魔界捜査ファイル ~狼男は実在した!~

日本一ソフトウェア

【第1幕】住宅街の狼男

【魔界捜査ファイル ~狼男は実在した!~】作:城花健人


 ――文学探偵が殺された。

 携帯タブレット型の通信装置『探偵デバイス』越しにそう伝えられたのは、朝食の準備の最中であった。


 思わず力が抜けて、握っていたフライパンがコンロの上へと落下し、自家製のベーコンごとひっくり返った。


 無機質な警告音が鳴り、コンロの火が止まる。

 先ほどまでかぐわしく思えたタンパク質の焼ける匂いが、やけに鼻につく。


 探偵として、多くの経験を経てきた自信があったが、二十年来の友人の死を冷静に処理できるほど、まだ私は強くなかったらしい。


「……すまないな、魔界探偵。キミに最優先で伝えるべきかと思ったが、軽率だったかもしれない」


 デバイス越しに、まだ年端も行かない少女の声で気遣われた。


 いけない。

 私の役割は彼女を教え、導くことのはずだ。

 ゆっくりと息を整え、デバイスの向こうの会話相手――理想探偵に返答する。


「詳細を教えてくれ、理想探偵。彼の友人として、この事件は私が解決してみせよう」


「私怨で動かないと、約束できるか?」


「私は探偵だ、私怨でなど動かんさ。一流の探偵とは――」


「感情に振り回されるのではなく、感情を武器として振るう者、だろう? その言葉は、もう聞き飽きているよ」


 デバイス越しに笑い合ったのち、会話は続く。


「魔界探偵、正直に話そう。キミの心労も承知で伝えたのは、今回の殺人事件の真相を解明するのに、キミが最も適任だと思ったからだ」


 デバイスから通知音が鳴ったので確認すると、今回の事件の仔細な資料が送られてきていた。


 さわりだけ素早く資料を確認すると、興味深い証言が目にとまり、理想探偵の言わんとする意図を理解する。


「『無事保護された被害者の娘は、犯行時刻に自宅で狼男を見たと、証言している』だと?」


「気付いたか。幼い少女の証言ということもあって、警察はその証言を見間違いだと断定しているが、私は腑に落ちない。この事件の裏には、何かがあると見ている」


 ――狼男。

 『狼憑き』や『ウルフマン』、『ウェアウルフ』、『人狼』など、その呼び名を変えつつも、世界中で広く知られた怪異のひとつ。


 かつては文学の題材としても広く用いられ、エンタメの世界ではもはや使い古されたキャラクターだ。


 そんな狼男がかつて『文学探偵』として活躍していた文学家を殺害し、オカルトの専門家であるこの私が捜査へ臨むことになるとは……。


 何とも奇妙な運命。

 いや、如何にも運命的だと言うべきか。


「探偵同盟を代表して命じよう。

 魔界探偵――オカルトの専門家として、狼男の正体を暴き出せ」


        ◆


 都心から離れた物静かな住宅街。

 多くの世帯が住むベッドタウンとして知られており、殺人事件などとは縁遠い、穏やかな空気が流れている。


 そんなのどかな景観の一角に、制服姿の警官たちが多数集まっているのだから、違和感が甚だしい。


 そんな非日常的な集団の元へと近寄って、私は挨拶がてら、声をかけてみた。


「捜査ごくろう。進捗はどうだ?」


「え……? いや、誰ですか、あなた。何ですか、その変な格好」


 警官に青ざめた顔で問われ、自分の格好を改めて確認する。


 神父服キャソックを元に仕立て直した漆黒の平服に、かの黒魔術師『ラ・ヴォワザン』の遺品とされるレッド・ジャケット。全身に巻いた魔除けの数珠。


 右目に触れ、トレードマークの眼帯が装着されていることも確認できた。

 何らおかしな要素はない。


「私の格好が変に見えるのか? 殺害現場を見たショックで、幻覚を見ている可能性があるな」


