第19話 山頂から見る景色

「坊ちゃん、正直俺は驚いてるんですぜ。昨日もそうですが、まさかあそこまで坊ちゃんが戦えるとは思ってませんでした。」


いきなりケビンが切り出してきたのでびっくりしたが、正直その感想は俺自身もそうだったので納得できる。


「確かに自分でもびっくりだよ。職業のおかげとかスキルのおかげもあるんだろうけどね。でもこうやって普通では考えられない速さで走っていることを考えると、今はこれが現実なんだなって思うよ。」


「たしかにそうですね。今では全盛期のころよりも圧倒的に強くなっていると思います。これからどんどん人間離れしていくと思うと、恐ろしいものがありますね。」


確かに、自分がどんどん化け物になっていく感覚はある。でもそれと同時に、ちょっとした全能感も感じている。命の危険があるというデメリットもあるが、メリットも存在しているからだろうか。まあ、デメリットが大きすぎて全然釣り合いが取れてないのだが。


「確かにケビンの言うように怖い面はあるな。でもこの力のおかげで、ある程度の敵には勝つことができる自信があるのも事実だ。あまり力を過信せず、パワーアップに努めよう。たぶんそれがこの世界で生き残る唯一の方法だ。」


そんな無駄話をしながら、二人で山の北側──とりあえずは頂上に向けて進んでいく。しばらくするとゴブリンたちとも接触するので、そのたびに二人ですぐに倒していく。


またそのときはケビンに「とどめを刺すのは任せてくれ」とお願いしており、着実に経験値を稼いでいった。


しばらく進むと、昨日と同じように、今度は3匹のゴブリンを引き連れたホブゴブリンを見つけた。こちらが先に見つけたので先制攻撃することができる。


「ケビン、今度は不意を打つことができるし、お供のゴブリンの数も少ない。一気に決めよう。」


「そうですね。取りあえず昨日と同じように俺がホブゴブリンの方を相手しますので、先に坊ちゃんは取り巻きのほうを倒してから加勢に来てください。」


「わかった。だったら今回はまず不意打ちの一発でホブゴブリンに【属性付与(毒)】を使って、視力低下のデバフを与えるから、それをうまく使ってくれ。」


「わかりました、助かります。」


そう言って簡単に作戦会議を終えた俺たちは、木々を使って奴らの視界に入らないようにギリギリまで近づき、二手に分かれた。


まずケビンが奴らの前に姿を現す。そしてケビンを発見して攻撃態勢に入った奴らの後ろから、気づかれないように近づいていた俺が、先制攻撃をホブゴブリンに仕掛ける。


「【属性付与(毒)】」


スキルを発動し、こちらに気づいておらず無防備なホブゴブリンの背中を、視力低下の毒を付与した短剣で切りつける。


そのまま俺は、お供のゴブリンたちに襲いかかった。ケビンも同じタイミングでホブゴブリンに向かって突っ込んでいき、回し蹴りをかました。


ケビンが無事ホブゴブリンと交戦しているのを横目で確認したのち、俺は三匹のゴブリンのほうに攻撃を加える。ステータスの加算によって強化されたスピードで、一気に奴らの命を奪い去る。


昨日の段階では攻撃を避けるにも、奴らの動きをしっかりと観察して、予備動作を見極め、予測して動かなければいけなかったが、今の俺は攻撃を目で確認してから避けることができるようになっている。


奴らの棍棒の動きを回避しながら、最短距離で三体の命を奪う道筋を瞬時に判断し、一気に刈り取る。


俺が通り過ぎた後には、喉から血を吹き出しながら倒れるゴブリンたちが残るだけだ。


そんなふうに最短でゴブリンたちを処理した俺は、ケビンとホブゴブリンの戦いに目を向ける。


ケビンはホブゴブリンの周囲を縦横無尽に動き回り、攻撃を与えている。


ホブゴブリンは、俺が与えた【属性付与(毒)】の視力低下の効果が効いているのか、かなり戦いづらそうだ。


ケビンの攻撃力もかなり強化されており、しっかりと攻撃が通っている。しかし振るわれる棍棒の風を切る音や、ケビンが棍棒を受け止めずに受け流しているところを見ると、奴の攻撃を喰らってはいけないのは変わらないようだ。


