第5話 獣を逐う者は、目に太山を見ず

けものう者は、目に太山たいざんを見ず』は、淮南子えんじにある一説だ。

淮南子は、漢の武帝の時代に淮南わいなん王だった劉安りゅうあんが学者を集めて編纂させた書物の一つだ。

劉安は、劉邦の七男で、淮南わいなん王を授けられた劉長の長男に当たる。

淮南子は、道家思想を中心に儒家や法家、陰陽家などの思想も含まれていることから、分類的には雑家になる。



さて、『獣を逐う者は、目に太山を見ず』の意味の検討になる。

けもの』は、野生動物の意味だ。

う』は追うそのままで、『太山』は『泰山』のことになる。

『泰山』は、封禅ほうぜんの儀などが行われる中国では聖地と崇められる山であり、誰もが知っているところだ。

また、古来から大きいものの例えとして用いられている。

だから意味としては、『野生動物を追いかけている者は、泰山のような大きな山さえ目に入らなくなる。』となる。

意味なく、野生動物を追いかける者はいない。

追いかける者は、その動物を狩ろうとしているのだろう。

このことから、『利益を得ることに熱中している者は、他の事が全く目に入らなくなる』という意味に転じる。



人は熱中し過ぎると、近視眼的になる。

例えば、『手段の為に目的を忘れる。』というのも、『獣を逐う者は、目に太山を見ず』に似た意味を持つ。

手段の為に目的を忘れる・・・・。

目的は明確であり、手段はそこにたどり着く為の単なる手法だ。

その手法の為に、目的を忘れるなんて、普通に考えれば笑い話にしかならない。

が、現実は、こんな笑い話に満ちあふれているのだ。



例えば、道路の制限速度。

目的は、交通事故の防止に他ならない。

しかし、今や、交通事故云々関係なく、速度を守ることが目的となっている。



ここから考えれば、規則や法律なんかもそうだ。

目的は、人々の自由や権利が衝突して侵害し合うことを、事前に調整して防止することのはずだ。

しかし今や、規則や法律なんかも、そういう目的は忘れ去られ、ただ守るべきものという位置づけになっている。



また、今回のコロナ対策での国会のドタドタもそうだ。

入札というのは、同じ効果をより経済的に得られるように考えられたシステムだ。

このシステムが導入されたのは、単に経済的だという訳ではない。

経済的な方が、国民の税負担を軽くできるからだ。

つまり、国民の為に、入札というシステムが存在していると言える。



しかし、今回のコロナ騒動で、給付金の支給等の事務処理が入札にかかっていないと野党は批判した。

結果、入札にかけられ、元々受託していた企業と、入札によった受託した企業の2社が別々に委託を受ける形となっている。

結果、強引に入札させた結果の二重事務により、入札による経済的利益は皆無となっている。



また、緊急を要する事業に、経済性を求めて入札にかけることの方が、本当に国民の意思に合致しているのかという問題!?がある。

何度も言うが、入札は、国民の税負担を軽くするため、国民の為に導入されているシステムだ。

緊急事態下でも、時間をかけて入札をすることの方が良いだと考えるなら、入札をすべきだろう。

が、前回も書いたが、緊急時は、拙速性が必要とされている。

そうなると、入札に固執する勢力は、『入札という手段の為に、国民の為という目的を忘れている』と言えるのではないだろうか・・・・。



更に、我々投資家もそうだ。

資産を拡大させることが、投資家の目的のはずだ。

しかし、資産を拡大させている投資家は、圧倒的に少ない。

資産を減少させている投資家の方が、はるかに多いのが現実だ。

彼らは、なぜ、目的を果たせないのか・・・・。

多くは、彼らの行動が、目的を果たすことに合致していないからだ。



『損切り投資』をすると言いながら、不意に持ち株が暴落したとき、少しでも損失を減らしたいと考えて、損切りを躊躇する。

すると、銘柄は投資家をあざ笑うかのように、下げ足を進める。

そして、損切り出来ない水準まで暴落して動かなくなる・・・・。



『損切り投資』では、損切りすることで損失を限定することが最終的な利益に繋がる。

それなのに、目先の損切りに躊躇ちゅうちょし、投資法自身を台無しにしてしまう。

これも、『手段の為に目的を忘れる』典型だと言える。

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