第75話 情報屋なかわいい後輩の登場
今日は始業式だけだから、2年1組の教室でだいぶしゃべってたのにまだ11時半を過ぎたくらいだ。
みんなで昼飯食いに行こうぜーって言ってるけど、比嘉が家にお母さんの作ってくれたごはんがあるから食べなきゃ、って言うから俺と比嘉は先に帰ることにした。
帰る前にトイレ行こうってそれぞれトイレに行った。先に出て来た俺がトイレの前で比嘉を待っていると、廊下を真っ直ぐに知らない女子生徒が走って来た。知らない子だから意に介さずスマホをポケットから出したら、
「入谷先輩!」
と声を掛けて来た。
「……はい?」
先輩? 1年生かな? ゆるふわで茶髪のボブの髪に、小さな丸顔でなんか目がキラッキラしててかわいい子だ。かなり背が低い。大して身長ない俺を見上げて来る。
「めっちゃ探してたんです! 中学の時からずっと好きだったんですけど、伝えられなかったから高校で再会したら絶対に思いを伝えようって決めてたんです! ずっと、中1の頃から好きでした!」
「……へ? 好き? 俺のこと?」
まだ俺のことを好きな女子もいたのか……1年生だから、俺が比嘉と付き合ってることを知らんのか。
てか、こんな低い位置からもこんな近い位置からもこんな元気いっぱいな告白もされたことない。比嘉がいなきゃ思わず勢いにつられて付き合ってたかもしれない。何この小ささ。無性に蹂躙したくなる。いや、違う、それはダメだ。無性に支配欲に駆られる。無性に征服欲に駆られ言いたいことがたくさん頭に湧いてくる。いやいやいや、ダメダメダメダメ!
「あ、いや、悪いけど――」
「知ってます。彼女いるんですよね。名前は比嘉 叶。名付け親は父方の祖父。誕生日は4月18日。今年の誕生日は日曜日ですね。血液型はA型。身長154センチ、体重は極秘事項。靴のサイズは右足の方がやや大きいから右足に合わせて23センチ。視力両目とも1.0以上のA判定。去年の歯科検診の結果は治療済みが6本。……合ってますか?」
……は……?
「いや、俺も知らない情報が多くて判定できないんだけど! なんで入学して来たばっかりでそんなに比嘉のこと知ってんの?」
「入谷先輩が好きだからです」
……両手を口元に添えている腕が俺の胸に当たっている。真下から上目遣いで真っ直ぐ俺を見つめている。……何この子、かわいい……。
「私、情報を集めるのが得意なんです。今日1日でこれだけ集まりました!」
「すげーな! どうやって集めたの?」
「それはナイショです!」
人差し指を立てて笑う。……何?! めっちゃかわいいんだけど?!
「お待たせー……」
と笑顔でトイレから出て来た比嘉が俺から距離を置いて立ち止まった。
なんで?! なんでいつもみたいに隣に来てくれないの?! もしかして、この1年女子が俺にくっ付いてるせい?!
「俺も知らない子! 知らない子だから!」
「……知らない子? あなた……えーと……名前は?」
比嘉に不審に思われてる?! 俺、マジでこんな子知らないから!
「
「ですって」
「知らない! マジで俺知らない! 嵯峨根なんて特徴的な苗字なのに聞いたことない! 俺比嘉に嘘なんて絶対言わないって言っただろ?!」
必死に訴える。マジで本当に本気で知らない子なんだって! たしかに、ドS心をくすぐられるけど、あまりにもかわいいけど、知らない子なのは本当だから!
「嵯峨根さん! 嵯峨根さんも言ってたように! 俺には彼女がいるから! 名前は比嘉 叶。名付け親は父方の祖父。誕生日は4月18日。今年の誕生日は日曜日。血液型はA型。身長154センチ、体重は極秘事項。靴のサイズは右足の方がやや大きいから右足に合わせて23センチ。視力両目とも1.0以上のA判定。去年の歯科検診の結果は治療済みが6本な彼女がいるから!」
「……私そんなことまで入谷に言ってないよね? て言うか、私の名付け親っておじいちゃんなの? なんで知ってるのよ、キモいんだけど」
……彼氏ですらキモがられる情報をこの子はどうやってたった1日で調べたってんだ?!
