08 彼女に買った物
俺は昨日言った通り学校が終わってすぐ、最寄りのスーパーへ手伝いに行った。
何をあげるか、自分の手持ちと考えながら手伝いをしていた。
商品を並べたり、トラックから荷物を降ろしたりと、色々疲れた。
もうあと十分くらいしたら、今日は帰ろうかなと思っていた時。
「なあ葵君」
突然店長が声を掛けてきた。
「はい、なんでしょう」
「葵君は今、何か悩んでいないかい?」
「悩んでいること、ですか」
「そう。なんだか何時もの葵君じゃなくて、何か考え事をしているような顔だったんだよ」
すごいな、この店長さん。
俺の表情から悩んでいるってところまで見抜いちゃった。
「まあ、そうですね」
「それは何に悩んでいるんだい?」
うーん、これは言うべきなのか。
まあ言っても大丈夫か。
「実はご近所さんに料理を分けてもらったんですけど、お礼に何かあげたいなって思ってまして。でもお金が無いもんだから何をあげようかなって考えていました」
あはは、と最後に笑いながら悩んでいたことを話した。
店長さんは、俺の話を聞くと自分の財布から千円を俺に渡してきた。
「えっ。どうしたんですか」
「葵君がお金に困ってるのは前から知ってたし、今回はお礼をしたいんでしょ?お金が無くてあげたい物もあげれないなんて、そんなの可哀想じゃないか」
なんだか同情されてしまったようだ。
でも店長さんの優しさに、今少しうるっときた。
「それに、普段から手伝ってもらってるしね。ささ、おにぎり五十円にしとくから、さっさと買ってプレゼント買いに行っておいで」
「本当にありがとうございます。また手伝いに来ますね!」
そう言うと、店長さんは笑って奥の部屋に入っていった。
おにぎりを今日も百円で二個買い、俺はスーパーを出たのだった。
☆
さて、何を買おうか。
立花がくまが好きっていうのも昨日知ったけど…。
くまのボールペンとか?あとはストラップとかかな?
女子に対してプレゼントを買うなんて、幼い頃に母の誕生日に買った以外ない。
こういうところでモテる奴は違うんだろうなあ。
そう思いながら商店街を歩いていると、なんだか丁度よさそうな店があった。
普段来たことがないし、あんまり目に留めなかったけど、今日は行ってみるか。
俺が入ってみたのは、色んな小物が売っている雑貨屋。
千円以内で買えて、立花が喜びそうなプレゼントをこの中から選ぶわけだが、正直何が彼女に良いのか全く分からない。
立花の好みなんてくま以外わかんないし、困ったものだ。
よくわからないので、適当に見回す。
「おっ」
見回すと、なんだかしっくりくる物があった。
お値段も丁度いい。
これにするか。
俺はその商品を買って、家に帰るのだった。
☆
家に帰り、無くさないように買ったものをしまってから少し勉強をしていると、インターフォンが鳴った。
立花がタッパーを回収しに来たのだろう。
買ったものとタッパーを急いで手に取り、ドアを開ける。
案の定インターフォンを鳴らしたのは立花だった。
「こ、こんばんは」
「こんばんは。タッパーを回収しに来ました」
「あっ、はいこれ」
綺麗に乾いたタッパーを渡す。
「とっても料理美味しかったよ、ありがとう。そのお礼にこれも」
彼女の両手に包まれたタッパーの上に、買ったプレゼントを置く。
「なんですか。これ」
立花が不思議そうに首を傾げる。
「そのー。お礼のお礼って言うか…。まあ料理が美味しくて、なんだかお礼がしたくなったんだよ」
恥ずかしくなって、少し早口で喋ってしまう。
「そうなんですか。開けてみても?」
「いいよ」
立花が箱に入ったプレゼントをゆっくり開ける。
自分が渡したプレゼントを目の前で開けられると、なんだかドキドキするな。
箱の中には、ピンク色の生地に、かわいいくまさんの刺繍がしてあるハンカチが入っていた。
まあもらって困らないものだと思うし、くまも入ってるから丁度いいと思ったのだ。
反応が気になって、目を見る。
「とっても嬉しいです。ありがとうございます」
可愛いハンカチをもらった立花は、完璧な笑顔を見せてくれた。
やはり自然な立花の笑顔は、めちゃくちゃ良い。
男も女も関係なく虜にしてしまう様な破壊力がある。
「そ、そうか。良かった」
立花が喜んでくれて嬉しくて、少し安心した。
立花はハンカチをもう一度丁寧に箱に入れると、今度は俺に物を渡してきた。
その物は可愛くはないが、とても魅力的な物だった。
その物とは、昨日より大きいタッパーに入った立花の料理。
「えっ昨日も今日もいいのか?」
「お礼が昨日だけとは一言も言ってませんよ。結城さんが栄養不足で倒れるのは、なんだか罪悪感がありますし」
何ともお優しい方だ。
彼女の料理はとっても美味しいので、今日も食べることができてとても嬉しい。
でも昨日に続いてなんだか悪いな。
「ありがとう。でも作るのも持ってくるのも大変だろうし、今日だけでもういいよ?」
「いえ、貸しはきっちり返したいですし、明日も持ってきますよ」
そして彼女は昨日と似た感じで「それに」と続けた。
「素直に美味しいと言ってくれて、とても嬉しかったので」
また彼女が笑った。
やはりこの笑顔は反則すぎる。
俺はその笑顔に抵抗できず、「じゃあ頼むよ」と言ってしまった。
彼女は頭をぺこりと下げて、スタスタと帰っていった。
俺は家に入って、おにぎりと一緒に、彼女の料理で舌鼓を打ったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます