせて笑顔で見送ってくれた。


(よし、狙いは決まったな。

 酒を根こそぎ奪ってやるか)


 その後、僕は商会の酒蔵の場所をこっそりと確認してから宿に戻った。


「ただいまシミリ、狙いが決まったよ。

 今夜決行するけど大丈夫かい?

 出来るだけリスクの低い方法を考えたけど絶対じゃないから気を引き締めて行こう」


「オルト君お帰りなさい。

 気持ちの整理はついてるから詳しい話しを聞かせてください」


「うん。やっぱりゼクス商会はかなり悪どいやり方をしてのしあがってきた商会みたいだね。

 街で噂や評判を聞き込みしてきて狙う品物を決めたよ」


「それで何を選んだの?」


「酒だ。酒蔵をまるごとかっさらう!」


「お酒?お金じゃなくて?」


「ああ、確かにお金は直接的にダメージを与える最も簡単な物だ。

 だが、だからこそ警備も厳重でリスクも高いし酒なんて重くて持ち運びの難しい物の警備はお金に比べたら比較的軽いと言えるだろう。

 しかも領主や貴族に納める酒が消えたらどうなるかなぁ?」


 僕はニヤッと悪い笑みを見せて夜を待った。


「夜も更けてきたし、そろそろ行こうか」


 僕はシミリを連れてそっと宿屋を抜け出した。外は僅かな街の明かりが灯っているだけで灯り無しでは走る事はおろか歩く事も満足に出来そうになかった。


「やはり暗いな。シミリ、魔法をかけるからちょっと目を閉じていてくれ」


 シミリが目を閉じるのを確認すると僕は“暗視”の魔法を唱えた。


「もう目を開けてもいいぞ。

 どうだ?周りが見えるか?」


「何これ?真っ暗だった筈なのに少し薄暗いけど問題なく見えるわ」


「暗視の魔法だ。

 これを使うと暗闇でもよく見えて便利だぞ」


「もうオルト君のする事には驚かないようにするしかないのね。

 大丈夫、信じてついて行きます」


 僕は明るく見える夜道をシミリの手を引きながら目的の酒蔵まで走った。


「ついたぞ、この蔵が酒蔵だ。

 灯りがついていないから常駐の見張りは居ないみたいだな。

 おそらく定期的に見回りをしているのだろう」


「鍵が掛かってるけど、どうやって中に忍び込むの?」


「忍び込んだりはしないぞ。

 だいたい鍵を壊して忍び込んで中身を持って行ったら泥棒にやられたのがバレバレだし、見張りの人間が手引きしたとか疑われて罰を受けたら悪いじゃないか」


「えっ?じゃあどうやって中のお酒を盗むの?」


「簡単さ。こうやればいいんだよ」


 僕はそう言うと収納鞄アイテムバッグを取り出して酒蔵の建物ごと収納してしまった。後に残されたものは更地になった地面の上をネズミが慌てて逃げているだけだった。


「!?」


 びっくりして声を上げそうになったシミリは口を慌てて押さえて何とか叫ぶのを我慢した。


「よく我慢したなシミリ。

 それじゃあ見張りが巡回してくる前にさっさと退散しよう。

 これならすぐに犯行は露見するけど、どうやったかは想像もつかないだろうから見張り役を問い詰めても無駄に終わるだろう。

 酒蔵が無くなった事実を知った奴の唖然とした顔が目に浮かぶようだな」


 僕は行きと同じくシミリの手を引きながらこっそりと宿屋に戻り朝まで休んだ。

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