第13話 反撃
「ちょっとみんな~、聞いてね~」
モクレンさんから、私たち四人に手短に作戦がテレパシーで伝えられた。なんと、内容は私にも伝わってきた。……実に良い案だ。「ボタン大丈夫?」と、モクレンさんが心配そうにボタンに声をかける。ボタンは水色の瞳をキョロ、キョロっと私とキキョウさんに巡らせて震えている。
「二人分のエネルギーだとしても、きっとあと少しで隙ができる、ボタン頑張れるよね?」
キキョウさんの言葉に、ボタンは唇を噛み締めて震えを止めると頷いた。
「わかったぁ!」
「アンタはやればできる子だから……」
その返事がいじらしく思えて、私は痛む身体で無理して笑ってみせた。
「さっきそれぇ、モクレンさんにも言われたよ」
ボタンは吹き出して笑った。
「さてさて次よ~、3・2・1、行け!!」
モクレンさんの言う通り、不意に騒音が止んだ。グラウンドの土煙の中、七人がどうなったか上空の二人は様子を伺っているのだろう。そこへ目掛けてキキョウさんが腕を振り上げる。『それ』が仮面の二人めがけて飛んで行った。
「く!」
金髪の少女は、手のひらにエネルギーをためて直接『それ』に打ち下ろす。小さく爆発して、粉々に砕け散ったのは……エンジンつきのナデシコの車椅子であった。再びキキョウさんが掬い上げるように何かを上空へ飛ばす。
「小賢しい!」
再びエネルギーを打ち下ろす、が。
「な……っ!」
煙を掻き分けて飛んで行ったのはボタンだった。キキョウさんの念動力によって二人の元まで飛んだのだ。躊躇した仮面の少女の手が触れる直前、ボタンの体は二人の前から掻き消えた。テレポートだ。消える瞬間、ボタンがにやりと笑ったのが見えた気がした。
次の瞬間、煙幕に隠れていたキキョウさんが銀髪の少女の方に、烈な蹴りを食らわせた。金髪の方は、テレポートによってまた出現したボタンの右ストレートをまともに食らう。金髪の少女の白い仮面が、一部飛び散ったのが遠目にも見えた。憐れなボタンは、そのまま落ちて行く。
「くそ!」
金髪の少女は、仮面が砕けた目元部分を必死で隠す。
「……一旦、引きましょう♪」
「次は……本当に殺すからね♫」
あーちゃんに先刻受けたダメージも相当応えたのか、仮面の二人は、きらきらの髪の毛を翻すと、あっさり闇に紛れて見えなくなって行った。
「ボタン!」
砂埃の中、ボタンは腰をさすりながらむっくりと起き上がった。彼女は落ちる直前に一度パッと消えて、地面から三十センチくらいのところに現れて衝撃を和らげていた。しかし三十センチでもグラウンドの上に落ちるのは痛いはずだ。
「イテテテ、腰から落ちちゃったぁ!」
キキョウさんがゆっくりと地上に降りて来た。
「二人は?」
問いかけに私は目線で答える。ナデシコとユリは寄り添うように眠っていた。あーちゃんによるユリへの治癒は、どうやら完了していたようだ。キキョウさんはそれを確認して、こちらに振り返った。
「さて、どうしようか」
「……タケさんにはまだ渡せない!」
力強く言い切る私を、四人は驚いて見つめる。キキョウさんが何か言いたげに唇を震わせたが、結局は何も言えやしなかった。私の様子を見つめてボタンが私の背にそっと彼女の手を添えた。それに励まされるように私は続ける。
「こんな怪我して、危ない目に遭って……警察が知ってること、学園のこと、もっと詳しく聞く必要がある」
「そーだね……」
今にも眠りそうなあーちゃんが小さく頷いた。ナデシコとユリの寝顔を見つめながら、闇はよりいっそう暗く深くなり、私たちをそれぞれ包んでいった。
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