入谷先輩、また明日ーと、それだけで去ってかないでちゃんと色々説明して?! って勢いで嵯峨根さんが去ってった。マジでやめて?! 疑惑だけ残して去るなよ!
「比嘉、ほんとに俺――」
必死な俺に比嘉が抱きついて来た。いつも俺がベッタリくっ付くのに、比嘉が腕を回してくる。めちゃくちゃドキドキするんだけど……。
「旅行……」
「旅行?」
「私の誕生日に、旅行……行きたい」
「お! ずっと行きたいとこないからいいって言ってたのに、行きたいとこできたの? どこ?」
「……えーと……水族館! 私、水族館に行きたい!」
「水族館?」
まあ、たしかに遠いけど、ほぼ端から端まで電車乗ることになるけど電車1本で行けるから日帰りで行けない距離でもない。
「水族館でいいの?」
「いいの。私ラッコが泳いでる所が見たい」
「え、ラッコって泳ぐの?」
「泳ぐよ。しかも泳ぎ速いらしいの」
と比嘉が笑った。俺……本当に絶対、比嘉に嘘なんて言わない。都合の悪いことは天音さんの如くわざわざ言わないけど、俺は比嘉に嘘は絶対に言わない。
それが今の俺が自然と得たポリシーだ。
前ポリシーは付け焼き刃だったせいかあっさり崩壊したけど、このポリシーは何が何でも守ってみせる!
共働きで親不在の比嘉の家に上がらせてもらって、比嘉の部屋の床に座って比嘉にチューしながら改めて決意を新たにする。
まーだ顔赤くなるんだから。かっわいいの。全く、いつになったら年相応に成長するんだ、比嘉は。
……え……
真っ赤な顔をした比嘉から俺の唇に唇をつけてくる。初めて、比嘉からチューされた! 何回もチューはしてるのに、ドキドキが加速する。
唇を離すと、じっと俺の目を見て、やっぱり恥ずかしいのか俺の胸元に頭をつけてうつむいた。……いや……チューされた上にこんなにくっつかれたら理性飛びそうなんだけど?! いや、ダメだ。比嘉に手ぇ出すなんて、お父さんが許しません!
「もー、比嘉ー、こんなんされたら俺比嘉のこと押し倒すよー」
冗談ぽく言いながら比嘉を抱きしめる。ぜんっぜん冗談じゃ、ねーけどな。
……あれ? 比嘉が抵抗しない。
「え? 押し倒していいってこと?」
比嘉の両腕をつかんで距離をあけ顔を見る。爆発すんじゃないかってくらいに赤い。俺の顔を見てくれない。ああ、絶句してただけか。危ねー。確認もしないで押し倒したりしないで良かった……。
夕方、バイトの時間が近付いてきた。
「俺、今日早くバイト行かないと。ちょっと早いけどもう行くね」
「え、そうなの? バイトがんばってね」
比嘉の家の玄関で比嘉を抱きしめてチューをする。
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
比嘉が笑って手を振る。おー、なんか新婚さんみたいじゃね? あー、かわいい。シーサーまでかわいく見えてくる。
早足でひろしへと向かう。早く行って、天音さんに聞きたいことがある。
「おはようございまーす!」
ひろしの引き戸を開け、カウンターで微笑む店長に元気にあいさつをする。
階段を上り事務所に入ると、天音さんは俺がバイト初日だった日のように背を向けてエプロンを着けていた。腰まである長い髪が印象的だ。あの長い髪をシーツに広げたい。
「おはよう、天音さん」
「あ、おはよう」
天音さんが振り向いて笑う。
「ねえ天音さん、今週の土曜日空いてる?」
「あー……ごめん、今週は無理なの」
「えー、俺来週無理なんだよ」
「ごめんね、統基」
「あ、いや、いいけど」
いいかなあ。俺この状態で来週比嘉と旅行するのか……バイトを終え、家に帰ってまずホテルを予約する。水族館近くのホテルは……まだ空きがある。2人……ん? ベッド1つか2つか選べるのか。
え、これ1つ選んどいて当日あれー、ベッド2つを予約したつもりだったんだけどー、とか言ったら比嘉と同じベッドで寝れたりする?! ……ベッド2つで予約完了。
こんな状態で比嘉と同じベッドになんか寝れるか! お父さんが許しません!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます