第8話 バンビーニ・メートル

 ハロウィン収穫祭の夜。

 とある家族が特注の荷車カート宿り子たち命と愛を乗せ、"モール・モース"の渦中を突き進んでいた。

 前部に陣取る樹霊種ドライアドの長女は身体を広げ、荷車カートを"モール・モース"から守っている。

「でも意外ね」

「何が?」

 "モール・モース"を払い除けながらこぼした長女の言葉を、母が拾った。

 土霊種ノームの母は、宿り子たちに囲まれながら、時折降ってくる"モール・モース"をこうもり傘で防いでいた。

「父さんがこんなバカ騒ぎバカ騒ぎに乗っかることが」

「何か言ったか?」

 と父。

「何でもない」

 石霊種ドワーフである父は教師であり、その厳格な性格から慕われると同時に畏れられてもいた。その父は現在、全力でカートを漕ぎ続けている。

「そこまで不思議なことではないでしょ。次女息子その夫のためでもあるんだから。あなたもそろそろいい出会いがあればいいわね」

「それは大きなお世話」

 ぶっきらぼうに返した彼女には、結婚した妹がいる。

 相手の男は、どこか捉えどころのない不思議な魅力を持っており、父もそこに魅かれたのか、家族も拍子抜けするほどあっさりとその男を迎え入れた。

 父の息子となった男は、今やハロウィンの夢ナイトメアと呼ばれていた。

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