第18話 SAO(せいやっ!あらよっと!オンライン)

「ようこそ、【せいやっ! あらよっと! オンライン】の世界へ!」




 チュートリアル画面っぽいところだ。


 可愛らしい女(スケ)が俺に向かって言った。




「まずは、自らが操作するキャラクタークリエイトをしてください」




 ステータスには関係ないのだろうが、性別、職業、様々な衣装、肌の色や髪型、CVに初期装備が選択できるようだった。




 折角のゲームなのだから、普段は絶対に出来ない格好をしよう。


 そう思って、服装を選択。




「とりあえず全裸で」




「その場合職業は【変態】しか選べませんが、よろしいでしょうか」




「背に腹は代えられん」




「かしこまりました」




 俺は全裸の変態になった。




 初期設定では、股間にぎりぎりじゃないモザイクがかかっていた。


 このモザイクも微調整が効いた。


 俺は喜んでギリギリのモザイク、略してギリモ(読モと同じイントネーション)にした。




 そして、性別と肌の色、髪型は実際のものに近くした。


 初期装備はこん棒。しかも、二刀流だ。


 折角のゲームなのだ、やはり操作するキャラクターの武器は、棍棒に限る。




 そうしていると、




「……む? なんだ、この感覚は……。うむ、そうか」




 俺は一人で意味深につぶやく。


 実のところこの行動に意味はない。


 ただ、キャラクターメイキングにめっちゃ飽きただけなのだ。


 さっさとゲームを始めよう。そう思えてくる。不思議なものだ。


 あれは、俺がまだ魔王と呼ばれる前のことだった――。




 ――そう、俺は無職童貞のヒキニートうんこくずだった。


 聡明な俺は、『回想することなど何もないな』と思い出したので回想をやめることにしたのである。




「それでは、【せいやっ! あらよっと! オンライン】の世界を楽しんでください!」




 チュートリアルはいつの間にか終わっており、【せいやっ! あらよっと! オンライン】の世界へと没入することになるのだった。




※※※※※




「ほう、これが……【せいやっ! あらよっと! オンライン】の世界か」




 ゲームだと言われなければ分からないような、現実と全く変わらないグラフィック。




 中世ファンタジー風の町並み。


 異世界転生後の世界とよく似た世界だが、驚いたことにスーツを着たサラリーマンも道を行き交うタクシーも、スマホもない。




「オリジナルの世界観を構築したかったのだろうか……?」




 俺は一人呟くと、




「魔王様、おはやいですね」




 と、後ろから声をかけられる。


 振り向くとそこには、いつもとほとんど変わらないクロナがいた。




 違うのは、背中に悪魔っぽい羽が生えていないことと、鎧っぽいものを着ているため露出度が下がっていることだろうか。




 初期職業は冒険者、と言ったところか。




「うむ、オーソドックスなかっこうだな」




「お褒めにあずかり光栄です、魔王様」




 全裸の俺を見ながら、クロナは失笑を浮かべて言った。




「二人ともはやいぞ~」




 可愛らしい声、おそらくアカリだろう。


 その声に振り向くと、パンチパーマにサングラスの髭もじゃおっさんのやくざがそこにいた。




「アカリか。初期職業は……やくざか?」




「ガンナーだぞ!」




 人相の悪い顔で愛嬌たっぷりの笑顔を浮かべるアカリ。軽くホラーだった。




「鉄砲玉だから、ガンナーなのか……?」



「こういうことだぞ!」



 ニヤリと笑みを浮かべたアカリは、自らの装備である拳銃(ハジキ)を俺に掲げて見せてきた。


 俺は考察する。多分、このゲームの開発者の奴らは馬鹿なのだろう。

 そしてもちろん、アカリも馬鹿なのである。




「そういう魔王様の職業はわかりやすいぞ!」




「ふふ、そうね」




 アカリがびしっと指を指しながら言う。クロナも笑っている。




「ほう、ならば当ててみるがよい」




「「変態」」




 二人は声をそろえていった。




「ほう、なかなかの洞察力だな、褒めて使わす」




 俺は二人の頭をご褒美代わりになでてやる。




 クロナはぴしゃりと俺の手を払う。


 まるで『気安く触るなやキモ童貞が』と言いたげな表情で「気安く触るなやキモ童貞が」と言った。

 ……はい。




 クロナは放っておいて、やくざのアカリは俺の頭ナデナデテクにメロメロ、気持ちよさそうに目を細めている。




「すみません、ご主人様。私が最後のようですね」




 残りのメンバーは、ハナだけ。俺はやくざの頭をなでるのをやめた。




「あっ……」




 切なそうな表情のやくざのアカリの声が聞こえた気がしたが、いったん無視である。




「ふむ、かまわぬ」




 そう言って、ハナの方を向く。


 そこにいたのは、ケロモッチャイーノフのハナだった。一目で分かった。




「ほう、ケロモッチャイーノフか。……スメンロシンスの再現度高ーな、どうなってんだこの処理、すげぇ……」




 俺は感嘆の声を漏らしていた。




「すごいですよね、このケロモッチャイーノフの装備。スメンロシンスもですが、これ。チェヤンパポンスモが、これほんとすごいです!」




 控えめに言いつつも、興奮した様子を見せるハナ。


 確かに、彼女のお尻あたりにあるチェヤンパポンスモは圧巻のクオリティ、いや、ケパンチョ風に言えばコロモンスだった。


