第7話 熟練度

 槍を振り回し、使い心地を確認する。

 筋肉痛が走るが、我慢しながら。


「何で槍なんだよ? 普通、剣とか選ぶんじゃねえの、こういう時って」


 ゴンはお腹を押さえながら俺にそう訊いてきた。

 腹が減ったのか、彼女はいくぶんか機嫌が悪そうに見える。

 

「三国志なんかでも、強い武将って槍を使ってること多いだろ? なんか説明できないけど、カッコよく感じてさ。良くない? 槍使いって」

「オレにはよく分からんけど、お前、元々槍の使い方は上手かっただろ」

「槍の使い方?」

「ああ。投げやりなんか得意だったじゃないか」

「そうそう。イジメに対してすぐ投げやりになるからね……って、バカ! それはやり違いだよ!」


 俺は槍を肩に担ぎ、顎で外を指す。


「まったく……ほれ。さっさと食料調達に行こうぜ」

「おうよ!」


 ゴンはそれはそれは嬉しそうに扉を開き、外へと飛び出して行った。

 普段からそういう顔しててくれたら嬉しいんだけどね。


 外に出ると、眩しい太陽が俺たちを照らした。

 しかしゴンはそんな太陽など気にすることもなく、近くにいたスライムを一撃で叩きのめす。


「いただきます」


 勢いよく、スライムにかぶりつくゴン。

 美味しそうには見えないけど……しかし、俺もそろそろ腹が減ってきた。

 モンスターなんて食いたかないけど、覚悟を決めなきゃならないのかな……


 少し離れたところにスライムを発見し、俺はそーっと近づいて行く。

 まだ向こうは俺に気づいていない。

 スライムが背後を向いている隙に距離を縮め、ドッと槍で突き刺してやる。

 ゴンのように一撃で仕留めることができた。


 俺は安堵のため息をつき、スライムの死骸を見下ろす。

 ゴクリと息を飲み、腹をくくる。

 食わなきゃ死んでしまう。

 生きて行くために食う必要があるんだ。


 俺はスライムを手に取り、プルンとするその肉体を口にする。

 味は……マズくはない。

 ほんのり甘みがあり、触感はゼリーそのもの。

 ジュルジュルとスライムを吸い込んでいき、そこで俺は満腹となる。


「あー。もうお腹一杯だわ」

「お前、小食にも程があるだろ」

「俺は普通ぐらいだ。お前が食いすぎなんだよ」

「それは否定しない」


 スライムを食べたことにより空腹が満たされる。

 俄然元気を取り戻した俺は、他のスライムにも攻撃を仕掛けていく。


「おっと」


 飛び跳ね、俺を攻撃しようとするスライム。

 俺はその攻撃を避け、槍で一突きする。

 ゴンはすかさずスライムを手に取り、口に含んでいく。


「よし、レオ。お前がモンスターを倒して、オレが喰う。このパターンで行くぞ」

「いいけど、食い過ぎて腹壊すなよ」

「そんな乙女みたいな腹してると思うか?」

「……思わないな」


 ちょっとは乙女心を持ってください。

 そんな風に考えながら、俺はスライムを倒して行った。


 俺が倒し、ゴンが喰う。

 スライムとの戦いはリズムよく、スムーズに、効率よく進んで行く。


 しかしこいつ、どれだけ喰うんだよ…… 

 もうすでに、十何匹喰っているはずなのに、食欲が収まるような気配がない。

 俺はその無尽蔵な喰いっぷりに呆れながらも、森を歩き回りスライムを倒して回った。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 スライム退治は結局夕方まで続け、そこそこの魔石が溜まっていた。

 小屋に戻り床に座り込む俺たち。


 ゴンはまだ満足いかないらしく、腹を押さえている。

 本当にどんだけ食うんだよ、こいつは。


 俺は上昇したステータスを確認するために、画面を開く。


 露木玲央

 HP 18 MP 8

 腕力 6 防守 5

 魔力 4 敏捷 10 

 運  3

 スキル 

 槍 1 帰宅 1 倉庫 2 

 鑑定 1 製作 1


 昨日と比べるとずいぶん腕力が上昇している。

 その分、筋肉痛も酷くなり、俺は痛みに苦笑いした。

 だが嬉しい。

 変化が目に見えて現れるというのは、素晴らしい限りだ。


「レオ、嬉しそうだな」

「ん? まぁ、ドンドン強くなってるからな」

「そっか。良かったな」

「ゴンはどんな感じだ?」

「オレか?」


 ゴンがステータス画面を開く。


 権田愛花

 HP 28 MP 2

 腕力 23 防守 9

 魔力 1 敏捷 1 

 運  3

 スキル

 暴食 2


「うおい! また力の差が開いてるじゃないか!」

「ま、人間には得意、不得意があるんだろうさ」


 腕力がまた上昇しているゴン。

 さらに、【暴食】の横の数字……熟練度までが上昇している。

 これは俺の【倉庫】もだが、使えば使うだけ便利になっていくのであろう。


 【倉庫】は今まで直接アイテムを空間に放り込まなければいけなかったが、俺が念じるだけで、物を収納できるようになった。


 なら、ゴンの【暴食】とはどんな性能になったのだろうか?

 あ、そう言えば、元々どんなスキルかも知らなかったわ。


「なあゴン。【暴食】ってどんなスキルなんだ? 熟練度が上がったみたいだけど、どんな風に変化したんだ?」

「【暴食】ねえ……」


 ゴンは額に指先を当て、スキルの情報を探る。


「とりあえず、なにを喰っても当たらないみたいだな。毒を持っていようが麻痺をもっていようが関係ない。どんなものでもペロリとイケるわけだ」


 そこでゴンはハッとし、真剣そのものの顔となり俺を見る。


「ど、どうしたんだ……?」

「こ、このスキルってさ……」


 ゴクリと息を飲むゴン。

 俺もゴンにつられて息を飲む。


「毒キノコも食えるってことだよな……」

「はっ?」

「毒キノコって美味いのも多いらしいんだけど……これなら躊躇なく食えるってことだ。ありがてえ……マジありがてえ」


 ちょっと心配した俺が馬鹿だった。

 そうだよそうだよ。こいつは食のことしか興味がないんだ。

 俺はカクンと肩を落とし、涎を垂らすゴンの顔を呆れて見ていた。

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