ゲームのような新世界~王道の通り冒険者で食っていこう~
てんねんはまち
【序章】ゲームと現実
第1話
「マジか……」
パソコンの前で俺はそうポツりと呟き、しばらく画面の前で硬直していた。
画面に表示されているのは一通のメール。
今回は"new world"クローズドアルファテストに応募していただきありがとうございます。
この度、当選いたしましたので参加する際に必要なプロダクトキーを添付いたします。期限内にご入力いただけなかった場合、無効となりますのでご注意ください。
VRMMOゲームのテスター当選のメールだ。
アルファテストという事もあり、バグもかなり多いと思われるが、公開されている動画からテクスチャの品質や操作性をはじめとするゲームの基礎的な部分で期待できそうな作品だ。
それ故にアルファテスト希望者は非常に多かったらしく、正直通るとは思っていなかったところだ。
早速キーを入力してゴーグルをつける。
ゲームを起動すると、まず現れたのはキャラクリエイトの画面だ。
様々な派閥があるが、俺は自キャラの性別は男にするタイプだ。せめてゲームの中でくらいはイケメンでいたいという悲しい理由ではあるが、ゲームが楽しければ何でもいいという考えだ。
とは言っても、デフォルトのプリセットから少しだけいじる程度のものだ。
髪を黒色にし、瞳の色を青色へと変更する。体つきは筋肉質にし、だからと言って外見は普通な程度に調整する。
基本的に俺のキャラクリはこの程度だ。
そして、キャラの名前を設定する。
「ん……?」
ゲームスタートのタイミングで何か違和感を感じたが、アルファテスト特有のバグか何かだろう。
読み込みが終わり、不意に目の前が眩しく照らされる。
目の前に広がるのは平原。まるで実写のように草1本1本が揺らめいており、実際に風を浴びているかのように思えるリアリティのあるサウンドに圧倒される。
「他のプレイヤーは……見た感じいないか」
見回してみるとすぐ近くに塀のようなものが見え、その長さから村ではないかと推測できた。
「やあやあ! 君がだね?」
「うおっ!?」
俺の目の前を高速で光の玉が横切ったかと思うと、どこからともなく活発そうな女の子の声が聞こえてきた。
「君のガイドを務めさせてもらうアテナちゃんだよ!」
「アテナって……あのギリシャ神話の?」
「そうそう! よく知ってるね!」
アテナを自称する光の玉は、まるで喜んでいるかのようにブンブンと上下に揺れている。
どうやらテンション高めの子らしく、俺が口を挟む間もなく言葉を繋げる。
「チュートリアルを説明するね! まず装備だけど最低限のものだけはもう自宅のチェストに入ってるから、まずは自宅に行こう!」
「マップの開き方とかは――」
そこまで口にして違和感に気付く。
まるで俺がこの世界で今まで生きてきたかのごとく、この辺りの地理が理解できている。あの柵の向こうには村があり、門から入って少ししたところに自宅がある。その周辺には雑貨屋や鍛冶屋もある非常に便利な立地の家だ。
さらにもう一つ違和感がある。このアテナという玉は恐らくNPCであるはずだ。
それなのに、マイク機能がデフォルトでオンになっているのはまだしも、選択肢によるものでもなく、ここまで自然に会話できているというのは革新的すぎるという事だ。
「ポーチの中にマップが入っているだろうから、それを見れば大丈夫だよ――おーい?」
「ああ……いや、何でもない」
今俺が使っているVRの環境は最新鋭の物だ。体を固定し、専用の靴を使う事で非常に滑る床の上を歩いて移動することが出来る。さらにコントローラーはグローブ状のもので、物を持つとロックがかかり、実際に持っているような抵抗を感じることが出来るという優れものだ。
しかし、頭の中に直接情報を送るような機能はなかったはずだ。
「行こー!」
「まあ……いいか」
恐らくこれはデジャヴと呼ばれるものだろう。まるで過去に同じような事があったように感じる現象のことだ。
「今から行くよ」
それにしてもよく出来たゲームだ、アルファテストとは思えないほど動作は安定しており、それでいてテクスチャが抜けているというようなこともない。
衛兵が立つ門を抜け、村の中へと入ろうとしたその時だ。
「――――?」
「……なんて?」
衛兵が何か話したようだが、その言語は少なくとも日本語ではないように思えた。
「――――」
「ま……いいか」
適当に笑って返しつつ、何語なのかを推測してみる。
ネットでよく耳にするのは中国語、韓国語、英語の3つが多い。しかし、先ほど耳にした言葉はそのどれとも違うような発音だったように感じる。
「なあアテナ、あれって何語だ?」
「んー、新世界語?」
「もう少し捻った答えが欲しかった」
「あはは、まだアルファテストだし、翻訳が間に合ってないんだよね」
少し沈み込み、いかにもしゅんとしている。
こういう時に何と声をかけるのがいいか、引きこもりがちな俺には分からない。NPCとは言えここまで普通に会話出来てしまうと申し訳なさを感じてしまう。
そんな流れを変えるためにも俺は急ぎ足で自宅へと入り、中を見回してみると中々立派な一軒家だ。
エアコンやパソコンは無いものの、落ち着いた木目に冬用の暖炉がいかにもな雰囲気を醸し出している。
「さて……ここが我が家か」
「そうそう! アイテムボックスはこっちね!」
アテナは元気を取り戻したようで、アイテムボックスのある方へとスイスイと進んでいく。
アイテムボックスに入っていたのは申し訳程度の防御力のあるレザーアーマーに、剣や斧、槍や弓といったオーソドックスなものから銃というファンタジーには似つかわしくないものまで入っていた。
「銃か……」
「この世界の銃はどっちかというと魔法武器だね。装薬が魔力で計算されるイメージかな!」
「随分とメタい事言うヤツだなあ」
「ま……世界観的にも俺は剣で行ってみるさ」
「何本か持って行って試すのもありだよ、まあ戦闘なんかしなくてもいい世界だし、好きにしてみるのがいいさ!」
ポーチにはとても槍や斧といった物は入りそうではなかったが、重さのステータスが武器を含めたアイテムに割り振られており、ポーチの容量が満杯になるまではサイズ不問で押し込めるようだ。
とりあえず剣と刀とダガー、そして銃をポーチにしまい、一度ログアウトすることにした。
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