06 悪魔と聖女と聖女会議

「いだっ、いだだっ!」


翌日、朝から悪魔の頭部は『戒めのティアラ』によって締め付けられていた。昨日聖女に唐突に告げられた聖女会議とやらに行きたくないと駄々を捏ねたからだ。

体は動くようになったのに朝からこれでは体力が持っていかれる。


「他国の聖女様とお話しするだけですから、大丈夫ですよ。怖いの怖いの飛んでいけ~」

「怖がってねぇよ!大丈夫じゃねぇから行きたくねぇの!!あだだだっ!」


痛みに悶えながら反論する。

この能天気聖女は心配しなくてもいいが、他の国の聖女に自分が悪魔だとバレたら強制的に浄化される可能性がある。

この国の聖女はぽやぽやのほほんとしているが他の国の聖女は積極的に魔を払ったり浄化したりすると聞く。

自ら断頭台に上がる覚悟などしたくない。

そんな俺の心情などお構いなしで聖女は首根っこを摘まむと猫のように軽々と持ち上げ強制連行する。


「ほらほら、先方をお待たせしているんですからさっさといきますよー」

「うぐ、っ……おまっ、首締まっ……!」

「かろうじて呼吸ができる程度に加減してるから大丈夫です」


ニコニコと微笑んではいるが手を緩める気はないらしい。普段はぽやんとしているくせにどうしてこんな時ばかり腹黒なのか。

抵抗虚しく俺は聖女会議の会場へと連れていかれた。




聖女が会議を行う会場、それは教会の裏手にある聖堂だった。

丸い建物で天井はドーム型で壁も屋根も白に統一されており、ひとつしかない入り口には天使のレリーフが装飾されている。


「今日はここに隣国の聖女様がやってこられて、各国の現状を報告しより良い世界を作るためにどうするべきか話し合を行うのです。毎年一回必ず会議は開かれます。行う国は順番に決められていて今年はここで行われるんです」

それが聖女会議というものです、と説明する聖女に半ば強引に引きずられながら悪魔はまだ抵抗していた。『戒めのティアラ』が先程からずっと発動しているが行きたくないものは行きたいくないのだ。


「お前が聖女なんだからお前が行けよ!!体が違っても中身は聖女なんだからなんとかなるって!」

「無理ですよ。だってこの聖堂、聖女しか入れないんです」


そう告げるやいなや聖女はドアを開けてその中に俺をぽいっと放り投げた。


「ちなみに会議が終わるまで出られない仕様になってますので。大丈夫、たったの二時間程度ですからすぐに終わりますよ」

「おい、待て!人の嫌がる事を無理矢理させようだなんて……この鬼!悪魔!」

「残念でした。私は聖女です」


その言葉を最後にドアが閉められる。

慌てて開けようとするがドアノブに触れただけでバチッと電流が走って手を弾かれた。


「なんてことしやがるあの聖女……!」


『戒めのティアラ』による痛みはとっくに収まっていたがこれから他国の聖女と対峙しなければならないと思うと胃の辺りが鈍く痛い。かといって会議を終わらせなければこの場から逃げ出すことも出来ないのだ。


(こうなりゃ具合が悪いフリしてとっとと終わらせるか……)


ただでさえ昨日悪魔のもとを訪れた同族が、いつ聖女ごと自分の体を葬ろうとしてくるか分からないのだ。無駄に長引かせるより大人しく参加して体調不良を理由に切り上げれば良い。もちろん自分が悪魔であることを見抜かれてはいけない。

見抜かれてしまえば即死だと思った方がいい。

ごくり、と唾を飲み込み建物の奥に足を踏み入れる。建物に入って暫くは真っ直ぐな廊下が続いており、その奥に金色で縁取られたドアがあった。恐る恐る開けてみると、その向こうは少し広めの部屋で白を基調とした家具でレイアウトされていた。そして部屋のど真ん中にある円卓には二脚椅子が用意されておりそのうちの一脚は既に埋まっていた。


「お待ちしておりましたわ。この国の聖女様」


椅子に腰かけたまま悪魔を見つめる少女は美しい声をしていた、この少女が隣国の聖女なのだろう。

しかし彼女の服装は聖女らしからぬものだ。

王族の姫のように豪華なドレスに身を包みばっちりと化粧もしている。胸元には大粒のルビーの首飾りが輝いているし艶のある黒髪は美しく編み込まれ、髪飾りにもルビーが装飾されていた。


こいつが……聖女ねぇ。


この国の聖女を見ていると、他国の聖女がおかしく見える。

この国の聖女が着るものは白か明るいグレーの質素なワンピースだ。聖女のみならず、この数日で出会った教会に属する女性は似たような格好をしている。多少色味の多い服を着ている者もいるけれど、誰一人としてこんな華美な格好をしているものは居なかった。


隣国の聖女は友好的な笑みを浮かべながら立ち上がると近付いてきた。


「さて、では早速会議を始めましょうか。といっても二人しかおりませんが……たくさん意見交換できると嬉しいですわ」


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