鏡の国ナルキッソス   ♤

「ナルキッソスって知ってる?神話に出てくるあの少年」

「ああ。水面に映った自分に恋して死んだ」

「溺れてね。自分しか愛せない可哀想な奴」

「でも本当にそうだったのかな」

「本当は違ってた?」

「ナルキッソスはアフロディーテに、誰のものにもならない呪いをかけられてた」

「ナルキッソスは孤独だったろうな」

「ずっと独りだよ?」

「映った姿が側にいてくれる誰かだと思っても」

「不思議じゃないよね」

「そして手を伸ばして掴もうとして」

「そう、溺れて死んだんだ」

「それに比べて僕らは幸せだ」

「君がいるものね」

「まっすぐ僕を見て話しかけてくれる」

「そして話を聞いてくれる」

「ナルキッソスも話すだけにすればよかったのに」

「…それは無理だな」

「触れたくなる」

「ほら僕だって、こうして君に手を伸ばして…」

「ああ、このガラスがなかったらな。君に触れられるのに」

「ほら手のひらが合った。ぴったり」

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