拙者

「あな口惜しや。捨てる命ならば、いっそ拾いたい」


 月明かりの下で咲き誇った一輪の花は

 譫言うわごとのように睦言むつごとのようにそれだけを繰り返す。


拙者せっしゃには叶わぬ。叶わぬことだ」


 離れがたいと重なったまま動かぬ影は

 ただ今宵一夜こよいひとよの夢を抱き

 ダンダラ模様の羽織をまとい静かに部屋を出た。


 武士の本懐ほんかいを遂げるため。

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