 等身大のフィギュアになってくれたら……そう思わずにはいられない。




「……ふん、ハナのくせに生意気です!」




「すごいだぞ!」




 クロナとアカリもなんか思うところがあるのだろう、なんかね。




「よし、それでは最初に配られたウホ(ゲーム内通貨の単位。ここでも1ウホ=1ドル位の価値だと思われる)を使って、装備を調えしだいフィールドに出ようか」




 自由度の高いゲームであることはなんとなく察することが出来る。


 なればこそ、万全の用意をするのだ。




「「「はいよ!」」」




 元気よく返事をする三人。


 そして、おのおのアイテムショップや武器や、防具屋に入っていった。







 一点豪華主義の俺は、最強の攻防一体の装備を手に入れた。


 だいたい5ウホ位だった。


 残りのお金で俺は仮想通貨を買った。これで寝て起きたら俺も億万長者の仲間入りだ。







「よし、装備は万全だな!?」




 再集合した俺たち。




「「「はい!!!」」」




 元気よく返事するクロナとアカリとハナ(三人の馬鹿)ども。


 ……はい。こいつらは馬鹿でした!




「ちょっと待て、馬鹿ども。その装備、なんだ? ……まず、クロナ!」




「え、私ですか?」




 クロナはきょとんとした表情で返答する。




「ああ」




「なんだと言われましても。……フライパン、ですが」




「なんっで、フライパン装備してんのお前、モンスターに料理されてぇのか?」




「やだ、魔王様のエッチ……」




 ぽ、と頬を赤らめて身をよじる馬鹿。その馬鹿に可愛らしいジト目を送る可愛い俺。




「いや、至って真面目ですよ。両手武器で、攻撃力も攻撃範囲も広く、また防御用の盾としても使える、攻防一体の武具じゃないですか」




「!」




 俺は驚いた!


 確かに、フライパンは攻防一体の武具だ!


 こんな簡単な事実に、今更気づかされるとは……


 やれやれ、全く。


 俺もまだまだ修行が足りぬ、ということか。




「すまぬ、クロナ。余が至らなかった。許してくれ」




「二度となめた口きくなよ」




「あ、はい……」




 クロナの件はこれにて一件落着。




 次は……。




「はいアカリちゃん。とりあえず言い訳を聞こうか」




「ゲームキュー○だぞ!」




「見りゃわかるわ、馬鹿にしてんのか!?」




 そう、ガンナーのアカリは、両手にニンテン○ーゲームキュー○を装備していた。




「ちなみにディスクはこれ! 大乱○スポーツブラジャーズ!だぞ!」




「へいそこ、変なところを伏せ字にするのはやめるのだ」




「大乱闘だぞ? 変じゃないぞ? ……あっ、魔王様、とんだスケベ野郎だぞ……」




 にしし、と気味の悪いやくざスマイルを浮かべるアカリ。




「……べ、べつにスケベじゃねーし」




「ふーん?」




 にやにやと気味の悪いやくざスマイルを浮かべるアカリ。




「だかっら、スケベじゃねぇっつってんだろ、ああ?」




「はいはい、大乱交大乱交。全く、やれやれだぞ、魔王様?」




 ニヒルな笑みを浮かべるやくざ。




「も、もーっ! 言うなよ! 変なこと言うなよ……もいーっ!!」




 俺はおこだった。




「ま、それはいい。……ていうか、それ、一体どこで買ってきたんだ? ここの開発者はやっぱり馬鹿なのか?」




「HARD○FFでジャンク品が2ウホで売ってたぞ」




「はい馬鹿ー。お前も開発者も馬鹿ー。普通の装備買ってこーい!」




 俺があっかんべーをしながらアカリに言うと、だ。


 無言でゲームキュー○で殴ってきたのだ。アカリがだ。




「いって……いや、だめだろ、暴力に訴えちゃだめだろ」




 俺がガチのトーンで言っても、だ。


 無言で殴りかかってくるのだ、アカリがだ。


 俺の視界の端に移るHPゲージがもりもり削られるのだった。




「わ、分かった。強力な武器なのは分かった。だからもう良いから、な? 殴るのはやめよう」




「……分かればええねん」




 アカリが関西弁で呟いてから、俺の顔につばを吐きかけてきた。


 もうやだ、何こいつら、魔王様のこと舐めすぎ……!?




「はい、最後ハナ。……なにそれ?」




「チェエッカポーンモです」




「いや、わかんねぇよ」




 ひどく前衛的なデザインの……なにこれ、尻? を両手に持つハナ。




「てかさっきはノッたけど、ぶっちゃけケロモッチャイーノフってのも意味分かんねぇし。……もうお前については突っ込むのも野暮だから触れんとくわ」




「……もう、ご主人様のいけずっ!」




 キャラじゃないことを言い出すハナ。なんだったらキャラが固まってないまである。




「……ま、こんな馬鹿どもだが、いないよりかは役に立つかもしれぬな。それでは、ダンジョンに潜るとするぞ!」




「「「まてまてまて~い!!!」」」




 三人がまてまてまて~い!!! と言って、俺を待て待て待て~い!!! した。




「は? 何?」




 俺は待ってあげた。


 なぜなら、女性には優しくしろって、生前俺が脛をかじり続けていた母ちゃんが言ってたから。




 少し間を開けてから、三人が意を決したように、口を開いた。




「「「飽きたしログアウトしていいですか?」」」




 馬鹿どもが口を揃えて言ったのだった――。

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