第73話 アダルトなブレイン

 ともすれば忘れそうになることもあるが時間が止まった今はプールの匂いがかぐわしい時分なのである。


「いやぁ、プールに入るってなんだかとっても久しぶりな気がしますね!!!」


「ちぇ、流石に小学生のスク水は入らなかったか……まあこれはこれで眼福眼福ってね」


 彩夢はその辺の店から勝手に拝借してきたビキニをつけてくるりと回った。

「というか本当にこの格好で良かったんですか?テラさんがお好きそうな露出度の高い水着はまだいくらでもありましたよ……何なら全裸でも私は気にしませんけど」

「分かってないなぁ。彩夢ちゃんって漫画とかは大好きなのにこう言うのはあんまり得意じゃないよね……まあアダルトなブレインに行きつくには純粋すぎるってことかな」


「一番のちびっこが何言ってんのよ。大人ぶっちゃってさ」


「あ、ほどほどおっぱいちゃんだ」



 ヒュガッ!!!!!

「ごっはぁぁ!!!」

「誰がほどほどよ、言っとくけどあんたなんかよりずっとデカいんだからね。これでもCあるのよ!!!」


「ちょ……しゃべれ…………」


「ふ、人形でも喉を抑えられたら喋られなくなるのね」


「ゴホッゴホ……ったくさぁ、子供に胸囲で勝ち誇って恥ずかしくないの?余裕がないように見えるよ」


「どうしてあんたはそんなに口が減らないのよ!!!」


「それはね」


 にわかにテラはしおらしく指をツンツンとする。


「ほら、あたしって随分長いこと幽霊やってるしさ。喋れる人なんていなかったんだよね……だから嬉しくってつい調子に乗っちゃってるかも」


「テラ……あんた」


 ペロっ


「なーんてねっ!!!単に未来ちゃんの反応が楽しいからしてるだけっ!!!あたしはそんな女々しい女の子じゃないよ」


「テラァァァ!!!!!!!」


「フッ、もう人形の姿にもすっかり慣れたからね。いくら未来ちゃんでももう捕まらないよ!!!」


 ふわりと宙に浮いた。


「ちょ!!!何飛んでんのよ!!!正々堂々勝負しなさい!!!!」


「幽霊相手に正々堂々を求める方がおかしいよ!!!!」


 二人がヒートアップしてきたなと判断した彩夢はグッグッと身体を伸ばしていた。そして深呼吸を終えた後にプールの中にゆっくりと入っていく。


「おお、いいですねぇ。太陽の光で暖かくなっていたんでしょうか」


「温泉に入ったみたいな顔してるな」


 プカプカと意味もなく浮かんでいた雅也があくびをしながら口を開いた。


「あ、雅也さんお邪魔しますよ」


「別にいいよ……それよりお前もあん中に入らなくていいのか?二人とも楽しそうだぞ」


「あれはお二人だから楽しいんですよ。私のような異物が入ってはお二人の興が冷めてしまいます……それに」


 ドッバーン!!!!


「おらぁぁ!!!!」


「ちょ、何メートル飛んでんの!!!」


 シュパパパパパパパ!!!!!!


「逃げないで!!!」


「プールの上を走らないで!!!!人間でしょうが!!!」



「残念ですが流石の私でもできないことはありますよ」


 苦い顔でペロっと舌を出した。


「そりゃそうだ……人間の最高峰と幽霊じゃちょっとレベルが違うね」


「それはそれとして雅也さん、アダルトなブレインってどんなものだと思いますか?私これまでねえねえのおさがりか適当に選んだ水着しか着てこなかったのでそういうのちょっと苦手なんですよ……漫画で出てくるようなビキニアーマーなら何度か手作りしたことあるんですけどそう言うのはまた違うんですかね」


「そんなこと僕が知るわけないじゃんか……まあでもお前くらいスタイル良かったら何着ても良い感じになるんじゃないの?」


「何ともフワフワな意見ですね……ちょっと失礼」


 おもむろに雅也の手を取って自分のビキニの中に滑り込ませた。


「ムニムニですか?」


「ああ、前と同じでね……でも……うーん。

 なんだか前に比べてちょっと気持ちいいかもしれないね」


「アハッ、それなら幸いです。実は私も昔よりちょっとだけドキドキしてたり………まあそれはそれとして」

 

シュババババババババババババ!!!!!!!!!!!!!


「こなくそぉぉぉぉ!!!!」


「いい加減諦めてよぉぉ!!!!」


 ドパパッパパパパッパ!!!!!!!!!!!!!


「私の辞書に諦めるって字はないの!!!!!!!諦めんならあんたが諦めなさい!!!!!」


「大人げない!!!!このほどほどおっぱいめっちゃ大人げない!!!!!!」


「あんたが生意気なのが悪いんでしょうが!!!!!!」


「これは止めないといけないですよね。


 雅也さん、未来さんに向かってこう言ってくれますか」


 意味なんて全くないはずなのにそんな気分になったからと言う理由で彩夢は息が当たるほどの耳元で囁いた。こくりと頷いて雅也は大声を上げる。




「未来ちゃん、僕未来ちゃんの大きさが一番綺麗だと思うよ!!!!!」


 嵐のように弾けていた水しぶきが止まり未来顔に笑顔が生まれた。


「ま、そうよね」


「たーんじゅん」


「あぁ!!??」



(……女の子にとって胸って大切なんだなぁ)


 分かったようで全く分かっていない雅也はググっと伸びをするのだった。





「ま、僕にとっちゃどうでもいいことだけどね」

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