また戦闘が長引くことで、ホブゴブリンのスキルによって状況を一変させられても困るので、俺も参加して一気に倒してしまおう。


速攻でゴブリンたちを倒した俺は、ケビンとの戦いに集中しているホブゴブリンの視界の外に回り込み、またしても不意打ちで攻撃をくらわせることにする。


「【属性付与(毒)】」


今度の毒の効果は麻痺だ。視界外からの不意打ちの攻撃に、ケビンとの戦いに集中していたホブゴブリンに避ける余地などなく、麻痺毒を食らったホブゴブリンの体が硬直する。それを見逃すケビンではない。


「【爆裂拳】!」


硬直したホブゴブリンのみぞおちめがけて、最大の攻撃【爆裂拳】が炸裂する。思いっきり吹き飛んだホブゴブリンが、腹を抑えながら立ち上がろうとしたところを、すでに近づいていた死神の短剣が襲いかかる。


全く回避行動も取れずに短剣の一撃を食らい、ホブゴブリンの頭が胴体と離れて地面に落ちた。


二回目のホブゴブリン戦は、スキルの力を使う必要はあったが、こちらサイドにこれといった怪我を残すことなく終了した。大勝利である。


「ふぅ、やっぱりホブゴブリンは強いね。でも俺たち二人がかりなら何とか倒せるくらいには強くなったみたいだ。」


「そうですね。俺としても昨日は殴るだけでこっちの手が悲鳴を上げていたのが、しっかりと攻撃が通じるようになっていたのが大きいと思います。」


そう言ってホブゴブリンたちの死体を換金しながら、今回の戦いを振り返っていく。


結果だけ見れば大勝利。内容も危なげなく終えることができ、文句のない結果だ。


戦闘後のルーティーンとなっているステータスボードの確認を行うと、俺のステータスに変化があった。


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名前:黒神 色人クロガミ シキト

種族:人族

職業:死神

ジョブレベル:1

必要経験値:35 / 200


【ステータス】

MP   :10+(10×0.9×1)+(10×0.1×2)=9/21

攻撃力 :8+(8×1.2×1)+(8×0.4×2)=24

耐久力 :8+(8×0.5×1)+(8×0×2)=12

速度  :12+(12×1.2×1)+(12×0.4×2)=36

知力  :10+(10×0.8×1)+(10×0.1×2)=20


【所持スキル】

・暗殺術 レベル 2 【属性付与(毒)】【切れ味強化 1MP】

・鑑定  レベル 1 【物品鑑定 1MP】


【所持SP】

918,027P


【装備品】

・死神の短剣 レベル 2


【その他】


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今回はかなりの変化があった。まず大きいのは、速度の値が上昇しているということだ。これによって、基礎ステータスも使用によって増減する可能性があると考えられる。


また、暗殺術と死神の短剣のレベルが上がっており、新しいアビリティ【切れ味強化 1MP】が使えるようになった。これは非常にシンプルで、MPを消費して武器の切れ味を一時的に向上させるというものだ。


さらに、【物品鑑定】によって死神の短剣を再鑑定したところ、見た目の変化こそないが、攻撃力が「3 → 7」に上昇しており、シンプルに武器としての強度も上がっているようだ。


ケビンに関しては、今回の戦闘ではステータスの変化は見られなかった。


そのまま、時間の許す限り調査を続行しようと考え、山頂まで来たところ──そこには、なんだか不気味な「時空の裂け目」のようなものが存在していた。


周囲に魔物の姿はなかったため、警戒しつつも近づいてみると、明らかに何もないはずの空間にぽっかりと裂け目が開いており、魔物を見たときに感じる嫌悪感──それを遥かに上回る気配が、この裂け目から漂ってくる。


俺がその裂け目に目を奪われていると──


「坊ちゃん、あれを見てください! あんなもん、山の裏手にありましたっけ!?」


そう言われてケビンが指差す方角を見る。するとそこには今までの山の裏側とはまるで違う、異様な光景が広がっていた。


そこはまるで、世界から隔離されたような不思議な空間ようだ。見渡す限り──東京ドーム何個分か、正直見当もつかないが──空はある地点を境にして紫色に変色しており、地面も、そこに生える草木も、すべてが見たことのない色や形をしている。


そして遠目に、はっきりとは見えないが、ゴブリンとその上位種と思われる存在たちが、うじゃうじゃと動いているのが確認できた。


まさに──地獄のような光景が、目の前に広がっていたのだ……。

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