「いやいや、正常ですよ! おかしいのはあなたの格好です! ここはコスプレ会場ではないんですよ!?」


 凄まじい剣幕で警官が詰め寄ってきた。

 壮絶な現場を見たことで、精神的にまいっているのだろう。


 一刻も早く、捜査を始めなければなるまい。


「細かな話はあとだ。早く現場を見せてくれ」


「細かくないですよ!? あなたみたいな変質者を現場に入れるワケにはいきません! 止まってください!」


「はい、そこまで。そのヒトは変質者ではないから、落ち着いてー」


 警官がまとわりついてきたところで、女性警官がこちらへ歩いてきた。


 私の身体を押さえにきていた警官が、素早く私から離れ、ビシッと敬礼する。

 どうやら、女性警官は彼の上司らしい。


 青いフチの眼鏡に愛嬌のある丸い目。

 写真で見たことはあったが、目にするのは初めての相手だ。


「ひと目で分かりましたよ、あなたが魔界探偵ですね? 念のため、取り決めの通り、探偵デバイスを見せてもらえますか?」


「そうだったな、すまない。まだ不慣れなせいで忘れていた」


 懐から探偵デバイスを取り出し、電子ロックを解除して、青ブチ眼鏡の警官に画面を見せた。


 すると警官は微笑を浮かべ、懐から警察手帳を取り出してみせた。


「理想探偵から話は聞いていますよ。評判通りの、いいファッションセンスです」


「キミがウワサの蒼井あおい管理官か。会えて光栄だ。キミと、キミの実家には、我々もとても助けられている」


「ふふ、それはよかった。では今度は、私たちが助けていただく番ですね」


 語りつつ、蒼井管理官が現場となった家へと、私を先導する。


 瓦屋根風の屋根に、木目調の柱が随所に見える外観。

 住宅街には不釣り合いなほど、緑鮮やかな生け垣に、その上から顔を出す観賞用の笹。


 和風モダンとも言うべきそのデザインに、被害者の破天荒でありながら妙な部分で昔気質であった性格が、よく表れている。

 願わくば、生きている間に訪れたかったものだ。


「期待していますよ、魔界探偵。何と言ったって今回の事件の被害者は、あの著名な文学家『芥川龍太郎』……解決できなければ、警察の威信に関わりますからね」


 ――あの家で、龍太郎は死んだのか。

 家へと近づくにつれて、遥か昔の記憶が浮かび上がってきた。


 かつてライバルとして鎬を削り合った相手、『文学探偵』との争いの記憶が――。


        ◆


 もう十年以上も前になろうか。

 私と龍太郎は、とある麻薬組織が絡んだ殺人事件の捜査中にしくじり、犯人に拘束され、車のトランクの中に押し込められた。


 何も見えない暗闇の中、男二人、背中合わせで寝かされた状態。

 足は拘束されていないものの、手は後ろ手に縛られた状態で、まともに身動きがとれない。

 力づくでトランクをこじ開けることは不可能だ。


 座席とは桁違いの揺れで、吐き気がこみ上げてくる。

 あと数十分もすれば、人気のない場所に到着し、殺されてしまう。


 百戦錬磨の自負があった私も、無力感に打ちのめされ、絶望していた。


「神よ……我らの命を、どうか救いたまえ」


「魔界探偵と呼ばれているキミが、こんな時に神頼みかい? 笑えないコメディはやめてくれよ」


 暗がりの中で身体を動かしながら、『文学探偵』――芥川龍太郎あくたがわ りゅうたろうが挑発的な声で言った。


「言うではないか、文学探偵。ならば、お得意の知識量でこの窮地を脱せるのか? もはや、神に願う他あるまい」


「ああ、脱出してみせるさ。ただ、僕の側からブレーキランプに手が届かないから、キミの助けがいる。死の恐怖から目を背けず、共に立ち向かおうじゃないか」


 それから文学探偵は、過去に読んだ小説で、トランク内にある点検用パネルをこじ開け、ブレーキランプを破壊し、外に助けを求める展開があったことを説明した。


 座席側を向いた状態の文学探偵では発見できない。

 だから私に発見して欲しい、と。


「フィクションと現実は違うぞ、文学探偵。考えが甘すぎるのではないのか?」


「オカルト脳みそ野郎のキミには言われたくないな。どうせ今のままでは殺されるだけなんだ、死ぬ前にひと暴れといこう」


「まったく……相変わらず、貴様といると調子が狂う」


 それから暗闇の中を必死に探し回り、点検用パネルらしきものを発見。手が使えないので口でこじ開け、ブレーキランプの裏側を剥き出しの状態とした。


「おい、開いたぞ。ここからどうすればいい?」


「小説では、コードを引き千切ったあと、足で外に蹴り出していたね」


「な、何だと……!? ならば、ブレーキランプが顔の位置にある今の状態で、どうしろと言うんだ!? 引き千切るのはまだしも、蹴り出すことなど不可能ではないか!」


「それは分からない。まぁキミなら、何とかできるだろ?」


「貴様……脱出したら、覚えていろよ」


 結局、私はコードを口で引き千切り、頭突きでブレーキランプを外に押し出した。


 その後は、開いた穴を覗き続けた結果、視線の合った後続車の運転手が通報してくれて、九死に一生を得ることとなる。


 そして救助が来るまでの間は、私と文学探偵はトランクの中で、互いの将来のことを語り合った。


「魔界探偵、口は大丈夫かい?」


「おかげさまで血まみれだよ。しばらくは、固形物を控えることになるだろうな」


「すまないねぇ、本当に感謝しているよ。探偵を引退する前に、いい思い出ができた」


「何だと……? まさか貴様、今回の件で臆したのか?」


 確かに、今回の事件は異常な点が多かった。


 私たち探偵二人が出し抜かれるほどの犯人の狡猾さ。

 ならず者の集団とは思えない異常な技術力と、その技術で作られた高純度の薬物。


 そして犯人たちが口にしていた『明王』という謎の言葉。


 今回暴くことができたのは、闇の一部。背後で得体の知れない巨悪が蠢いているような、妙な心地がしたのは事実だ。


 しかし――


「貴様もつい先ほど、死の恐怖に立ち向かえと言ったではないか。目指す場所は違えども、貴様とは信念を同じくしていると思っていた。見損なったぞ、文学探偵」


「立ち向かい方も色々さ。僕はこれから作家になって、文学の方面から探偵たちを支えていこうと思ったんだよ」


 何ともお気楽な調子で文学探偵は言った。

 その言葉に、聞いているこちらまで、気が抜けそうになる。


「魔界探偵、キミも感じただろう? 今回の事件の裏に潜む、邪悪な何かを」


「……ああ。そう遠くない未来に、大きな事件が起こる。そんな妙な胸騒ぎがした」


「僕も同じさ。僕の予想ではこの先、凶悪犯罪が増えていく。その時のためにも、『探偵』を愛する若い世代を増やすべきだと思うんだよ」


「それと作家になることに、どんな関係がある?」


「よくぞ聞いてくれたね! 僕やキミの経験を元に、探偵小説を作るんだよ! コイツは流行るぞ~~~? なんたって、僕らが解決してきた事件は、奇々怪々なものばかりだものなぁ!」


 鼻息荒く語る文学探偵。

 夢を見すぎだと反論してやりたくなったが、怒らせると面倒なので黙っておくことにする。


 それに、この男は抜けているが、バカではない。

 コイツなりに、真剣に探偵の未来を想っての行動には、違いないのだ。


「……まぁいいのではないか? 私はこれからも探偵を続けるし、取材が必要になれば、いつでも連絡を寄越すといい」


「持つべき者は親友だね。デビューした暁には、真っ先にサイン入りの本を贈るよ!」


「ただし、私が解決した事件をネタにした場合は、印税の一割を寄越せ」


「金を取るのかい!?

