第二話:供述
え? アイドルを何故殺したかって理由ですか?
ところで刑事さん、貴方には尊い存在っています?
例えばお子さんとかいらっしゃるとか。
あ、娘さんが二人いらっしゃると。
それは何より尊いでしょうねえ。
何歳ですか? 8歳。へぇ、それはもう可愛い時期じゃないですか。
え? 色々ませてきて大変だと。そうなんですか。
僕は子供が居ないからよくわからないですけど、成長を見るのは楽しいでしょうねえ。
アイドルもある意味同じなんですよ。
僕が応援してきた
下積み時代の地下でライブやってた時なんか、観客は僕しか居ませんでしたよ。
どんな時も僕はライブがあるとなったら欠かさず応援に行ってました。
最初は誰も居なかったライブ。
寂しいですよね。
でも一人だと、僕だけの為にライブをやってるって錯覚するんですよ。
決してそんなわけはないんですが。
でもあの時の方が、アイドルを応援してる! って思えましたね。
グッズも全部買って、アルバムが出たら何枚も買って周りの人に配布して、SNSで宣伝したり、それはもう色々やりましたよ。
ユウちゃん、レイちゃんは本当に頑張り屋で可愛い子らでした。
健気でね、客が少なくてもちゃんと一所懸命にやってたんです。
だから昨今の人気があるんだと思いますよ。
え? そう言うのは良いからさっさと動機を言えって?
全くせっかちだなあ。これだから警察ってのは嫌なんですよ。
ともかく、アイドルってのは成長していくものです。
まあ成長していくのは何でもそうですが。中には成長できずに雛のままその生涯を終えてしまうものもありますけどね。というか大多数じゃないですか?
有象無象のアイドルやバンドが、志半ばに解散して居なくなる。
悲しい事ですね。
そんな中、大成長できた
これ以上の尊い瞬間なんかありますか?
刑事さんの娘さんに例えたら、手塩に育てた娘が立派な大人に成長したもんでしょう。
その娘が誰かの所に嫁ぐなんてなったらどうなります?
相手が同じくらいかそれ以上に立派な奴じゃないと嫌ですよね。
いや、例え立派な奴でも手放したくはない。
そんな感情はありませんか? ありますよね。
僕も同じなんです。
全く同じじゃあないかもしれませんが、手塩にかけて育てたようなもんじゃないですか。
地下ライブ時代から見続けて来たグループが、世界に羽ばたくような存在に成長した。
これ以降に望めるものは何ですか?
ワールドツアーなんておまけみたいなもんです。
アルバムやグッズを売り上げる?
そんなもの、いずれは頭打ちになって下降線を辿るでしょう。
まして下積み時代が長かったんだ。
年齢的にはだいぶアイドルとしては危うい。
もう輝きを失いつつあるんですよ。彼女らは。
じゃあどうするかというと、その輝いている瞬間で止めるしかない訳です。
今この最大級に輝いている時で、終わりにする。
そうしたら彼女たちは永遠になる。
尊さが維持される。
永遠にその時で人々の記憶に残るんです。
実際私は実行した。
彼女たちをこの手で殺し、その肉体を型に取って保存しました。
映像にも残しました。
最も美しい瞬間をね。
ああ、たぶん探せば出てくると思いますよ。パソコンの中にデータ入れてますし。
もっとも、世界中に拡散しておいたので無意味かもしれませんが。
頭を抱えていますね。
もっとも、僕の動機があなた方に理解されるとは思ってませんが。
同じファンなら理解する人もいるかもしれませんがね。
だってそうでしょう。
アイドルだって同じ人間です。いずれ老いて、輝きは失う。
尊さは失せて僕らと同じ等身大の人間に戻ってしまう。
アイドルは偶像なんです。
僕らの願いを、祈りを叶えてくれる存在でなければアイドルとは言えないのですから。
そんなところです。
後は勝手にまとめて下さって結構ですよ。多分死刑でしょう?
弁護士が頑張ったら無期懲役かもしれませんが、僕としてはどちらでもいいですし。
人生において僕の役割はこれだったんだとようやくわかりましたからね。
もうこれ以上、やるべき事はない。
え? まだなんか聞きたい事があるんです?
アイちゃんを殺さなかったのは何故かって?
やだなあ。そんな事聞いて何になるってんですか?
そんなもの、既に「尊い存在じゃない」からに決まってるじゃないですか。
僕は尊い存在を永遠に残したかったんです。
既に尊さを失ったゴミクズに価値なんてありません。
アイドルに必要なものは処女性、そして幻想です。
彼女はそんな基本すら理解していなかった。
ま、すぐにわかりますよ。
以上です。
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