第126話 過去の黒歴史を知る者たち
だだっ広いだけの公園で、20人以上もの人数で花火をすることになるとは思わなんだ。
俺たちは男6人女6人だが、あかねたちはあかね以外は9人の男だ。男女比ひでーな。あかねの逆ハーレムか。
まあたしかに、あかねは曽羽ほどじゃねーけど身長高めで、足が長くてスタイルいいし顔もそこそこかわいい。
しかも出し惜しみしないタイプで、今も肩がざっくり出た胸元をのぞき込みたくなるようなフリルのブラウスにデニムのショートパンツと言う、絶妙な露出とオシャレ感。
このもっさい男たちには女神に見えてんだろーな。だがしかし、俺的にはロリ顔でもねえのに髪をツインテールにしてるのが似合ってない残念女子だ。
「入谷、学校で全然会えへんねー」
あかねが俺の花火から自分の持つ花火に火を付ける。
「あかね1年の時7組だったから廊下でも会うことなかったもんな。今何組だっけ?」
「うち4組」
「夏休み終わったら4組なくなってんじゃねーの?」
笑って冗談を言ったけど、我が下山手高校なら有り得る。
「いらんこと言わんとってよ! ほんまになるかもしらんやん。愛しの彼ピッピとクラス離れるとか絶対イヤ!」
「お前、彼氏いるんだ?」
「おるよー、知らんかった? 4組の
「知らねー。4組誰ひとり知らねえ」
「うちがおるやろ!」
「お前も知らねえ」
「ひどいわー。入谷のヤツひどいで、渉!」
近くにいた渉にあかねが訴える。
てかコイツ、愛しの彼ピッピがいるのに男引き連れて遊んでんの? 俺なら発狂してる自信あるわ。心広いな、斉藤 翼。知らんけど。
「下山手マジで女子のレベルやべーんだな。あんな美人もあんなかわいい子もひとりたりとも俺の学校にはいねーわ。あんな美人見たことねーよ、やべー。他の女子もうちの学校なら絶対モテる。あかねがザコに見えてくる」
「ザコって何やねん!」
渉の耳にはあかねの訴えなんぞ聞こえていなかったらしい。
実際、あかねは下山手ではかわいい女子の話題で名前が上がることはない。この中なら叶、曽羽、あとはせいぜい実来くらいか。中学時代はそこそこモテてたのに高校ではモテねえもんだから渉の学校の男で自尊心を満たしているんだろーか。なんと悲しき逆ハーレム。
「話しかけねーの? あんな美人もあんなかわいい子も話しかけられて無視するような子じゃねーよ? もう2度と会えないかもしんねーのにいいの?」
「無理! 行きたいけど、無理! あんなん話しかけられんの自由人くらいだろ!」
正解! 俺も無理だったが充里が行った。
ふふん、なんか知らんが俺が鼻高々な気分だわ。うちの女子すげーだろ、渉!
このもっさい男たちの中には叶と曽羽に話しかける勇気を持つ猛者はいないのか、ふたりで話しながら楽しそうに花火をしている。
見回してみると、充里は駿と知らねー男2人と向中島と吉永と花火してて、佐伯は津田と実来と知らん男たち3人と、仲野と行村は友姫と知らん男たち2人とそれぞれゆるくグループになってる。
友姫にまで話しかける男がいるのか。まあ、体はデカいが顔は悪くねーもんな。マザゴリが即デレデレになったくらいには。
てか、マザゴリ叶を追いかけて来たくらい理想は高いのに迫られると弱いんだな。
「こんなかわいい女子がいっぱいいるのに硬派な魅惑の男なんかかわいそー。中学ん時は羨ましかったけど、かわいそー入谷ー」
「んな訳ねーだろ。硬派どころか俺からガンガン行った彼女がいるわ」
「彼女いるの?! 入谷が?!」
余りにも渉がデカい声を出すもんだから、みんながこっちを向く。叶まで見てんじゃねーか、このバカ!
「えー! マジで?! 入谷、彼女いんの?!」
駿も大声で驚いてる。うっせえ、お前ら。
「なんでこんなに驚かれてんだ? もしかして、入谷って中学の時はモテてなかったんじゃねーの。いきってるくせに高校デビューかよ、ダッセー」
「誰が高校デビューじゃい、ふざけんなマザゴリ。いきってんのはお前の顔面なんだよ、このボケ」
仲野の表情が明るくなるのを見て、あーしまった、やっちまったな、と思う。
「変わってねーな、入谷。えー、彼女どんな女なんだよー」
「もしかして、この中にいる?!」
「いる! いるから、いらんこと言うなよ、お前ら!」
こんな所で黒歴史暴露されてたまるか! 彼女が叶だとバレない方がいいかもしんない。嫉妬から何暴露されるか分かんねえ。
「えー、誰誰?」
「あのふたりはさすがに入谷でも無理だろうから、他の子だよな、きっと」
無理ってなんだ、失礼な。たしかになかなか無理だったけれども。諦めない心で見事に落としたわ!
叶は赤くなってうつむいている。よし、見つかりませんよーに!
見回す駿と渉に、
「統基の彼女なら比嘉だよー」
と自由人がいらんことを言う。
「誰が比嘉なのか分かんねーんだよ!」
そりゃそうだ。初対面なのに自己紹介もせずに適当に花火大会が始まっている。
「あかね、知ってんだろ?!」
「ふん、しーらない」
なんだ? あかね態度悪ぃな。
「比嘉さーん手ぇ上げてー」
渉が呼びかけると、叶は本当にごくわずか手のひらを持ち上げた。よし! いい感じだ、叶。超恥ずかしがり屋で良かった!
「叶、あの人が呼んでるよ。比嘉さーんって」
いらんこと言うな、天然!
曽羽が叶の肩に手を置きながら言ったものだから、明らかに叶が比嘉さんだとバレてしまった。
「え――! あの人なの?! 入谷なんかがなんであんな美人と付き合えんだよ?!」
「うわー、リア充死ね!」
ひでーなコイツら。暴露話されるよりはマシだけど。
「ムカつくー。中学の時は付き合いもしねーくせに女子に声かけまくって遊びまくって高校入ったらあんな美人と付き合ってるとかマジムカつく」
「学年問わずかわいい女子はべらせて入谷組とか言ってたようなヤツがあんな人を彼女にできるとかマジ死ね!」
暴露話もされるのかよ! 最悪だわ!
「帰ろ帰ろ。花火も無くなったし、心の灯りも無くなったし。あー、風呂入って寝たい」
「寝て忘れよ。あかね、帰るぞー」
「ほな、またねー」
あいつら、片付けもせずにゾロゾロと帰って行きやがった!
みんなが片付けを始める中、叶がちょこちょことやって来た。……なんでしょーか。
「たしかに、彼女はいなくて女友達が多かったみたいね」
「お……おう、俺叶に嘘なんか言わないって誓ってるからね」
「小学生の時だけじゃなくて、ひどい中学生だったみたいね」
小学校では奴隷をはべらせ、中学校ではかわいい女子をはべらせ、みたいな?
「俺、お前に出会えて良かった。叶を好きになったおかげで、俺は真人間になれたんだ。ありがとう、叶」
叶の手を取り、真剣に伝える。
「な……なんでそんなことを真顔で言えるのよ、統基は! こっちが恥ずかしい」
叶が真っ赤になってうつむく。
「本当のことしか言ってねえんだもん。恥ずかしいことは何も言ってない」
ただなんか、少しずつ自分が軽薄な人間になっていってるような気がしなくもない。マジで本当のことしか言ってねえのに、なぜなんだ。
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