第9話 消えた受験生たち
* * *
タケさんの言う通り、私たちは五人全員『国立ジャパン学園』の編入テストに合格した。はっきり言ってテストはさっぱりだった。それぞれの編入する学年レベルでテスト(スマートタブレットに筆記)は行われたわけなのだが……。
犬歯を剥き出して唸るナツメ、わたわたと狼狽えるボタン、静かに目を瞑って天を仰ぐ
モクレンさんだけが黙々とペンを進める筆記音が、試験室に響いているのが印象的だった。白い万年筆(とは言っても、タブレットペンとしての機能も備えている)は自前のようで、金色の美しい筆記体が踊っているのが目の端にうつった(直後、私はキョロキョロし過ぎて試験監督に注意を受けることとなる)。
私たちが内在している、『
* * *
「だから100%って言ったじゃん」
試験のあと、例のビルでタケさんがそれ見たことか、という『どや顔』をして私たちを待っていた。このビルは彼の力で守られているらしく、例の地図のように、彼の力が及んだものを持っていないと、辿り着けないらしい。
私たちは最初の日に『承認』が済んでいるから大丈夫なのだが、一般人は『認知』も出来ないと彼は言っていた。建物に入れても、例の応接室がある高層階には『承認』された者しかエレベーターは止まらない。
「変な学園だろ? 学力が全く足りていないお前らが全員受かっちゃうんだぜ」
「確かに変ですよね。ものすごい倍率って聞いてたのに」
「いや、倍率は確かに高いね」
ナツメはしかめっ面でタケさんに歩み寄る。
「じゃあ、あの学校の人はみんな、私たちみたいに能力者だって言うんですか?」
「君たちの世代で超能力者じゃない子どもは、逆に稀だね」
私たちには意外な答えだった。皆に逢うまでは私も、自分だけが特別なのだと思っていたから。
「確かに君たちみたいに能力がはっきり『自覚有り』で目覚めてる人材は貴重だよ」
タケさんはそう言ってウィンクして続ける。
「インフルエンザみたいなもんでさ、菌は体内に実は常にあって、ようは『発症』していないみたいなもんなのさ。しかも君たちの能力だって全て、目覚めているってわけじゃあないしなぁ」
四人の驚いた顔を見つめて、タケさんはいやに満足そうだ。
「いいか? 20××年くらいから生まれてくる子供たちのほとんどが、超能力……すなわち
タケさんはそこで溜め息をついた。
「問題は君たちぐらい、いやそれ以上の能力を内在している子供たちもいるってことなんだ」
「私たち以上~……」
モクレンさんが確かめるように呟いた。みんな呆気にとられた表情だ。でもあーちゃんだけは口閉じてください! 顎が心配!!
「君たちみたいに力を自覚して、目覚めちゃってる子供たちよりずっと使い道があるんだよね。『乾電池』みたいなもんでね」
「つまり学園は……」
「あぁ、学園はそんな子供たちを集めてる。何でだか分からないけれど女の子ばっかりをね。本人たちは学力で受かったと思ってるんだろうな。なぜだかは分からないけど知能の高い少女たちほど潜在能力が高いんだ」
『君たちはホント珍しい』といった顔をしている。時々本当に腹が立ちますね、この人。
「り、利用目的は何なんですかぁ?」
ボタンはすっかり怯えきって、長いまつ毛をパシパシと瞬いた。タケさんはお手上げといったジェスチャーをした。
「それを君たちに探ってもらうんだよ。これが『警察』に所属する俺からの協力依頼になります」
『警察?』『どうやって?』、私たちは不安気に顔を見合わせる。
「実は、毎年受験生が大量に失踪しているんだ。これがまた女子部だけってのが何つーか、いやらしいよね」
「受験生が?」
「そう、受験に向かった少女ばかりが結構な割合で消えている。最初は不遇なコロニーからの脱出に、受験を利用しているんだと思ってたんだけど……しかしどうにもおかしくてね。それというのも男子部にそう言った話がないんだ。行方不明者が出ても、すぐにその行き先は判明している」
タケさんは、ようやくと私たちの潜入の目的を明確に言った。
タケさんは『警察』に属している。私たちは警察に集められたわけだ。『国立ジャパン学園』を受験した少女が行方不明になっている。私たちはその謎を解明するために、これから学園へ通う。
そして話は今朝に戻る。
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