第57話 中編

 歩くこと数日、辿り着いたのは現代風の体育館だった。どして?


「はえぇ、広いわね……」

 アホっぽく口を開けて呆けるムーン。


 全員で立ち尽くしていると白いモヤモヤが塊となり、お化けのような姿を現す。


『ハロハロ~、僕ちんどんな幽霊だと思う~?』

 大きい口を広げて長い舌をべろんべろんと揺らしている。


「知らないけど早くしてもらえるかしら? 疲れているのよ」

「まったくだぜ……この階層にどんだけ時間かけんだよ」

「――もう――上――行こう――」

 三人のエルフの文句を聞き流し、俺は考える。


 奴の後ろにはドッジボールのボールがたくさん入った籠があり、奴の視線の先は屋根に注がれている。

 俺も屋根を見ると、鉄骨? の間にボールが挟まっていた。

(どんな学校にも挟まってんだよなぁ……)


「――あれと何か関係がお有りで?」

『その通り~、僕ちんはあのドッジボールの幽霊なのよ~』

 なんだよドッジボールの幽霊って。


「どうすれば成仏するのですか?」

『あれを取ってくれたら~成仏できるのよ~』


 要するに後ろのボールを投げて取れってことか。


「そうと決まればやるのです、ますた」

 メルナはやる気満々である。


「まあ待ってください、こういうのは取ろうとボールを投げたらそれが挟まるのがオチです。メルナの跳躍力なら余裕で届くでしょう?」

「ぶーぶーなのです」

「……不貞腐れないでくださいよ」


 そう言いつつも命令通りに飛び上がり、屋根にぶつかることなく止まってボールを殴り飛ばした。

 ちゃんと力加減を解って飛べるのは凄いな。


『すごいのね~、消えるのね~』

 呆気なく幽霊は成仏していった。

 それで良いのか幽霊。


 しかし怪談っぽいのが最初の音楽室だけだったのはどう言うこった?




 そこから数時間歩いたところの通路にポツンと階段があった。なにがヤバいって上の階に続いている訳では無く、途中で止まっている。

 なにこれ?


「なんか階段の前に居るわ」

「なんだ? さっきと似たような奴だな」

「――そうね――」

「また似たような内容なのです?」

 流石に疲れてきたのか全員イラついている。


『この階段は不思議なのぉ』

 幽霊は言う。


「どういったことがですか?」

『上るときと下りる時で段数が変わるのぉ』

 久しぶりに怪談っぽいのが来たな。


「怖いのです」

「どういう原理かしら?」

「取りあえず上ってみようぜ!」

 そう言って彼女は駆け上がる。


「――十三段だ、よし下りるぜ」

 マーズはゆさゆさ揺らしながら降りてくる。


「やっべー! 十四段あったぜ!!」

 すっごい驚いた顔してらっしゃる。


「確かに不思議ね……」

「不思議なのです」

「――不思議――」

 確かに王道っぽい感じだけどさ……。


「単純に上るときには床を数えて無く、下りる時には数えてるってオチでは?」

「「「「『……その発想は無かった』」」」」

 あって欲しかったわ。


『じゃあ消えるのぉ』

 成仏していく幽霊。それに合わせて階段も消えた。


「――ま、まあこれであと三つですね。今回は緑のピアスと紺のベストですか……なんか効果のある装備なんですかね」

「着けてみても何も起きないしね」


 近くの教室に入ると、宝箱があり中にはリンゴが入っていた。それを全員で食べながら手にした装備を確認する。


「――木の棒辺りは微妙だけど、この斧は使えそうね」

「つっても微妙な事には変わりねーよ」

「幽霊が落としたものが使える装備なら良いんですけどね」

 意外とこの階は宝箱がたくさんあり、食料と装備が溜まってきた。

 ジュピターが居ることで食料が完璧に保存できるのが良い。


「次に何かありそうな場所はどの辺なの?」

「――ここから――数キロ離れた――場所に――開けた場所がある――」

「次はそこか、行くか?」

「そうですね、まだ体力に余裕がありますから行きますか」




 歩くこと二時間ほどでまるで中庭の様なところに出た。空が見えるがホログラムか何かか?

 中央の芝生の中に一本の大きな木があり、その下に女性の幽霊が居た。


『これは伝説の木、この下で告白すると結ばれる、その伝説を私に見せて』

 あるあるだけどよ、怪談かそれ?


「どうするの?」

「簡単じゃないですか、てきとうに告白して受けて置けば完了でしょうに」

「まあフリでいいもんな、じゃあ俺がやるか?」

「頼みます」


 マーズはムーンの腕を引っ張り木の下に連れていくと、告白を始めた。


「俺と付き合えよ」

「……ムカつく告白ね、まあよろしく」

 これって大丈夫なのか?


『キマシタワー!!!!!!!!』

「うおっ!? って成仏したんですか……」

 興奮しながら女性の幽霊は消えていった。その下には黒色の指輪があった。


 俺は拾いながら未だに木の下に居る二人を見た。

 なぜか二人は手を繋いでいた。


「なぜ手を繋いでる、です?」

「――仲良し?――」

 二人に聞かれても、マーズたちは頬を赤めながら繋がっている。


「……本当に付き合うか」

「……そうね」

「「「!?」」」

 伝説の木、恐るべし……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る