第66話 死人使い 第四話

「正樹さんって、神を殺して元の世界に戻りたいって思わないの?」

「そうだね。僕は元の世界に対してあんまり未練とかないし、戻ったところで僕の家族はもうどこにもいないって知っているからどこにいても変わらないかもね。でも、みさきが帰りたいって言ったら僕はその方法を探すと思うけど、みさきも僕と一緒で元の世界に帰りたいって思ってないと思うよ」

「そう言うもんなんですかね。僕も死人使いになる前の姿に戻りたいかって言われたら戻りたくはないですけど、今の姿も別に好きでなってるわけじゃないんで難しいところですよね。ちなみになんですけど、正樹さんって神でも悪魔でも妖精でも人間でも殺すときに躊躇したりしないんですか?」

「今まで戦った相手で躊躇したことは無いかもしれないね。今後もあるとは思えないけど、戦っている以上は相手の命を奪わないと自分の命が無くなる可能性もあるわけだし、よほどのことが無い限りは相手の命をちゃんと奪ってあげようとは思っているよ。僕もみさきもそこだけは徹底していると思うけど、エドラもそうなんじゃないのかな?」

「僕の場合は死人使いと言う性質上、死体をストックしておけばしておくほどメリットが多くなるんで、出来るだけ相手を綺麗な状態で殺しておきたいとは思うけど、それは結構難しいんだよね。見てもらってわかると思うんだけど、僕の操る死体はどこか欠損していたりで不完全な状態だったりするんだよ。でもさ、時々綺麗な死体を見付けると、何とも言えない幸福感に包まれてしまうんだよね。本当に僕がこんなに綺麗な死体を手に入れちゃってもいいんだろうかって考えてしまうこともあるよ。考えるだけでちゃんと貰って帰ることにしているんだけどね。正樹さんと一緒にいられたらそのチャンスも多そうなんだけど、相手を傷つけないで綺麗な状態で殺すことって出来たりするんですか?」

「僕は出来るけど、みさきに同じ条件を出したら不可能だと思うよ。僕と違ってみさきは完全な武闘派だし、その攻撃力は隕石が振ってくる以上の衝撃だったりするからね。僕も何度か目の前で見ているけど、魔法で観察する力を強化していてもみさきの攻撃を全て見極めることは不可能だったからね。そう言えば、エドラは死体のストックをどれくらい持っているのかな?」

「今正樹さんの目の前にいるのを含めても三体しかいないんだよ。そろそろ戦うのを控えて死体探しの旅に出ようかと思っているんだけど、妖精の森に入って人間の国を襲うか妖精の森と逆方向に進んで魔獣の国を襲うかで迷っているんだよね。個人的には元人間のよしみで魔獣の国に行くべきだとは思うんだけど、今の僕が魔獣を殺すことなんてきっと無理だと思うんだよ。それでも、完璧に不意打ちを決めることが出来れば一体くらいはどうにかなるんじゃないかなって思っているよ。彼らは人間以上に音や匂いに敏感なんで不意打ちを決めるなんて無理な話なんだけどね。地道に死体を増やして僕の戦力を強化してから魔獣を襲うのが一番現実的だと思うんだ」

「エドラは人間よりも魔獣の死体の方が欲しいって言うんだったら、僕が何とかしてあげるから一緒に行こうよ。魔法しか使えないけど、それで魔獣程度だったらどうにでもなると思うな。僕の魔法で綺麗な死体を量産してあげるよ」

「本当に本当にありがとうございます。まだ一体も死体を手に入れていないけど、正樹さんの強さを知っている者は皆たくさんの死体を持って帰ってくる正樹さんの事を誰でも想像することが出来るんだよね」

「じゃあ、僕はちょっと魔獣のいる村へと進むことにするよ。エドラは後からこっそりついて来てくれると助かるな。

「僕もなるべく死体を漏らさないように気を付けますよ。どんな魔法で魔獣を倒すつもりなんですか?」

「あんまり大きな声では言えないんだけど、全てを蝕む強力な毒を使おうかなって思っているよ。僕が使おうと思っている毒はあまりにも強力すぎて骨すら残らないと思うよ。毒に侵されている死体を使うつもりがあるなら毒は少し弱めにしておこうかと思うけど、そうしたら相手が苦しむ時間が長くなっちゃうんだよね。それはそれで大変興味深い話ではあるけれど、僕が積極的に何かするのは自分でもどうしてしまったんだろうと思うようなテンションでやっちゃうかもしれないね」

「僕は普通の死体でも毒を浴びている死体でもどっちでもいいんですよ。死体には何も変わりませんからね。そうだ、悪魔殺しの異名を持っている正樹さんはヘカテー以外の悪魔やそれに近いモノを殺す予定はあったりするのかな?」

「それはどこにいるのか全く分からないんだけど、戦う機会があればいくらでも叩き潰してあげようと思うよ。やっぱり、それが一番守るべき信念だと思うよ」


 僕はエドラの森を抜けてそのまま道なりに進んでいた。遠くにかすかに見える建物は人間の作るそれとは程遠い謎の建築物が以上に多かった。と言うよりも、僕が今まで見てきたような建物はここでは見られないという事だ。

 正直に言って、僕がエドラに協力してるのは完全なるボランティアである。ボランティアである以上は見返りを求めていないのだが、色々な魔法を試せるというのはある意味どんな報酬をもらうよりも価値のあることではないかと思ってしまった。


 実際に、僕はエドラのために色々と試行錯誤を繰り返していたのだが、きれいな形を保ったまま殺すとなるとそれなりに方法は限られてしまう。僕の使う毒はいまいち効果が出ているのかわかりにくいのだが、毒が見えてしまったら何の意味もなくなってしまいそうだ。誰だってあからさまに怪しいところに入ってみようなんて思わないかもしれないのだが、愛ちゃん先輩ならそれを上手くごまかすことが出来るのではないかと思った。あの人は何を考えているのかさっぱりわからないけれど、毒に関してだけはどこの世界の誰よりも強力なものを持っていると言えるのだ。

 僕は愛ちゃん先輩の力を欲しいとは思ったことがあるけれど、僕が愛ちゃん先輩を殺すことは出来ないようなので見ているだけで満足することにしよう。


 そんな事を考えているうちに、僕はこの集落に住んでいた魔獣を全て殺してしまっていた。全くの無意識の中での作戦行動なので僕は何も悪いことはしていないと思う。

 僕が殺した魔獣はそのままエドラの死体保管場所に送られているらしいのだが、その保管場所もそろそろ限界が近いとのことだ。

 そんなに限界が早いのだったら全員殺さないで何人か残しておいても問題なかったのかと考えてしまう。そんな事を考えていたとしても、僕はきっとあの場にいた敵を一人残らず葬ってしまうんだろうな。

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