第79話 勝利を重ねるたびに

 会場に到着。しばらく待機していると、試合開始の宣言がされた。


「それでは二回戦の第一試合を開始します! それではまずエントリーナンバー2! チーム・ブルーノ武具専門店!」


 選手の入場が宣言される。上がってきたのは、さっき大男を倒した二刀流の男だった。

 1回戦の番狂わせぶりから、男は会場から万雷の拍手を浴びる。本人は眉一つ動かさずに冷静な様子で舞台に上がった。


「続きまして、エントリーナンバー3! チーム・ダンツェル武具専門店!」


 次に俺は入場した。横にイレーナはいないので、一人だ。

 途端、会場がざわついた。


『あいつ、キックで戦った奴だよな……? なんで一人になってるんだよ?』


『相方の鍛冶師はロクな武器が作れなかったから、恥ずかしくて逃げちまったんだろ。最悪だな!』


『しかも、あいつもう折れた剣すら持ってきてないぞ! もう諦めたんだな』


 さっきまで熱狂の声を上げていた観客たちは、俺の姿を見た瞬間に口々に憶測を話し始めた。

 1回戦の時よりもはるかにひどい。それもそうだ、イレーナがいないうえに武器まで失くしてきてるんだからな。


「そ、それでは選手の二名は舞台に上がってください!」


 司会も困惑する中、俺は舞台に上がった。


「貴様、ふざけているのか?」


 その時、対戦相手の男のドスの利いた声が聞こえてきた。見ると、男は俺のことを穴が空くほど睨んでいる。

 この男の声は初めて聴いた。今まで恐ろしい冒険者たちとたくさん相対してきたが、この男の声は中でも恐怖心を掻き立ててくる。


「貴様のことは1回戦で見た。私はその時から貴様に対してはらわたが煮えくり返っている!」


 男はビシッと俺のことを指さし、一喝する。


「折れた剣で参加したかと思えば、今度は素手だと!? 侮辱するのもほどほどにしろ!」


 司会が止めに入ろうとして、ぴたりと動きを止めた。無理もない。男はただならぬ殺気を放っている。


「私たち親子、そして兄弟はな! この大会に全てを賭けているのだ! 父はこの大会のために俺を冒険者として強く育て、弟を最高の鍛冶師に仕上げた!」


 そして、一本の剣の先を俺に向ける。


「この大会は職人の魂を賭けた大会なのだ! 貴様のようなふざけたやつを見ると虫唾が走る!!」


 男が怒るのも無理はない。現に俺は素手で大会に出ているからだ。

 でも、彼が言っていることは一部間違っている。


「俺だって、それなりに覚悟を持って出てるよ。イレーナだってそうだ」


「なんだとッ!?」


 俺が反論すると、男はさらに顔を赤くした。司会の男を睨みつけるようにすると、試合の開始を促した。


「そ、それでは二回戦第一試合を開始します!」


 男が二本の剣を構えて俺を見据える。戦闘の準備はバッチリだ。


「レディー、ゴー!」


 司会が宣言するが早いか、男は声を上げて突進してきた。もはや半狂乱だ。


「これが私たちの努力の結晶だーーーッ!!」


 素早い剣捌き。二本の剣が、一気に俺の両肩に向かって振り下ろされる。

 男の表情からは覚悟がにじみ出ている。この一撃のために、きっと彼は何年も修行をしたんだろう。


 でも、それはイレーナも同じことだ。


「ふごおっ!?」


 男の腹部にパンチを入れる。二本の剣がするりと手から離れて舞台に当たって金属音を鳴らすと、男はそのまま倒れてしまった。


「しょ、勝者! ダンツェル武具専門店!」


 司会の宣言を以って、俺はゲートに歩き出した。


『また一撃で終わりかよ……なんかおかしくないか?』


『あいつ強いなって? いやいや、この大会そういう趣旨じゃねーから』


 観客の疑念は強まるばかりだ。



 ゲートをくぐって退場を済ませたとき、一人の男が壁にもたれかかっているのが見えた。

 短い青髪。オオカミのように鋭い目。その人物は俺を見ると、気だるそうに近づいてきた。


「バリー……」


「おい三下。てめえなんでまた勝ってるんだよ」


 バリーは恨みがましそうに俺に言った。なぜかやけに苛立っている様子だ。


「普通辞退とかするだろ。イカレてんのか? ちょっと簡単な計算ができればわかることだろ?」


 なぜバリーが俺に辞退を勧めてくるのかわからないが……俺の答えは決まっている。


「しない。俺はイレーナと一緒に優勝するって決めたんだ」


「すぐ折れるような粗悪品の剣を作るような奴だろ? そんな奴なんか信じる価値ないだろ」


「それでも信じるさ」


 俺はそれだけ言うと、休憩のためにその場を後にした。

 バリーの舌打ちが俺の背中で反響した。俺は無言で歩き続けた。

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