第19話 外の花とのギャップがなあ……
「相変わらずムービーはテンション上がるな。自分の体が動かないってのがほんとに良い」
せっかくムービーが入っても自分が自由に動けるので勝手に攻撃を始めることが出来たりとか、そもそもボスモンスターに対面したりしてもムービーが全く入らないゲームもあったりする。
ゲームの雰囲気によっては、未知の相手に挑むという感じでムービーが無かったりモンスターが特殊モーションをするだけというのも良いのだが、ダンジョンに入るときに特殊ムービーがあると『これから挑むのだ』という感じがあってかっこいいのだ。
「あれはワープポータルになってたのか」
ただアーチがあるだけに見えたが、起動すると別の空間、つまりダンジョンへと繋がる門となるようだ。もしかしたらこのゲームの逸話や裏設定では、あれは魔法の門か何かになっているのかもしれない。
「壁、になってるのか。ぶち抜けないんかな《ファイア・ボール》」
道の幅は二メートルほどで、左右を高い蔓の生け垣に挟まれている。壁が植物なので試しに魔法を打ち込んでみたが、焦げ跡一つ残さず防がれた。剣でも攻撃してみるが、生け垣が崩れることはない。
「登り系のスキルがあれば登れるかもしれんが、まあまだスキル枠は空けとこうか」
おそらくこの道を進んでいくタイプのダンジョンなのだろう。プレイヤーによっては壁を乗り越えたりする人もいるのだろうが、俺はあくまで平凡に行く。
「ってガブちゃんおらんぞ。《コール・ガブちゃん》」
ガブちゃんの不在に気づいて呼び出すと、腰にぶら下げていたモンスターストーンからガブちゃんが飛び出してきた。
「おーダンジョン入ると勝手に帰還させられるんか。うーりうり、ダンジョンやぞー」
首のあたりをワシャワシャっとすると、気持ちよさそうに目を細める。今日もガブちゃんは可愛い。
「うるさい、別に知能レベル下がってない。どうせ皆可愛い動物見たら俺みたいになるだろ」
コメントで『ガブちゃん好きすぎ』『知能レベルが良い感じに下がってるなあ』といった内容がたくさん送られてくる。確かにガブちゃんが可愛いので接し方は幼くなってしまっているが、知能レベルが下がっているわけではない。
「はいはい、じゃあ攻略するよ。ガブちゃんも行くぞー」
このゲームのダンジョンはそれぞれに様々な要素を持っているが、例外なくボス部屋というダンジョンの主が住む部屋と宝箱という様々なアイテムが出現する箱が存在している。
ダンジョンの規模やレベルに応じてそれぞれの数はまちまちだが、基本的にはそれらを探しながら奥へと進んでいくことになる。
「これ迷路っぽいなあ」
しばらくガブちゃんと歩いてみるが、モンスターと遭遇する事は無い。いつもならモンスターを見つけるとガブちゃんが警戒を始めるので、モンスターが隠れているのではなく本当に居ないということなのだろう。
また道がいくつにも分かれており色々な方向へと伸びている。基本的に直線ばかりのつくりだが、そこそこに曲がり角や分かれ道があるので、もはや自分がどうやってここまで来たか覚えていない。
「マップも開いてないな。これもしかしてマッピング必須かこのダンジョン」
メニュー画面から確認するが、ダンジョンに入ってから俺が歩いた道のりは記録されていない。ただ俺の居場所を示す光の点が、広い空白の中にポツリとあるだけだ。
「迷ったぞガブちゃん。どうする」
いざとなれば帰還の魔法を使って花の村や街にワープすることは出来る。だがその場合は、またダンジョンの入口からやり直しになるのだ。
しばらく悩みながら歩いていると、ガブちゃんが道の奥に向かって吠え始める。
「なにかあるのか?」
俺が警戒しながら進むと、ガブちゃんの鳴き声は更に激しくなる。そして少し進んだ所で、道の脇にあった大きめの花がゆらりと揺れた。
ここまでの道のりでも道には様々な花が咲いていたのだが、それはひときわ大きく、一輪だけ開いている花の大きさは直径三〇センチほどもある。
それが大きく揺れると、地面から触手らしきものが飛び出して俺の方へと伸びてきた。それを見た俺は、冷静に剣で触手を弾いて飛び下がる。
「植物系のダンジョンね。まあコンセプト的に当然か」
ガブちゃんが俺の前に飛び出し、俺が身構えている眼の前で、植物は体を大きく揺すりながら地中に埋まっていた部分を引きずり出す。
大きな赤い花を持つ植物。その正体は、胴体である大きな丸い膨らみと、そこから生える大量の触手を持つモンスターだった。
膨らみの部分がぱくりと開いて口らしき部分が覗く。お世辞にも可愛いとはいえない、はっきり言えば気持ち悪い見た目だ。
「気持ち悪い見た目だな。これを花畑のダンジョンで出すか? 楽しめんくなるだろ」
俺の遠回しな侮辱に対して、植物型モンスターは触手による叩きつけで応えた。
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