第22話




 夜会に行く準備をしていたら、王宮からの使者っていう人達がやってきたの。


 王宮からってことは、私が王子様の婚約者に選ばれたっていうお知らせじゃない?

 そう思って喜んだのに、使者の人はなんとお姉様が王子様の婚約者になるって言うの。

 はあ!? なんでお姉様が王子様の婚約者になれるのよ!? そんなのおかしいわ! ずるい!

 おまけに、お姉様と縁を切るようにお父様に迫ったの。

 もちろん、私達は猛抗議したわ。でも、使者の人に何か書類を見せられると、途端にお父様とお母様は真っ白になってしまったの。


「長年に渡るアデル嬢への虐待は証人が腐るほどおりますよ。アデル嬢に贈ったものを横取りされたという訴えもたくさんあります。さらに社交の場には「病弱」と偽ってつれてこないばかりか、アデル嬢への誹謗中傷を繰り返していた。こちらの元使用人からは不当解雇の訴えもあります。これらの罪を正当に裁いたら、あなた達は牢に入ることになりますね。まあ、着るものも履くものも与えられなかったアデル嬢を思うと、牢に入れたぐらいでは済まないかもしれませんが。さあ、どうします。アデル嬢を解放するか、牢に入るか」


 ? 何言ってるのかわかんない!

 よくわからないけど、お姉様が王子様と婚約できるわけないじゃない!


 それなのに、お父様は使者の人の言うことを聞いて、書類にサインしてしまった。

 私は書類を破こうとしたけれど、取り押さえられて床に押しつけられてしまった。

 痛い! なんで私がこんな目に! 全部、お姉様のせいだわ!

 こうなったら夜会で私が王子様を助けてあげるしかないわ!

 そう思ったのに、お父様とお母様は「夜会にはいけない」って言って泣き出したの。意味わかんない。


 私が夜会に行くって言い張ったら、お父様に怒鳴られた。

 なんで? 私なにも間違ってないのに! お父様もお母様も嫌いよ!

 私は一人でも夜会に行くんだから! 王子様が私を待っているんだからね!


 それなのに、夜会に行こうとした私は、急に手が痛みだして何気なく腕を見た。


 ひっ。


 何これ!?


 私の腕が、なんか痣みたいなのがたくさん出て、黒ずんでしまっている。肌はぼろぼろにひび割れて、すっごく汚い。

 なんで!? なにこれ!?


「ああああっ!!」


 しかも、痣は腕にも足にも胸にも広がっていき、全身に痛みと痒みが広がった。

 痛い! すごく痛い!

 何してんのよ、早く助けてよ!!

 そう思ってお父様とお母様を見たのに、二人とも、私と同じ用意黒い痣が全身を覆ってのたうち回っている。

 使えないわね! ちょっとぐらい我慢して、私を助けなさいよ!





 どれぐらい苦しんだのか、何度も気絶しては目が覚めて、屋敷の中は真っ暗になっていた。

 なんで、誰もいないの? 使用人達はどうしたのよ!?


「これが、盗人の末路か」


 男の人の声が響いた。

 誰?

 なんとかそっちを見ると、もの凄くかっこいい男の人が私を見ていた。

 私を助けに来てくれたんだ! 早く助けて!


「私はディートリフ第二王子だ。聞こえるか?」


 えっ! 王子様なの? 王子様が私を助けに来てくれたのね! やっぱり! 早く助けて!


「カレンス家の娘はな。盗人は大嫌いなんだ。自分が、すべて奪われて処刑されたからな」


 何? 何言ってんの? 早く助けてよ!


「だから、カレンス家の娘のドレスを着られるのは、呪いがかかった王子だけだ」


 何?


「それと、王子が正式に貸した相手。だから、アデルは大丈夫なんだ。私が正式に「貸した」からな」


 何言ってんの?


「だけど、お前は「盗んだ」ドレスや靴やアクセサリーをずっと身につけていた。お前の側にいる両親も「盗んだ」ことを知っていてお前のものにするのが当然のように扱っていた。だから、怒りを買って呪われたんだ」


 呪っ……

 呪いなの? これ!? やだやだ! なんとかしてよぉ! なんで私が呪われなくちゃならないの!?

 私何も悪いことしていないのに!

 盗みなんかしていない! 嘘吐かないで! 私が盗人なわけないでしょう!


「私がアデルに「貸した」ものをお前が「盗んだ」。だから、アデルは無事だ。ひと月の間ずっと盗みを続けていたお前達は、己れのしてきたことの報いを受けているだけだ。幸い、命まではとられないから、心から反省すればおそらく呪いは解ける」


 何言っ……


 王子様は、全然わけわかんないことだけ一方的に喋って、さっさと背中を向けてしまった。

 ちょっと待ってよ……なんで助けてくれないの……?

 私、こんなにかわいそうなのに、どうしてよぉ……ひどい……


 なんで、なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないのよ……

 なんでなのよ



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