第26話狂気のずれ

「う、嘘だろ」


僕は目の前の光景に絶望した。


なんで父さんの顔が


はっと我に返り気を失った、沙夜を抱き抱える。



「沙夜、沙夜」



「おい、ガキどもさがらんか」


あの刑事だ。



「刑事さん、それ、父さんです。僕の父さんです」



「なんだと、おい、お嬢ちゃんはどうしたんだ?」



「この光景をみて気絶しちゃったんです」



「とりあえず、事情を聞きたい、二人とも乗れるか?」


もう一人の刑事がパトカーに案内しようとする。



「ばか野郎、パトカーに乗せんな、この子たちは被害者だぞ、パトカーに乗せたら他のやつらに怪しまれるだろ、後ろの覆面にのせろ」



「す、すいません」


後輩の刑事があやまる。


この刑事に思いやりの心があったことに僕は驚いた。



とりあえず、僕らは車に乗った。


「事情は署内で聞くけど大丈夫か?あと、今現場の方も同時進行で調べてるから、教えられることは教えてやる。どうだ」



「わかりました。妹はどこかで休ませられますか?僕が話をします」


正直僕も倒れそうなくらい頭がくらくらしてたが仕方がない。



警察署に着いて、沙夜は女性警官に抱き抱えながら休憩室?に連れていかれた。



僕は取調室だ。



「わりぃな、こんなところで」



「いえ、大丈夫です」



「無理はするなよ、辛くなったらすぐに言え」



僕はおもわず、ふっと笑う



「おいおい、もうおかしくなったのか?」



「いえ、最初の印象と違ってずいぶんやさしいんだなって、あ、すいません失礼しました」



クスッと後輩の刑事が笑った。



「俺はやさしいんだよ。なんかあったらいつでもこい、安田って言えば俺しかいないからよ」



「はい、ありがとうございます、あのさっきの顔の件ですが、あれは間違いなく父さんです」



「そうか、お前の親父さんが死んだのは2週間くらいたったか?そういや、お袋さんは大丈夫か?」



「そうですね、2週間前にここに引っ越してきたので、でも…父さんの顔は…うっ、腐乱してなかった気がします」


僕は気分が悪くなってきた。



「おいおい、大丈夫か。おい、矢島水持ってこい」


矢島と言われた刑事は慌てて水を取りに行く。



「すいません、思い出したら気分が」



「仕方ねぇよ」



「ちょうど監察の方から連絡があったが、確かに腐乱もしてない、むしろ最近殺された可能性が高いって訳なんだが」



「え、でも刑事さんたちは父さんの遺体をみましたよね」



「そこなんだよ、持ち帰らせてもらった、親父さんの遺体は間違いなく親父さんだった、なのに顔だけ死亡時間にずれがあるってこった」



「それって顔は誰かが保存してたってことですか?」



「ああ、もはや狂気だな。これはまだ確定じゃないから妹さんには言うなよ。自殺なんていって悪かったな」



「いえ」


安田刑事の印象ががらりとかわったのと、父さんの遺体の違和感とで僕の頭はパニックだ。



「とりあえず、今話せることはこのくらいだ、お前さんからは何かあるか?」



「あの、今回の首なし殺人って前からあったんですか?」



意表をつかれたのか安田刑事が一瞬固まる。



「お前さんどこまで、知ってるんだ」



「5年前から同じような事件が起きてるってことくらいです」



「その通りだ、5年だ。だが今だに犯人は捕まってねぇし、今までは1年に1人同じように殺されていた。でも今年は人数がやばい」



「やっぱり5年前なんですね、ネットとかで調べても全然情報がないんです」



「この町はあまり有名じゃねぇからな、話題にならないんだろ?でもこないだマスコミの奴らが現れてからはSNSだっけか?そこらには書き込みがあるぞ」



SNS、その手があったか。



「そうなんですね」



「安田さん、妹さんが目を覚ましました、彼女からも話を聞きますか?」



「なに言ってるんだ、もうかえってもらうところだよ」



「すまねぇな、俺が送ってやるから許してくれ」



「そんな悪いですよ」



「ガキが遠慮するなよ」



沙夜が警察官に支えながら立っていた。



「お兄ちゃん」



「沙夜、大丈夫か?」



「う、うんなんとか」



「とりあえず帰ろう、刑事さんが送ってくれるって」



僕らは安田刑事の車に乗ることになった。


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