 キミは金に執着しないタイプのはずだろう!?」


「私が儲からないことは気にならないが、私をネタにした者が儲けを独り占めすることは耐えがたい。貴様の作品は常に監視しているから、約束を違えるなよ?」


「はいはい、分かりましたー……これからもよろしく頼んだよ、魔界探偵」


「頼まれてやるさ、“龍太郎”」


 狭いのトランクの中、私たちは背中合わせで笑い合った。


 それから一年後、龍太郎は宣言通り、『探偵小説』の新鋭として成功を収め、多くの探偵ファンを生み出すことになった。


 『明けぬ夜事件』の影響で凶悪犯罪が増えるに従って、優秀な探偵が次々と頭角を現し、人気を博すようになった現状にも、少なからず影響していることだろう。


 龍太郎は作家として。

 私は現場の探偵として。

 私たちは二人で、探偵業界を盛り上げることに尽力し続けた。


 この数年は、私が海外を拠点としていたこともあり、連絡こそ取り合っていなかったが、これからも私たちの関係は変わらない。


 そう、思っていた――。


        ◆


 本棚とデスクとベッド以外に何もない一室。

 その隅のツインベッドの上で、龍太郎とその奥方が、首から血を撒き散らして絶命をしている。


「――龍、太郎」


 即死だったのか、ベッドに乱れた様子は見られない。

 十五年前から変わらない坊主頭と、その脇に置かれた丸眼鏡に、つい懐かしい気持ちとなった。


 しかし、もう龍太郎とは二度と言葉を交わせない。

 覚悟していたはずだが、それでも目眩に襲われる。

 また私は親しい者を失ったのだと、今更ながらに実感することとなった。


「大丈夫ですか、魔界探偵」


 隣の蒼井管理官が私に訊ねかけた。

 呆けてしまっていた表情を引き締め直し、ハッキリと返事をする。


「すまない、もう平気だ。状況を見る限り、龍太郎と奥方は就寝中に襲われたようだな」


「ええ。喉を鋭利な刃物でひと刺し。咄嗟の犯行ではなく、犯人は明確な殺意を持って、この部屋を訪れたのでしょう」


 龍太郎の家は一階建て。

 この寝室は家の東北の隅に位置している。

 他に荒らされた部屋などないことから、物取りの犯行でないことは確定とみていい。


「動機は恐らく、怨恨か」


「私も同意見です。ホトケは著名な作家でかつ、この近所では有名な夫婦だったので、怨恨による犯行だと考えるのが妥当でしょう。ただ――」


「怨恨にしては殺害方法がスマート過ぎるな。恨みのある相手を殺害する場合、不要に力むことや、不安から必要以上に遺体を傷つけることが多い」


 自分の探偵としての経験上、このような状況には心当たりがある。


「『殺し』に特化した、プロの犯行である可能性もあるな」


「流石は魔界探偵、ひと目でそこまで分かりますか」


 蒼井管理官が楽しげに口笛を鳴らした。


「ただ、問題はここからですよ。実はこの家は犯行当時、巨大な密室状態にあったんです」


「密室状態だと? どういうことだ?」


 蒼井管理官に案内され、寝室を出て玄関へと案内をされた。


 玄関の扉は外観こそ和風の引き戸であったものの、カードキー形式の電子ロックであり、ピッキングが難しい仕様となっている。


「どうです? 昔ながらの、ワイヤーを用いた密室トリックなどは難しいでしょう?」


「そうだな。犯人がプロの殺し屋ならば、ハッキング用のカードキーを所持している可能性はあるが……」


「今回は、その可能性もなさそうです」


 蒼井管理官が引き戸を開くと、外へと続く門まで真っ直ぐに石畳が敷かれていた。


 そして、すぐ頭上には監視カメラ。

 玄関の周囲を、余さずに映し出す箇所に設置されている。


「あの位置にある監視カメラなら、石畳を通って玄関にたどり着いたヒトがいれば、確実に姿が映るはずでしょう?」


「映像には何も映っていなかったのか?」


「ええ、何も。この玄関を通って室内に入ったヒトは誰もいません」


 この家には裏口もない。

 残る出入り口は、残りひとつだけ。


 玄関を右回りで移動すると、砂利が敷き詰められ、隅に観賞用の笹が生えた小さな庭へとたどり着く。


 その庭に面する形で縁側が設けられていて、一面にワイヤー入りの窓が張られていた。


