第68話 普通の幸せって何だろう

「あ! お年玉!」


 孝寿の言葉にホスト三兄弟が大事なことを思い出したらしい。ポケットやらバッグからポチ袋を取り出した。おお! ホストからのお年玉なら1万円札入ってたりしねーかなあ?!


「あけましておめでとう、廉」


 と、ホスト達はやっぱりまず廉からだ。隣で微動だにしない孝寿に


「孝寿兄ちゃん、お年玉ねーの?」


 と、余りにも辱められてちょっとくらいは仕返したくて常に金のない孝寿に言った。


「へー、もう一度お年玉あげていいんだ?」


 と孝寿が前髪に手を掛ける。


「いらん! そのお年玉は子供にあげて! 取っといて!」


「あはは! もらっとけよ、統基ー。はい、あけましておめでとう」


 亮河が笑ってポチ袋を差し出してくる。


「ありがとう! 亮河兄ちゃん!」


 と期待に胸膨らませて受け取ったけど、なんか、厚くねえか? 言っても兄弟だし、やっぱり1万円はねえかー、千円札で5000円かな? 3000円てことはねーよな?


 慶斗、悠真からもお年玉を受け取り、中を見ようとしたら廉が


「1万円だ!」


 と嬉しそうに1万円札を3枚持って飛び跳ねた。え? 廉だけ1万円?! なんだよー、廉がかわいいのは仕方ないけど、俺の方がだいぶ年上なのに……。


 さすがに扱いの差に傷付くわ。金額とか数字で差ー付けるのってひどくない? ポチ袋から中身を出すと、1万円札が5枚入っていた。え?! 他の2人のポチ袋からも、万札5枚。


「お前ら金銭感覚ぶっ壊れてるな! お年玉に5万て! どんだけ非常識なんだよ! 俺が時給いくらでバイトしてると思ってんだ! 労働意欲が削がれるわ!」


「え? 多すぎた? たしかに嫁にも多すぎない? って言われたんだよね。悪い悪い、減らすわ」


 と亮河が手を出してくるけど、減らされてたまるか!


「減らさんでいい! ありがとう! お兄ちゃんみんな超ありがとう! やったあ! 比嘉との小旅行を豪華にできる! ありがとう!」


「え? 旅行って何? 統基、比嘉さんと旅行行くの?」


 ソファの肘置きに肘をついてムスッとしてた孝寿が笑顔になって俺を見た。


「あけましておめでとう、孝寿」


 と亮河がポチ袋を孝寿に差し出す。孝寿が100倍笑顔になった。


「俺にもあるの?! マジで?! 10万だ! マジで?!」


「まあ、まだ学生だからな」


「子供生まれたら何かと金かかるしな」


 慶斗、悠真も孝寿にポチ袋を渡している。……え……孝寿、正月ってだけで30万ももらったの?!


 やっぱり金銭感覚ぶっ壊れてんな、コイツら!


「30万とかずっるーい、孝寿兄ちゃん」


「何、15万。お前高校生でそれ超大金だからな。お前今からそんな金持ってたら金銭感覚ぶっ壊れるぞ」


 それは異議ねえわ。けど大学生の30万もおかしいだろ、多分。


「なあ統基。お互いにお互いを監視しよう。パンピーとしておかしい金の使い方しだしたらお互い遠慮なく指摘しよう。俺はホストになる気はねーんだよ」


「なったらパンピー感覚必要なく稼ぐとは思うけどな。分かった、俺も比嘉に親父がホストなことは言ってねえし、金銭感覚狂いたくない」


「隠してんの? お前」


「隠してる訳じゃねーよ。ただ親の職業聞かれたことがないだけで。俺も比嘉の親が何してんのか知らねーもん」


 珍しく、孝寿が真面目な顔で俺を真正面から見た。……何?


「お前さ、年上の女の存在とかあるけどさ、そんなんなくとも普通に父親ホストで異母兄弟がこんだけいるって時点でたいがいだからな。俺の奥さんは元々親戚だから元からパパがホストなのは知ってたけど、兄弟こんだけいたって報告したら奥さんたいがい引いてたからな」


 ……そうか。そうかもしれない。俺にはホストって職業は身近なものだけど、テレビで特集されてんのとか観てホストってそんなイメージなの? ってなったこともある。


 比嘉はホストなんて縁がなさそうだ。俺だって親と兄がホストなだけで他にホストの知り合いなんていない。比嘉に隠してるつもりは特になかったけど、話す気になったこともない。


 ひとり娘のためなら沖縄から転勤して来るくらい娘を溺愛してる比嘉の親なんて更にハードル高そうだ。比嘉の両親がホストの親兄弟のいる俺との交際を喜ぶとは思えねえよな……。


 遥さんも、再度の話し合いでも比嘉父から結婚を喜んではもらえなかったらしい。きっと、比嘉の両親はすごく常識的な人なんだろう。普通の幸せを追ってほしいって遥さんへの言葉は、まんま比嘉にも向けられるだろう。


 ……普通の幸せって何だろう。その基準が遥さんと同じく男と結婚して子供産んでってことなら、俺は十分普通だ。でも多分、男なら誰でもいいってことはないだろうな。普通の男を求められると、俺の家庭環境は比嘉の家庭環境と比べると普通じゃない。


 俺と同じ立場であるはずの兄貴達は幸せそうだけどな。


「考え込ませちゃったか。年明け早々悪かったな」


 悪かったな、と言いながら申し訳なさそうな顔は全然してない。むしろ孝寿は笑ってる。


「なあ孝寿兄ちゃん、幸せ?」


「俺入信しねーよ」


「勧誘じゃねーわ!」


「幸せに決まってんだろー。写真見る? うちの子超―――かわいいの」


 聞かなくても分かり切ってる奴に聞いちゃったな。年明け早々親バカモード発動させちゃったよ。

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