第11話

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

「いやあ本当に助かったよ。報酬は準備が出来次第送らせてもらう形でいいかい?」


 魔物達を退け、安全確保の報告をしに行くと、俺達は村人たちに囲まれて賛辞を浴びせられていた。

 リリーは苦笑いを浮かべながら、村人たちを適当にあしらっている様子だ。


 戦闘の開始が既に夕方だった事もあってか周囲はすでに暗くなっており、ちらほらと焚火が焚かれ始めていた。

 村人たちはまだ助かったという興奮が抜けていないのか、肩を組み合ったりして騒ぎ立てている。


「エルだっけ、ちょっといい?」

「あぁ」


 俺が村人たちから解放されるのを待っていたのか、リリーが落ち着いた雰囲気で話しかけてきた。


「君さ、何匹くらいやっつけたの?」

「何匹って……」

「分かるでしょ? 魔物だよ魔物」

「あー……数えてなかったな、でも結構いたぞ」


 戦いを思い出しながら数えてみようかと思ったが、数えるのが面倒になるほどにいたという事しか覚えていない。

 リリーは腕を組みながらウンウンと唸ったかと思うと、俺の胸元に指を突き立てた。


「出身はどこ?」

「出身……あー?」


 答えがすぐに浮かばない。俺がいた村は名前のあるような村ではない。だからといって始まりの村出身ですと言うのもおかしな話だろう。


「ナード? ヌーブ? トロール?」

「ちょっと待て、そんな地名の場所があるのか?」

「あるわけないじゃん。ま、でもその反応からして意味は分かるみたいだね」

「意味……あっ」


 彼女のあげた単語は全て意味としてはあまり良くないものではあるが、逆にその意味がこの世界で分かる人というのはいるはずがない。


「結構大規模な群れだって聞いてたから、正直もう村はダメだと思ってたんだけどね。君もあのフザけたスキル持ってるんだよね?」

主人公補正プレイヤーの事か?」

「他にないでしょ。ま、そのスキルがほんとに強いんだって分かったからいいんだけどさ」


 片膝を立てながら銃をいじる彼女は淡々とそう言葉を繋げる。


「ところでさ、得物は刀って事は……サムライにでも憧れたとか?」

「ま、近いっちゃ近いのかな。俺は日本の生まれだから」

「日本人か、英語話せるんだ」

「いや、そういうワケじゃあないんだ。リリーもこう……ちっこい光の玉から聞いたりしてないか?」

「聞いてないね」


 何もない空中を少し睨む彼女だが、そこにアテナのような玉は見られない。


「アテナ、リリーの神様も見れる方法は?」

「パーティーを組めばいいんだよ。組み方はまあ……感じて?」

「ったく曖昧だな……」


 リリーの方を見ると、拳をこちらに向けていた。


「ほら」

「えーと……?」

「フィスト・バンプだよ。知らない?」

「もしかして、あの拳を合わせるやつか?」

「そう。にしても、アテナって大層な神を連れてるんだね」


 拳を軽く当て、彼女の笑みに思わず気が緩む。

 気が付けばリリーの肩辺りにアテナと同じような光の玉がふよふよと浮かんでおり、思わずそれに注意が向いてしまう。


「えーと……エルドレッドです。よろしくお願いします」

「ご挨拶どうもありがとうございます。私の名は天照大神と申します。アマテラスと呼んでくださって結構ですよ」


 その光の声は非常に落ち着いており、気を付けて見てみるとその光はアテナよりも優しくて温かいような印象が――。


「何だって?」


 思わず俺は聞き返していた。

 天照大神と言えば日本神話でもかなりの大御所であり、詳しい事は知らないものの、とんでもなく偉い神様であるという事は俺でも知っている。


「アマテラスって日本の神様なんでしょ? 良かったじゃん」

「あー……えー……リリーの出身はどこなんだ?」

「カリフォルニア。アメリカだよ」

「だと北欧神話とかか……? あれだ、オーディンとかそういうくらいの」

「へぇ! それはすごい! ってなると……案外日本じゃトンでもない神様なんだ」


 意外そうな表情を浮かべながら彼女はアマテラスを見る。

 しばらくの間、リリーと他愛のない雑談をしていたのだが、不意に何かを決心したかのように俺の方を真っ直ぐと見つめて言葉を繋げた。


「ここで巡り合ったのも何かの縁だろうしさ、これから組んで動かない?」

「組んでって……一時的じゃなく、固定パーティーって事か?」

「そう、街の冒険者と組んで動く事もあったんだけどさ……例のスキルのせいかどうにも合わなくてさ、だから」


 誰かと共に行動するというのはメリットが大きい。

 だが、それは息が合っていればという前提の上で成り立つものであり、主人公補正プレイヤーのようなスキルであったり、考え方の違い等によってはかえってデメリットとなってしまう場合も少なくはない。


「一応条件はあるけど、いい?」

「言ってみて?」

「そうだな……合わせづらいって思ったらナシって形で、ゲームではよくあった事だし」

「それ……ゲームに限った話じゃないよ。それだけ?」

「パッと浮かぶのはそれくらいだな。あ……冒険者になれたらって前提な」

「それなら問題ないと思うよ、すんなり通るものだったしさ」


 彼女はどこか儚げで、どこか脆く崩れてしまいそうな、そんな表情を浮かべていた。


「今日はもう遅いですし、村に泊まってくださいませ」


 いつの間にか近付いてきていた村長が俺達へと声をかけた。

 襲撃されてそんな余裕は無いだろうと断ったが、今ここで立ち去って魔物を引き連れて戻って来られても問題だというリリーの提案もあり、俺達は厄介となる事となった。

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