第28話:癒しの五階層

 遥の提案を聞いた僕は早速五階層の準備を開始していた。

 とは言っても、特別に変わった魔物は配置しない。


 Eランクの魔物を数匹。


 それ以上は何も出さないし、階層の広さもそれほど広くない。


 二つの通路。

 男性限定しか通れない通路と女性しか通れない通路の先には、少し広い空間が二つ連なっている。


 しかし、天井は高く、何故か星空が映し出してある。

 もちろんここは地下ダンジョン。

 そのままでこんな星空が見えるはずもなく、モニターで映してあるに過ぎない。


 しかも、ダンジョン内には和風ちっくにいくつか竹が生えている。



 敢えて言うなら、どうしてダンジョンの中にこんなものを作るのか分からない。


 しかし、これが遥たっての希望だった。

 



「わぁ、本当に作ってくれてるのですね」




 嬉しそうに五階層を眺める遥。





「言われた通りに作ってるけど、本当にこれでよかったの?」


「もちろんですよ!! 完璧です!」


「でも、これって、あれだよね……」




 手前の空間にはいくつかの棚が置かれ、奥の空間には巨大な湯船。

 シャワーも完備しており、その見た目はまるで――。




「えぇ、温泉ですよ?」




◇◇◇




 ついに五階層の温泉が完成する。

 本当にこんなダンジョンがあっていいのかな、と思うけど、そもそも今はもう他所とは全く違うダンジョンになっている。


 これはこれでいいのかな、と思うことにした。


 それにただの温泉では止まらない。

 温泉に入った後はそのまま地上へと直帰できるワープポイントも設置した。


 そう、ここで自分から帰ってもらおう、という算段だった。


 ただ、そのためには温泉の心地よさが重要になってくる。

 だから、実際にその温泉に入ってみることとなった。




「ふぅ……、中々良いお湯だなぁ……」



 男湯に入り、足を伸ばす僕。

 確かに温泉なら風情ある竹や星空がちょうどいい。


 そして、少なめに召喚した魔物たちは……。

 この温泉の掃除や入り口の監理、そして、異性の温泉を除いたり、侵入したりしようとする不届き者を倒す役目を担っている。


 温泉の中で戦うことになるので、それほど強力な力は必要がない。

 むしろ、不正を見逃さない魔物が大事だった。




「わわっ、このゴブ、襲ってきたよ!?」


「それはエリシャが男湯に入ろうとしているからですよ……」


「だって、エリシャはお兄ちゃんと入りたいよ?」


「ダメですよ、異性なんだからエリシャは私と一緒に女湯に入りますよ」


「うぅぅ……、お兄ちゃん……、エリシャのこと、嫌いになったの?」




 何でだろう?

 普通は男の人が騒ぎを起こすのに、今ばっかりは女性側(エリシャだけだが)が騒動を起こしていた。


 でも、こうしたことがあるから、やっぱり警備用の魔物は必要だよね?


 あっ、そうだ。

 せっかくだから、この温泉のことも宣伝しておこうかな?


 一応、センシティブな配信にならないように体をタオルで隠し、僕は配信を開始していた。

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