知り合いが消えた話
先に話しておくが、事件事故系の物騒な話とかでは(多分)ない。
今から6年くらい前の話である。
とある街で何か良い感じのバーを探して歩いていた私は滅茶苦茶敷居の高そうなバーにノリと勢いだけで入ったことが切欠となり、そのバーに足繁く通うようになった。
その店は非常に薄暗いオーセンティックなバーで、洗練されたデザインの店の造りと香を焚いていたのもあり非常に独特な雰囲気を醸し出していた。
バーカウンターに立つ青年は、モデルなんじゃないかと思うようなシュッとしたイケメンで服の袖とかから刺青がチラチラ見えてた。最初マジで怖い兄ちゃんなんじゃねぇかと思ったりもしたが、なんか通ってる内に普通に仲良くなってめっちゃ喋るようになった。そして、この題名が指す「知り合い」とはまさに彼の事である。
上述した様に非常に怪しい雰囲気のバーではあるが、酒を飲むのに恐ろしく落ち着いた雰囲気であり、上質な時間を過ごす事が出来た。また、このマスターとの会話が兎に角楽しいのである(何か覚えてる話があればパッとここで書くが、今までにそういうのを書けば良かったのに書かないから記憶は薄れた。思い出すことがあれば書くだろう)。
さて、コロナで世界が大騒ぎする前年、2019年に彼の知人がビル一棟を丸々買い上げたとかいう私からしたら全く現実味の無い景気の良い話を披露しながら、「そこで新しいビジネスを始めようと思うんです」みたいな事を言ってた。所謂夜の店で高級クラブとかいうやつだった。「鷹原さんも是非来てください。サービスしますよ」みたいな事は言われたが、高くつきそうなので行くのは控えておいたし、「そのビルまだテナントが空いてるので鷹原さんも新しくバー開いたりしませんか?」みたいな誘いも受けたが丁重に辞退した。結果翌年のコロナである。辞退は正しかったと思っている。彼のビジネスにも多少の影響はあった事だろうが、たまに話を聞くと割と順調そうではあった。
さて、時間は大分経過して昨年の6月。私のLINEに件のマスターから連絡が入った。
「新しいバーを作ったので遊びに来て下さい」という内容で、連絡を受けた翌月に都合がついたので顔を出した。今までカウンターに立ってた店は彼の部下に任せて彼自身は自分で作った店でマスターをしているとの事だった。新しいバーは、上述した知人の買い上げたビルの2階に入っていて、3階は彼の所有するスナックで、4~6階は件の高級クラブだった。つまりビルの1階のテナント以外は全部彼がオーナーをしていた事になる。結局その新しいバーには3度行った。
そこから数か月店に顔を出せない期間が続いて昨年の夏から晩秋へと季節が移っていた。ようやく店に遊びに行けると思って行くと店が営業していない。「まぁあの人たまに店休みにする事あるしな」くらいには思って一度帰ろうとしたが、なんか引っかかる。結局彼の部下がやってるバーの方に顔を出して少し話を聞いても良いかも知れないと思った。
そこで初めて知ったのだが、どうも私が最後に店に顔を出してから僅か半月後に突然所有してた全ての店の経営権を他人に譲渡して、自分がやってたバーも閉めたというのだ。彼の部下がやってた店も、彼の先代に経営権を返上して彼の部下はその先代の部下としてバーのカウンターに立っているとの事だった。確かに店の雰囲気が以前に比べて格段に明るくなっていた。
部下の方からしても、彼が自身のビジネスから手を引いたのは突然の事で分からない事が多いそうでしかも今は何処で何をしているのか分からないという感じだった。それ以来まだその部下の方がやってる方のバーには顔を出してはいないが、何か情報が得られるとすればそこだろうか。「多分何も無いだろうな」という気しかしていないのだが。
そんな感じで知り合いが1人いなくなったなぁという感じの話でオチとかそういうのも特に無い訳だが、今もあの街に行くとちょっと寂しい気持ちになったりする。
「LINEに連絡して見れば良いやんけ」と思われるかもだが、経緯から言って恐らく連絡しても返信がありそうな気がしないので連絡していないところではある。
鷹原夜遊の他愛も無い話 鷹原夜遊 @mugetusakuya
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。鷹原夜遊の他愛も無い話の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
不文集最新/石嶺 経
★127 エッセイ・ノンフィクション 連載中 1,129話
雪月花のメモワール最新/蒼衣みこ
★17 エッセイ・ノンフィクション 連載中 749話
1日1話雑談集/桜田実里
★12 エッセイ・ノンフィクション 連載中 81話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます