プリーストの先輩(♂)と後輩(♀)が冒険者をやっているようです

みずがめ

1話目

「昔々あるところに強大な力を持ったドラゴンがいたそうな。その爪はどんな鎧でも切り裂き、その牙はどんな屈強な冒険者でもひとたまりもなかったという。それだけではなく、ドラゴンは魔法にも長けており、国中のウィザードが束になってもとても敵わなかった。そんなドラゴンが支配していた暗黒時代に現れたのが――」


「なんの導入なんですかこれ?」


「ファンタジーにはシリアス展開が必要だと思ってな。ちょっと盛ってみた」


「先輩の言うことはいつも意味不明です」


 そう言って俺の後輩はこれ見よがしにため息を吐きやがった。先輩に対する敬いってものが足りない気がするのは俺の気のせいだろうか。


 現在、俺と後輩は冒険者ギルドに隣接された酒場にいる。

 こんなところにいるのだから、当然のごとく俺と後輩は冒険者をやっていたりする。


 時刻は昼間。ほとんどの冒険者は依頼をこなすために外に出ている。この時間に残っているのはしょうもないごくつぶしとなんらかの事情ありな奴だけだろう。


 俺と後輩は言うまでもないがそのへんのごくつぶしとは違う。

 ただ、依頼に出られない問題があるのである。


「なあ、ネルちゃんよ」


「ちゃんづけしないでください先輩。気持ち悪いです」


 気持ち悪いとか……わりとショックなんですけど後輩ちゃん。


「……うおっほんっ。やっぱりノエリアさんのパーティーに入れてもらえばよかったじゃんよ。俺達プリースト二人じゃあ冒険なんてできねえぜ? 前衛なしとか無理すぎるだろ」


「嫌です。ていうかなんで先輩が誘ってくるパーティーには巨乳の女の人ばっかりなんですか。下心丸出しすぎて気持ち悪いです」


「コラコラ。年頃の女の子が丸出しとか言っちゃあいかんよ。おじさん興奮したらどうする」


「……」


 絶対零度の視線をぶつけられた。お、俺には被加虐趣味なんてないんだからねっ。……でも、ちょっとだけゾクゾクしちゃう。


「はぁ……。やっぱり次からは私がパーティーを選んできます」


「えー、やだよ。だってネルが誘うパーティーって男ばっかじゃん。はっ! まさかそれってネルの趣味全開ってことなのかっ」


「違います! 潰しますよ」


「なにを!?」


 一気にお股が冷えたんですけど。


「そもそも、危険な冒険者としてのお仕事ですよ。男の人が多くなるのは当然じゃないですか」


「それは違うよ!」


 テーブルをバンッ! と叩く。後輩は冷ややかな目差しのまま俺を見つめていた。


「危険な冒険者だからこそ女性が必要なんじゃないか! だって、俺のこのたぎった衝動を発散させてくれるのは綺麗なお姉さんだけなんだ!」


「それのどこに冒険者が関係するんですか。まったく関係ないじゃないですか」


 うむ、正論だ。だが、違うのだよ。


「欲望を忘れたら、人間すぐに枯れちゃうぜ」


「先輩、聖職者の言葉じゃないです」


「俺は生殖者として生きたい」


「……いっぺん死なないと治らないんですか」


「俺を病人みたいにゆーな」


「これが病気だったらどんなによかったか」


 しみじみ言わないでよ。先輩傷ついちゃうじゃないか。


「それに」


 後輩は俺と目を合わせないまま続ける。


「綺麗な女性なら、ここにいますよ」


「まさか自分のこと言ってる? はっはっはっ。まずはそのぺったんこをなんとかしてから出直してこいよ」


「ふんっ!」


「ぐべらっ!?」


 後輩はプリーストとは思えないほどの早業で俺のあごを打ち抜いた。


 崩れ行く俺。その時思ったね。


「プリーストじゃなくて戦士にでもなれよ」


 お前の拳ならてっぺん取れるから、と。


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