第48話 やっぱり二番目

「やっぱり、圭って上手だね」


愛梨は、そう言うと僕の上になり唇を重ねてきた。

初めて僕の部屋に泊ってから、愛梨は頻繁に僕の部屋へ遊びに来るようになった。

そして三回目の夜、とうとう僕たちは、こういう関係になった。


愛梨を抱くのは、今日が二回目だ。


「川本さん、今更だけど、家の人には何と言って外泊してるの?」

「ねえ、いい加減に『川本さん』はやめてくれない? 『愛莉』でいいって」

「ゴメン、なんか恥ずかしくて」


「もう、わたしたち他人じゃないんだからさ」


愛莉は、枕元に放置されてあった使用済みのコンドームを摘まむと、僕の目の前でブラブラさせた。

愛莉は僕の他に恋人がいるのだが、僕とも関係を結び、現在、二股をかけている状態だ。


一方、僕も佳那と不倫関係は続いており、綾乃とも愛人関係に陥り、さらに美栞とも関係を結ぼうとしている。なかなかの複雑な状況であった。


「わたしの家、母子家庭なんだ。母さんは夜の仕事をしてて、わたしが帰ってなくても気にしないの」

「そうなんだ……」


いくら夜の仕事でも、年頃の娘が帰宅していないのに心配しないのだろうかと思ってしまう。


「わたしね、母さんが16の時の子供なの」

「え? 16って、高校生?」

「うん、高校に入学して直ぐに妊娠が分かって……、それで中退して、わたしを産んだの」


という事は、中学生のときに経験済みだったという事だ。陽菜と同じくらいの子が経験して、妊娠して……、まるで別の世界の出来事のように感じた。



「父親も高校生だから、母さんは一人で産んで育てるしかなくて、だから、わたし父親の顔を知らないの」


「そうなんだ……」


「なに? さっきから『そうなんだ……』ばかり。もしかして引いた?」


「なんで?」


「カレシいるのに、圭ともして、わたしの事を『淫乱』て思ったでしょ?」


「そんなこと思ってない」


「親からして、異性関係がだらしないから、仕方ないよね」


「だらしなくなんて、ないよ。むしろ僕だって……」


「あーー、それ以上言わないで。圭のカノジョのことなんて聞きたくない」


僕が、自分の異性関係を話そうとすると、愛莉は決まって耳を塞ぐ。


「圭……、好きよ……。 二番目だけど 笑」





~・~・~





「その……、愛莉……、カレシと別れて、僕と付き合う事ってできないかな?」


その日の二回戦の後、僕は自分の気持ちを打ち明けた。もし、美栞と関係を結んでしまったら、愛莉とはこのまま曖昧な関係を続けることになるだろう。


今なら、愛莉以外との関係を全て絶って、お互いに恋人同士になれる。

でも……、愛莉は僕の言葉に、背中を向けた。


「わたしね、圭で二人目なの、経験したの」


愛莉は後ろ手に僕の手を握ると、自分の胸の前に引き寄せ、両手で握りしめた。



「カレシは、中学の同級生で、彼から告白されて付き合い始めたわ」


「……」


「すぐに初体験も済ませて、それからずっと付き合ってる。途中、何度か別れたけどね」


「じゃあ、別れることに抵抗はないんじゃない?」


愛莉は黙って首を振る。



「カレシ、高校も行ってなくて、あ、元々頭は悪かったんだけどね 笑」

「何をやってる人なの?」

「フリーターしながら、劇団に入って役者を目指してる」


何とも不安定だ、と僕は思ってしまう。人生設計もなにも考えていない、絶対に愛莉を幸せにできるはずがないと。


「フリーターだからって、馬鹿にした?」


「う、うん。 正直、愛莉を幸せにできるとは、思えない」


僕は素直な意見を言った。


「そうだよね。アイツ、ヘタレでさ、いろんなことから逃げてばかりで、親にも見放されて……、多分、役者なんて無理だとわたしも思ってる」


「だったら!」


僕は、つい声が大きくなる。



「でも、わたしが見捨てちゃったら、アイツ、一人だもん。可哀そうだよ」


「そんなに、カレシのことが好きなんだ……」


もしかしたら、愛莉は僕のことが一番好きなんじゃないかと思っていたが、ハッキリと言われると、気持ちが沈んでしまう。


「だから、いつも言ってるじゃない、圭は二番だって。圭だって、わたしの事が一番じゃないでしょ?」


「僕は……」


言いかけた僕の口を、振り向いた愛莉が、唇を合わせて塞ぐ。


「ね、お願い。今のままで居よう」


「分かった、ゴメン」


「ごめんなさい。この関係の方が、きっと長く続くと思うから……できるだけ圭との時間も作るから、許して」


「いや、僕の方こそ、自分勝手なこと言って、ゴメン」


「ね、まだできる?」


「うん、大丈夫」



三回戦が、始まった……。





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