第23話 不安

暫くして、小梢と陽菜は戻ってきた。


落ち着きを取り戻した僕は、ひとまず小梢に謝る。


「その……、小梢、さっきは悪かった、ついムキになって」

「ううん、わたしも、お説教じみた事を言って、たしかに、わたしが言えた柄じゃないわ」


僕らの反省を、陽菜がニヤニヤしながら見ている。



「じゃ~、二人とも仲直りした事だし、続きを案内して、圭」


「う、うん」


と言ったものの、僕はチラリと小梢の顔色を伺う。


しかし、僕の心配を他所に陽菜は、小梢の腕に手をからめて『小梢さんも行くよ~』と連れ出す。


「ねえ、陽菜ちゃん。次は理系の方を観ようか、あっちの方が見学するには面白いのよ」


「そうなの? 圭って何も言わないから、なんだか小梢さんの方が頼りになるね」



……あれ?



いつの間にか、二人が仲良くなっている?



あの扱いにくい陽菜が懐くなんて、どんな魔法を使ったのか?


僕は、小梢に耳打ちする。


「ねえ、どうやって仲良くなったの?」


「ウフフ、女の子には女の子の扱い方があるのよ」


小梢は笑って誤魔化したが、どうやら対人スキルは小梢の方が上だという事は分かった。

僕は、ますます小梢の事が分からなくなっていた。




「小梢さん。圭に言ってやって」


僕たちがヒソヒソ話をしていると陽菜が何やら小梢に促す。



「圭君、陽菜ちゃんとデートしても良いわよ」


「え?」


「でも、ちゃんとプランをたたて、女の子として扱う事!」


「そうだ! そうだ!」陽菜が相槌を打つ。


「それから……」


「ん?」


「キスまでよ、相手はまだ中学生なんだから」


小梢の目が冷たかった。




「そ、そんな事まで話したの?」


「ええ、話してくれたわ。

……呆れたけどね……」


これは形勢不利も甚だしい。もはやどうにも繕えない。


「心配しないで。こんな事になるんじゃないかって思ってたから」

「なんだか、すごい、お見通し感があるんだけど」

「だって、わたしは圭君の事をよく知っているもの」


なんだか狡いと思ったが、先ほどの反省から、ここは大人しく従う事にする。



小梢は、空いている手で僕の手を握る。



小梢を真ん中に、僕と陽菜で挟む形で歩いた。



小梢が握っている手に力を込めて、僕も強く握り返した。



小梢にどんな秘密があるのか分からないし、不安でもあるが、一つだけ揺るぎないものがある。



   僕は、小梢が好きだ。



「圭君、いつか、ちゃんと話すから……、わたしも勇気を出すから。

……待って欲しい」


「うん、待つよ」




初夏の日差しが心地よかった。



こんな日がずっと続くものだと思っていた。



小梢の告白を聞くまでは……。





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