第9話
村の中は酷い有様だった。
塀に近い方の家は特に破損が酷く、割れた窓からボロボロになったカーテンがゆらめいており、子供がいたのだろうか、ぬいぐるみがワタが飛び出た状態で転がっている。
ソファを敵に見立てているのか、うがいをするような笑い声を立てながら緑色の皮膚を持つ魔物、ゴブリンが武器を意味もなく振り回していたり、キッチンであったであろう場所で肉を貪るコボルトの姿もあった。
「キラキラ系ファンタジーからダークファンタジーへ急転落か……」
2匹を背後から仕留め、耳を澄ます。
村の中央の方から魔物の声が多く聞こえており、生存者がいるかは分からないが、俺はそっちの方へと向かう事にした。
「こいつは……」
大抵どの村や街にもある集会所となる大きな建物。そこに魔物達は群がっていた。
彼らは必死に壁やドアに向かって攻撃をしており、壁からは破片が飛び散っているもののよくよく見てみるとヒビすら入っていない。
「見た目的にはまだまだ大丈夫そうだけど……ゲーム的に考えると油断は出来なさそうだな」
耐久値に応じて破損テクスチャに変化する。というのが最近のゲームでは多い。
「アテナ、ガイドらしくクリア条件でも教えてくれ!」
「んな――ったく、多分この村の衛兵は中にいると思う! 建物がまだ大丈夫な理由は彼の防護魔法だろうね!」
「衛兵がいないってのはそういう事か……!」
俺達の住む村も衛兵は一人しかいない。ゲーム的に考えれば魔物を引き連れながら村に戻れば衛兵に処理してもらえる為、その稼ぎの対策と言えば納得できる。
しかし、ゲーム的ではなく現実的に考えれば愚の骨頂でしかない。もしも犯罪が起きても手が回らないだろうし、こうして襲撃が起こった時には対処が出来なくなって――。
「って、今はんな事考えてる場合じゃねえな!」
魔物は既に俺に気付いたらしく、俺へと向かって突撃を開始しているものもいた。
「よっと」
手のひらから放たれた光弾がコボルトへと命中し、軽く怯ませる。
攻撃をいなし、流れ作業のようにゴブリンやコボルトへと刃を振るう。
魔法を織り交ぜて相手を怯ませる事で、敵に同時に攻撃させないように立ち回る。カウンターを入れられる場面でも相手の武器を叩き落したり、腕や足といった部分を攻撃する程度にしてこちらの隙を最小限にする。
「壁を殴るのも大概にしろよ、魔物ども!」
光となって消えそうになっている魔物の武器を拾い、壁へと攻撃する魔物へと投げつける。
この世界でも道具や武器のドロップは存在しており、その場合はその魔物の持ち物が光とならずに残る。という形となっており、普通は武器も光となって消えてしまう。
しかし、魔物がまだ生きていたりして彼らの武器が残っている場合。それらを即席の武器として使う事は可能だ。不格好ではあるが投擲というのは立派な遠距離の攻撃手段となるのだ。
「大分片付いてきたね、そろそろ終わりかな?」
「知ってるか? そういうのをフラグって言うんだ」
アテナの発言に思わずツッコミを入れてしまうほどには余裕だ。
時として彼らの攻撃を受けてしまう事もあるが、そういった場合には殴られながら2、3匹をまとめて叩き斬っていたりと、今回ばかりは多少強引な動きもしているからだ。
「っし、コイツでラスト!」
最後の1匹を串刺しにし、もう視界内には魔物の姿は残っていない。
「いやあ、多かったねえ」
「だな、とりあえず中の人達に安全を――」
ノックしようとしたその時、今までとは違う気配を感じた。
これまでは何かがそこにいる。といった感覚だったのだが、今回はどこか背筋が強張るような緊張感のある気配だ。
「ボス戦……ってとこか?」
ポーチからポーションを取り出して一気に飲み干す。
気配はじりじりとこちらへと近寄ってきており、それが姿を見せるであろう建物の陰へと注意を集中させる。
そこから姿を見せたのは見慣れた赤毛だ。人間から奪った物なのかロングソードに革鎧と、俺と大差のない装備をしたコボルトがそこにいた。
「普通のコボルト……なわけないよな」
【レベル看破】のスキルの感覚ではコイツは俺よりもレベルが低く、先ほどまで相手していたコボルトやゴブリンとそう大差のないレベルだ。
しかし危機察知のスキルはコイツを明らかに危険だと認識しており、実際他の魔物とは違い、すぐに襲い掛かってくるような様子はなく、武器を構えてこちらを警戒しているようだ。
「お前がこいつらのリーダーか?」
俺の問いかけにコボルトは鼻にシワを寄せて唸って答える。
刀を顔近くに構え、体を相手に対して側面を向けるようにする。霞の構えと呼ばれる、よくハリウッドなどで使われる刀の構え方だ。
コボルトが先に地面を蹴り、一気に間合いを詰めてくる。
それに対応するように腰を捻り、刃をコボルトへと振り下ろした。
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