「蒼井管理官、窓に傷つけられた形跡は?」


「ありません。それに窓には防犯装置が仕掛けられていて、不用意に開ければ、防犯ベルが鳴ったはずです。出入り口があったとすれば、あの隙間だけですねぇ」


 蒼井管理官が指差した先を見ると、窓の右端の一部分だけが木目調となっており、下に小さな透明の扉がついていた。


 近づいてよく観察してみると、その扉は押すか引くことで開閉する構造のようだ。


 そこで、扉越しに私を睨みつけている存在に気付く。


「……猫、か?」


 思わず疑問符がついてしまった。

 その理由は単純で、猫があまりにも大きいためだ。


 家の中から透明な扉を押して出てきたその猫は、柴犬の成犬ほどはありそうなサイズをしている。


 数十年生きてきた中でも、これほどの大きさの猫と遭遇したことはない。


 不可解な事件。非現実的な猫。

 すべてが繋がった――


「まさかこの猫、伝説のネコマタの類いか……? 龍太郎を殺した犯人は、妖魔であったとは!」


「いやいや違いますよ。ノルウェージャンフォレストキャットっていう、歴としたイエネコの一種です」


 蒼井管理官が巨大な猫を抱き上げつつ、言った。

 小柄な蒼井管理官が抱きかかえると、身体の半分ほどが猫で覆いかぶされ、その大きさが余計に際立つ。


 これほど大きなイエネコがいるとは、世界は広い。


「ウチの実家でも飼っていたんですけど、見た目の大きさの割に人懐っこくて、最高に可愛いんですよ。運動も好きな子だから、外に出すのが大変ですけど」


「なるほど。だから、猫が自分で外に出られるよう、窓に扉がつけられているのか」


 龍太郎とその奥方は、どちらも作家だ。

 執筆作業に集中している際に散歩へ連れ出す必要がないよう、猫用の扉を設けるのは自然な流れだろう。


「しかし、あの他人にあまり興味のない男が、猫を飼うとはな」


 それも、わざわざ猫用の扉を作ってやるなんて、私の知るイメージとはかけ離れている。


 奥方の趣味だろうか。

 それとも、子どもができて変わったのか。

 どちらにせよ、昔からの変わりようが面白い。


「そんな風に変わったお前を……目の前で笑ってやりたかったぞ」


 丁寧に作られた猫用の扉に触れながら、思わず口に出して言った。


 すると、そこで扉の付け根の部分に、奇妙な物が引っかかっていることに気付く。


「これ、は……」


 引っかかっていたのは、1メートルはありそうな黒い毛髪。


 龍太郎は坊主頭、奥方もショートヘアだ。

 生き残ったという一人娘の髪の毛の可能性もあるが、偶然この付け根に引っかかることなど、ありえるだろうか。


「違う」


 そうだ。

 龍太郎の娘が『狼男を目撃した』という話も。

 この猫用の扉に挟まっていた毛髪も、偶然ではないはず。


 この私、魔界探偵の役目は、警察ではたどり着けない未知の可能性を見つけ出すことだ。


「蒼井管理官、この毛髪が猫用の扉に挟まっていた。犯人はこの扉を通って侵入した可能性が高い。至急、毛髪の正体を調べてくれ」


「こ、この猫用の扉を!? いやー……私から言っておいてなんですけど、それは無理なんじゃないですかね。この大きさでは、赤ん坊くらいしか通れないですよ」


 先ほど調べた限りでは、扉の大きさは横幅が30センチ、高さが35センチ。

 確かに人間なら、赤ん坊程度しか通ることはできないサイズだ。


 しかし、だからこそ、私はその可能性を追求する。


「逆を言えば、この扉を通ることのできた異質な者……『狼男』がいれば、その者こそが犯人だということではないのか?」


「『狼男』、ですか。まさか本気で、そんな非現実的な存在の犯行だとお思いで?」


 訝しむように蒼井管理官が訊ねた。

 私の答えに、迷いはない――


「蒼井管理官、キミたち警察は真っ当に捜査を進めればいい。

 だが私は魔界探偵として――『狼男』の正体を追うこととする!」


 この事件を解けるのは私以外にいない。

 探偵としての勘が、そう私に、囁きかけていた。


                              ――第2幕へ続く

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