20 彼女の可愛いいたずら心
まあ、家が擬人化するわけも無く、立花が家に居るという事なのですがどういう事でしょうか。
いや、上がっていいと俺は言いましたけれども。
俺の考えでは、家に上がるっていうのは料理を置いて帰るみたいな感じで捉えていたんだけど。
全然家に居てもらっていいんだよ?でも家に帰ってすぐに目も眩むような少女が居ると心臓がどきどきしてしまうんだが。
俺は心を落ち着かせて、立花に話しかける。
「えーっと。なんで立花が家に居るんだ?」
「も、もしかしてお邪魔でしたか…?」
「いや、そんなことは全くない」
俺がそう即答すると、立花は透き通るような白い頬を赤く染めて、俯いてしまう。
「というか、料理を届けて帰るんじゃないのか?普通に考えて他人の男の家に上がるだけでも嫌だと思うんだが…」
前は上がってもらったが、あれは心配して入っただけで、普段から男の家に入るなんて嫌だろう。
さっさと料理を置いて帰ったのだと思ったのだが。
立花は俺の発言を聞くと、少し顔を上げて上目遣いという形で俺と目を合わせる。
「た…確かに、知らない男の人のお家に上がるというのは嫌です…。ですが結城さんは知らない人ではありません」
「とても私に優しくしてくれます…し…。そ、それに…」
立花は消える様な声で、それにと続けようとする。
だが立花は顔をさらに赤くし、膝まであるスカートを両手でぎゅっと握って、また俯いて口を噤んでしまった。
「それに、何だ?」
「な、なんでもありません…!」
立花はこれ以上話してくれないようだ。
俺は諦めて、周りを見渡す。
別に立花が何か悪いことをするとは思っていないが、なんだか違和感がある気がする。
この家に美少女がいる事すら違和感なのだが、なんだかもっと不自然なことがある気がする。
俺は周りの風景を見渡すが、いつも通りの内装である。
原点に戻るように立花を見る。
今日の立花は珍しくスカートを履いていて、先程ぎゅっと握っていた。
本当に珍しいな。立花が私服でスカートを着るなんて。
…あれ?私服?
「えっ?」
思わず声に出てしまった。
今日の立花は私服ではなく、学校の制服なのだ。
普段は私服で料理を届けてくれるのに、今日は家に居るどころか制服である。
違和感の正体はこれだったのだ。
というかなんで今日は私服じゃなくて制服なんだ?
「どうかしましたか?」
立花は俺の突然の反応に、少し不思議そうに尋ねてくる。
「い、いや今日は制服なんだなって」
「制服ですか?今日はスーパーに寄ってすぐにここに来ましたから」
えっなんで?一回家に帰るんじゃないの?
俺がまた不思議そうにしていると、立花は少しいたずらをする前の子供の様に、微かに笑って俺に話しかけてきた。
「この格好、似合ってませんか?」
「いやめちゃくちゃ似合っていて可愛い」
俺がまた即答すると、立花は少し余裕そうな笑みではなくなり、ぽふっと顔を一気に赤くする。
そしてまた顔を赤くして、俯いてしまった。
だが完全に下を向くのではなく、上目遣いと言った形を俺を見上げている。
急にどうしたんだと思えば、立花が少し睨むように見つめて来る。
「…どうしたんだよ急に」
「…ゆ、結城さんは、ずるいです」
「な、なんで!?」
立花はそういうと、また口を閉じてしまった。
やばいやばい、何がずるいのか分からないけどとても可愛い。
さっきから心臓の音がうるさい。
俺は無理やり心を落ち着かせて、立花は口を開きそうにないので話題を振ることにした。
「た、立花。なんで今日は家に居たんだ?」
「それは…その…」
立花は少し恥ずかしそうに、俺と目を逸らして少しもじもじしている。
そしてまた口を閉じてしまった。
なんでまた口を閉じてしまうんだよ…。
俺は立花の話の続きをじっと待っていると、立花はほんの少しずつ、口を開いた。
「…そ、その。結城さんは、色々してくれるし、働くって頑張ろうとしてるじゃないですか…。それに私の事を気遣って一緒に帰ってくれるから、料理が冷たくなってしまうかなって思って…その…結城さんのために、料理を作って待っていました…」
そして立花は、「台所を勝手に使ってごめんなさい」と謝った。
俺はその話を聞いて、いつの日かの様に、立花に心配されて話しかけられるまで、思考の再起動に時間を要したのであった。
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