第26話 勉強を教える時は生徒の弱点を知れ

 少しは気持ちが落ち着いた。絶対兄貴達のおかげじゃねえ、肉食ったら落ち着いた。スマホを手に取る。昨日帰って来てから見てないわ。あ、いや、歓迎会から見てないか。こんな長時間スマホ放置するなんて珍しい。何か、来てるかな……。


 恐る恐る、ロックを解除する。あ! 比嘉から来てる!


「数学って教科書24ページまでって書いてるけど、まとめ問題の途中じゃない? これ合ってるの? 先生、まちがえてない?」


 あの馬鹿、先生ちゃんと訂正してたよ! 何ページまでだっけ?


 急いで2階の自分の部屋に入り、カバンから試験範囲の表を出して確認する。あ、そうだ、42ページまでだ。


「遅くなって悪い。42ページまでだよ」


 昨日の夜、ちょうど橋本さんといた時間にメッセージが来ていた。いつもなら、お風呂上がって比嘉とやり取りする頃だ……。


「遅い! もう愛良に聞いたわよ。何してたのよ」


 いきなり核心ついてくるな! 言えるか!


「結婚した兄貴達と集まって飯食っててさ」


 今、何してたか聞かれたことにして答えた。別に、昨夜何してたのかと書かれてる訳じゃない。比嘉が知りたいのは今俺が何してたかかもしれない。


「じゃあ仕方ないわね。ちゃんと勉強もしなさいよ」


 お前だよ。あ、でも、数学の範囲確認してたってことは勉強しようとしてたんだ?


「比嘉はちゃんと勉強してたんだ? えらいじゃん」


「でしょ」


「ワーク写メってみてよ」


 コイツはやってても間違ってるまま突っ走ってる時あるからな。チェックしねーと。


 ……あー、やっぱりか……。


「お前、やりっ放しじゃダメだよ、丸つけしないと。使う公式全部まちがってるよ、これ」


「全部?」


「あ、全部ではないかも? 1番の問題は絶対まちがってる」


「えー、どれ使うのか分からないんだけど」


 ……正直、俺もよく分からん。あ、兄貴に聞こう。亮河兄ちゃん、そこそこ頭いい高校に通ってたって言ってたし。


 比嘉がやってたワークを持って、下に降りる。


 あ、孝寿以外はもう飯終わったみたいだな。亮河はソファだ。その隣に慶斗が廉を膝に乗せてなんか食わせてて、横に悠真も座っている。


「お兄ちゃん、このどら焼き美味しいよ!」


「どんどん食えよー、廉ー」


「俺もデザート持って来てるからな、廉!」


 どら焼きは悠真が買って来たのか。センターテーブルには亮河が買って来たのであろうオシャレなチーズケーキもある。コイツらみんなして廉に食いもん持って来てるな。貢物か。


「亮河兄ちゃん、数学教えてよ」


「数学? 高1の数学なんか覚えてねーよ! 俺もう30だぞ!」


「えー。じゃあ、悠真兄ちゃん、覚えてる?」


「俺、高校ん時から覚えてない」


「だよなー」


「だよなーってなんだよ!」


「慶斗兄ちゃんなんか、分かる訳ねーよな?」


「分かる訳ねーな!」


 言い切られたよ。どうすっかな。孝寿が1番年近いし大学生だし、分かるかな? まだ食ってるけど、聞いてみるか。


「孝寿兄ちゃん、数学教えてよ」


「あー、そろそろテストの時期かー」


 孝寿が箸を置いてワークを手に取り、パラパラめくる。


「懐かしー。どこが分かんねーの?」


 お! この反応は、勉強できるのか?! 孝寿!


「これこれ」


「お前これ、全然やった形跡ねえじゃん。あー、さては、分かんねーのは比嘉さんか。比嘉さんに教えてやりたい訳だな、統基」


 鋭い! 鋭過ぎる! 最早何の説明もいらねえ!


「比嘉が解いたのがこれなんだけど、なんか変なのは分かるけど、何が間違ってるのか分かんねーんだよ」


 比嘉の写メを見せると、孝寿がげー、とやる気ゼロな声を出す。


「あったま悪そうな字だな。あー、この子、累乗を理解してないんじゃね? 累乗の説明してやって、カッコの中か外かとマイナスの記号の位置に気を付けろって言えば公式使わなくても8割解けるんじゃね?」


「8割も?! ちょっと待って、なんて送ればいい?」


 もう完全に俺の言葉じゃなく、孝寿の言うままメッセージを作る。ほー、なるほどね。俺もやっと理解できたわ。送信!


「てかこれ、高校の範囲だっけ? 中学でやる内容じゃねーの? 覚えてねーけど」


「まあまあ、うちの高校のレベルからしたら十分ムズいんだよ」


 ついでに、俺もワークをやっとく。テストも近けりゃ提出日も近い。俺もこれ終わらせないと。


 分かんねー所をまだ食べてる孝寿に聞きながら2ページほど終わった所で、比嘉から写メが届いた。大問1の計算問題6問、全部解いている。


「お! 孝寿兄ちゃん、これできてんじゃね?」


 と、孝寿に見せる。


「できてっけど、計算問題だけでこんなに時間かかってんじゃダメだわ。テストで時間足りねーよ。やっぱり公式覚えさせた方がいいな。この上2つの公式の違う所を強調して教えてやれよ。覚えさせたら下の2つも違いを理解させろ」


「ほう。違いを?」


「多分、この子違いに気付くのが苦手なんだわ。漢字変に覚えてたりしない? この似てる2つの公式のどこが違うのかを教えなきゃ、ただ覚えろって言っても同じ公式に見えてあやふやになると思う。4つまとめて覚えさせるのもダメだな。似たような公式2つってアバウトに覚えて1つも使えねー。比嘉さんの弱点を理解して教えてやらねーと」


「すげー! 先生みたいだな、孝寿!」


「俺、塾講師のバイトしてるんだよ。俺が教えてるのは小学生だけどな」


「なるほどね。比嘉小学生レベルだからちょうどいいんだ!」


 そうか、比嘉の弱点である違いを教えるってことに気を付ければ、比嘉を2年生にできるかもしれない! よし、ビシバシティーチャーするか!

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