三種のカレー


 カレー作り勝負、そんなお題に対してコン君が出してきたカレーは少し意外なものだった。


 コン君のことだからお肉いっぱい、大好きな具いっぱいの子供が夢見るようなカレーを希望してくるもの……と、思い込んでいたのだけどそうではなく、以前俺が作って上げたオーソドックスなポークカレーだった。


 あのカレーも大きめの豚バラ肉をゴロゴロと使うので、お肉いっぱいではあるのだけど、野菜もしっかり入っていて……子供が夢見るカレーとは少し外れると思うのだけど、コン君的にはこれが一番美味しいカレーだったようだ。


 それはなんとも嬉しくなる話で……気合を入れて作ってあげたくなってくるなぁ。


 そしてさよりちゃんはバターナッツカレー。


 なんとも渋めの所を突いてきたなという印象だけど、どうやらさよりちゃんはバターカレーでなくナッツカレー……もっと言うならクルミやクリなんかを使ったカレーを食べたかったようだ。


 バターナッツカレーのナッツはカシューナッツで、クルミやクリを使うのは合うかどうか分からないギャンブルなのだけども……本人がとにかく試してみたいと言っていて、そういうことなら……ということになった。


 我が家のクリを使う以上、どうしたって甘くなるのは確定で……スパイシーなバターカレーとは少し相性が悪いように思えるけども、甘い野菜や果物を入れることは普通にある訳だし? 工夫次第でなんとかなる……はずだ。


 そしてフキちゃんは……紆余曲折を経てのフルーツカレーだ。


 最初フキちゃんは肉カレー……色々な肉ばかりが入ったカレーをご所望だったのだけど……まぁー、うん、それは無理かなとなった。


 肉というのはどんな肉でも臭みがあるものだ。


 一種類ならスパイスやハーブ、調理の工夫でなんとか出来るけども、それが何種類も重なるととんでもないことになる。


 臭みが消せず、しつこい癖が塊となり、えぐみが消えず脂はどっしり、食えたものではない。


 せっかくの甘みも旨味も消え失せ、ただただ肉の悪い部分だけが積み重なり……カレー粉の力でもそれをなんとかするのは難しい。


 肉が二種類だけならまだなんとかなるけども、三種類以上となると厳しく、野菜を入れないというのも問題だった。


 玉ネギ、ジャガイモ、ニンジン。


 カレーと聞いて思い浮かぶそれらの野菜は、甘みがあって旨味があって、カレーの美味しさを構築するためにかなりの役割を担っていて……これらなくして美味しいカレーの完成は不可能に近い。


 それなりのスパイスや調味料を駆使したなら可能だろうけど、そこまでするくらいなら最初から野菜を入れた方が、コスパ的にも良いというものだ。


 そういう訳で肉カレーを却下すると、次にフキちゃんが食べてみたいと言ったのがフルーツカレーだった。


 フルーツカレー……フルーツをたくさん使った甘く爽やかなカレーで、中々悪くない組み立てだったりする。


 バナナ、リンゴ、キウイ、パイナップル。


 これらから良さそうのを組み合わせて、やや辛いカレーに入れて、飽きが来ないようにいくらかのナッツを加えると美味しい出来上がりとなる。


 辛いのが苦手な人でも辛さのあるカレーを楽しめるし、いっそ一切辛くなくしても美味しいしで中々悪くない。


 ご飯ではなくナンやパンで食べても美味しく、ナッツやブロックチーズ入りの歯ごたえのあるパンとかで食べるとかなりのごちそうになってくれる。


「と、言う訳で三種類のカレー、皆で作っていくよー」


 諸々の準備が終わり、下拵えも完了し、道具も揃った所でそう声を上げて、台所に集合した皆に指示を出していく。


「コン君は豚バラ肉が焦げないようヘラで肉を転がしてもらって、さよりちゃんはクルミの下煎りを、フキちゃんは果物の下拵を引き続きお願いします。

 野菜はある程度雑でも良いけど、果物は丁寧に皮剥いてヘタとって……味や食感の邪魔になる部分を残さないようにね」


 割烹着姿のコン君とさよりちゃん、エプロン姿のフキちゃんと応援のテチさん。


 メインが俺がやっていくのだけども、皆にもしっかり手伝ってもらうつもりで……ちょっとした家庭科の授業みたいなものに出来ればなと思う。


 テーブルの上にカセットコンロを置いて、コン君にはそこで作業をしてもらって、さよりちゃんもテーブル上のカセットコンロで。


 フキちゃんは流し台で作業してもらい……俺は味の調整をメインに行う。


 使うルーの選定や量を決めて……ついでに追加で入れる調味料も用意して。


 テチさんには俺の手伝いをしてもらい……皆でワイワイと作業を進めていく。


「焦げないように焦げないように……すっごい美味しそうな匂いがしてくる! じゅーじゅーいってる!」


「クルミってどれくらい炒ったら良いんですか? 終わったらクリも炒ります?」


 コン君とさよりちゃんがそんな声を上げて料理を楽しむ中、最初は渋い顔をしていたフキちゃんも、下拵えが終わって本格的な調理が開始となると笑顔が増えてきて……自然と言葉も増えてくる。


「美味しそうな匂い……あ、そのスパイスなんです? スーパーで売ってるやつ? 

 えっと、あたし辛いのはいまいちなんで控えめが良いかな」


「了解……!

 果物は軽く火を入れるだけで良いから、入れるのは後回しにしよっか。

 それよりもホームベーカリーの確認お願い、クルミとチーズたっぷり入れたから焼き上がるまで時間かかるかもなんだよねぇ」


 フキちゃんの言葉にそう返すとフキちゃんはホームベーカリーの確認をし……のぞき窓からじぃっと中の様子を見やり、良い焼き上がりなのだろう笑みを浮かべる。


「……フキは料理が得意みたいだから、料理中心でやっていけばすぐに家事を楽しめるようになるんじゃないか?」


 手伝ってくれているテチさんからも弾む声が上がり……そうやって楽しみながら、たっぷり時間をかけての調理実習が完了となる。


 出来上がった三種類のカレーを盛り付けて、配膳して……それから実食タイムとなる。


「一応勝負だからそのつもりで、一番美味しいと思ったカレーにあとで投票してもらうからね。

 まー……なんとなく結果は見えているけど、とりあえずそんな感じでカレーを楽しむとしようか。

 いただきます!」


『いただきます!』


 そう挨拶をしたならスプーンを手に取り……ちゃぶ台と追加で用意したミニテーブルいっぱいに広がるカレーを、全員で一斉にそれぞれの口に運び込むのだった。



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