第15話 治したい
「治らなくても怒らないでね。それと、この部屋で起きた事と私たちの事は誰にも喋っちゃだめよ?下の階には騎士さんも来てるけど、その人にも喋っちゃダメ。もう来れなくなっちゃうかもしれないから」
子供たちが頷くのを確認し、一番日常生活に困るであろう目の見えない幼児エミーの前に立つ。目が見えないという『状態異常』を回復するのだ。両目を覆うように両手を重ねて、治れと念じる。手が温かくなってきた。
「目が見えないのはいつから?」
「おととし、まちがえてあたまから沼にはまっちゃって、沼からでれたけど目がみえなくな……えっ?まぶしい。…みえそうだよ?」
エミーがそう言うので両手を目から外すと、エミーは目をきょろきょろと動かして周りを見ていた。
「みえる!みえるよ!わたしにもおねえちゃんがみえる!」
エミーは嬉しそうな表情を浮かべると隣にいた子供たちと喜び合っていた。視力を失ったのが思ったよりも最近だったからか、見える事に対しての戸惑いはないみたい。でもそのセリフはどこかで聞いたことあるからやめて。
次は右手首から先がないエリオットの前に立つ。彼は自分から右手を差し出してきた。その手の断面はすでに塞がっており、かなり古いものに見える。この子はまだ子供だから赤ちゃんの時くらいに切り落とされたのだろうか。彼の手首に手を添えて治るように念じる。手が温かくなり、熱いくらいになってきた。目を治す時よりも念を込めないと治らない気がする。集中していると、手を添えた手首の辺りだけが強く光り出した。
なくなっていた手首から先が再生していく。手の甲が出来て、指が一本ずつ生えていく。子供たちは息をのみながらその光景を見ていて、誰も言葉を発さない。指が生えそろい、爪が揃ったあたりで強い光はおさまり手の熱もおさまった。エリオットは生えそろった指を開いたり握ったりして感触を確かめている。
「タケ、全身を光らせて治すのとその部位だけ光らせて治すの、違いはあったか?」
「アリアさんの腕を生やした時よりも今のほうが、込める力が少ない気がしたかな。目を治した時はそんなに力を込めなくても良かった。でもよくわかんない。」
「形があるものを治すほうが楽なのかもしれんな」
ケンはメモに何やらたくさん書き付けている。手が再生したエリオットは涙を流しながらアリアさんと抱き合っていた。腕が生えた者同士の友情か何かですか。彼らを横目で見ながら足の腫れているファルの足元にしゃがみ込む。両足のふくらはぎがパンパンに腫れていて、もともと細いはずなのに足だけ倍くらいに膨れている。たしか内蔵のどこかが悪いと、足がむくむって聞いたことがある。ということは足と内臓を治すことになるのか?
両足にそれぞれ手を置いて、治れと念じてみる。手が温かくなり足が光り出した。光はそのまま全身を包むように広がって、全身が強く光った後やがて光は治まった。足は元の細さと思われるガリガリに戻っている。全身が光ったという事はやはり内臓からくる腫れだったのだろうか。
「へへ、おれ光っちまったぜ!」
「あ!そういえば、みんな痛かったりしてない?光ってる時どんな感覚なの?」
「あったかい」
「タケ様の手があったかくてふわってなる」
「あついけどきもちいい」
痛みがないようで良かった。完全に失念していた。体が光って手だって生えるんだから、熱かったり痛かったりする可能性もあるのにすっかり頭から飛んでいた。彼らの言葉を信じるなら、今のところ痛くはないみたいで一安心だ。
最後は右足首がない幼児ミュゼの前にしゃがみ込む。靴を脱いで足を見せてくれたので、ふくらはぎの辺りを持って念じる。この子も断面は塞がっていて古い傷のようだった。治れと念じると足首が黄色く光り、足の甲や指が生えてくる。指が生えそろうと光がおさまった。急に体がどっと疲れた感じがして、今日はこれ以上の事はできないなと本能で悟った。
「おいタケ、指四本しかないぞ」
「あれっ?!なんで?!失敗しちゃったの?どうしよう!」
「途中でMPが尽きたとかか?もっかいやったら生えるのか?」
「それが、今日はもうできそうにないの。急に疲れちゃって」
「やっぱMP上限あったか!ええと今日治した人数は…」
ケンが紙を見ながらぶつぶつ呟きだし私が慌てていると、ミュゼがおずおずと話し出した。
「あの、わたしもとからよっつしかないの。うまれたときによっつしかなくて、それでおかしいからって足をきられたの」
「生まれつき四本だった?」
「そうなの。こっちだけよっつで、こっちはいつつなの。みんなとちがうの」
「先天性なものは治らない……?」
「生まれたときから指が無いのが『正常』と認識されているとしたら、見た目は欠損でも『異常』にはならないということか?」
また考えることが増えてしまった。持ち帰ってシモンさんに相談しよう。子供たちは治った体に喜び、私たちを囲みながら口々にお礼を言ってくる。ケンも頭を撫でてくれた。ドキドキするから爽やかな笑顔を向けるでない。
「さっきも言ったけど、ナイショだからね!それと、今日治った所が変になったり動かなくなったりしたらすぐに神父様に言ってね」
「わかった」「ないしょ」「光ったこといいたい」「きをつける」
もう力も尽きたし子供たちと一緒に階下へと降りることにした。騎士さんたちは元々の子供の状態を見ていないから、毒状態を解除した事にしておこう。私の両手とケンの両手は子供たちにそれぞれつながれている。この痩せ細った手をぷくぷくに太らせることが当面の目標かな。
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