第5話 観察

 ポリポリ...パリパリ...ゴクゴク...


「あ~♪ このお菓子美味しい~♪ お茶も良い味出してる~♪」


「フフフッ、気に入って貰えて嬉しいわ」


 ライラとイリナは自習室でお茶していた。今日は先日の教科書破りの件が、あの悪党どもの耳に入ったようなので、一緒に盗聴するために来ていた。


「そろそろ喜劇が始まるわよ」


「フフフッ、楽しみね♪」



◇◇◇



「グスタフ、首尾はどうだ?」


「完璧でございます。イリナ嬢は名女優になれますな」


「そうかそうか、顔と体で選んだんだが、思わぬ拾い物だったな。褒美にまた抱いてやるとするか」


 それを聞いたイリナは中指を突き立てた。端ないわよとライラが苦笑する。


「そう言えば最近、イリナ嬢はあまりルドルフ様の側におられませんな」


「あぁ、ライラの悪い噂を撒くのに忙しくしているようだ。健気な者よな」


「そうでございましたか。ルドルフ様のご寵愛の賜物ですな」


 イリナがベーっと舌を出す。ライラは呆れている。


「ライラと言えば、最近は五月蝿い小言を言わなくなったな」 


「きっと、ルドルフ様の偉大さにようやく気付かれたのでしょう」 

 

「フハハハッ! そうかも知れんな!」 


 今度はライラが中指を突き立てた。イリナは苦笑している。  


「アレも黙っていれば可愛げがあるものを。融通が利かなくて堪らん。今時、結婚するまで純潔を守ろうとするなど古臭いにも程がある。そう思わんか?」


「全くでございます。ルドルフ様のお情けを袖にするなどもっての他ですな。ですがその分、私めがたっぷり可愛がってやりましょうぞ。ぐへへへ♪」


 それを聞いてライラが身震いした。イリナがそっと抱き締める。


「お前の趣味の悪さを今更どうこう言うつもりはないが、もっといい女ならいくらでもいるぞ? 今から娼館に行くから連いて来い」


「私もよろしいのですか? お金の方は...」


「なあに、金の心配はするな。ライラのための予算がある」


「と言われますと?」


「俺の婚約者として恥ずかしくない格好をさせるために、王族に与えられる予算だ。その金でパーティードレスやアクセサリーを購入して贈ることになっている」


「その金に手を付けてはマズいのではないですか?」


「バレなきゃいいのさ。領収書を偽造して報告すればいい。ライラにはちゃんとドレスを贈っていたとな。どうせアイツは国外追放になる身だ。その後に調べられたりしないさ」


「なるほど! さすがはルドルフ様! ご慧眼でございます!」


「では行くぞ」


「はい、どこまでもお伴します!」


 ライラは音を切った。しばし二人で苦笑し合う。


「面白いくらい簡単に悪事の証拠を残してくれるわよね」


 イリナが呆れ顔でそう言った。


「そうね。公金横領は重罪だから、これだけでも禁固刑もんだわ」


 ライラも呆れた顔で頷く。


「この録音だけでも証拠にならない?」


「それは無理よ。盗聴自体が違法だから。違法で集めた証拠は価値がないわ」


「あぁ、なるほど。それは当然よね」


「ただ、今までにあの悪党の口から直接、私が浴びた罵詈雑言は全て録音してるから、そっちは証拠として使えるけどね。それは盗聴でもなんでもないから」


「なるほどねぇ。だとすればニセの領収書を押さえるしかないけど、それって難しそうじゃない?」


「そうね。何か策を考えとくわ。それよりお茶がすっかり冷めちゃったわね。入れ直すわ」


「お菓子もお願い~♪」


「はいはい」

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