第13話:スキル無効化の罠

 簡単に壊れてしまう装備品。

 いくらDPが溜まってるとはいえ、普段ならあまり買いたくない装備。

 でも、今回ばかりは仕方がなかった。


 相手が常に固定ダメージを放ってくる敵なのだから、対策を打つなら当然のことだった。


 ただ、問題は誰が装備して、土田と戦うのか……。

 僕が装備したとしても、能力で遥かに劣っている。



 うぅぅ……、僕にもっと能力があれば……。



 先に僕自身を強化しておいた方が良かったかもしれない。

 でも、今更言っても仕方がない。



 相手はダンジョンコアを狙っている高ランク冒険者。

 しかも、かなり殺意をむき出しにしている。

 一度倒したとしても、何度も挑んでくることは目に見えている。



 つまり、ただ倒しだけではダメ。

 かといって、捕獲しようとしても常に固定ダメージをばらまける相手を捕まえることができるのか?



 と、とにかく、方法を思いつくまでは、撃退するより他ないのか……。




「遥、えっと……、その……」


「大丈夫、分かってます。あの冒険者をサクッと殺ってきたら良いんですよね?」


「うん、そうだよ。……って、違うよ!? ダンジョンで冒険者を倒しても、冒険者組合で復活してしまうよね? それなら倒しても仕方ないよ」


「あのスキルを止めるのが先なんだ……」


「……でも、何かあるかな?」


「聞いたことないかも……。スキルを無効化する方法なんて――」


「一応ダンジョンの罠であることはあるんだよね。指定した範囲だけ、スキルを使えなくする罠。全員が対象になるからデメリットも大きいけどね」


「それ、ボス部屋全体に配置できますか?」


「で、でも、大丈夫? 遥もスキルが使えなくなるんだよ?」


「――大丈夫。あの人はスキルに依存してるタイプだから……」




 遥が自信たっぷりに言ってくる。

 確かに能力値を見ていると遥が負ける要素はないか……。




「とりあえず、あのスキルを抑えるのはそれで行くかな。一応、ロザリオも大量に持っていってね。DPの許す限り作っておくから――」


「――別にロザリオはなくてもいいですよ?」


「で、でも、もしスキル無効が効かなくて、ダメージを受けるようなことがあったら――」


「そのときは私も冒険者組合で復活するだけですから?」


「それはそうだけど……、でも、危険だから」


「はぁ……、わかりました。それなら一つだけもらっていきますね。それにスキル無効の罠なんて、かなりのDPを使うんじゃないですか? ボス部屋全体に設置するんですよね?」


「あっ……」




 慌てて僕は罠の項目を調べていく。




 ―――――――――――――――――――――

【スキル無効化】

 種別:罠 ランク: A

 効果:配置した場所ではスキルが使えなくなる。

 消費DP:100/㎡

 ―――――――――――――――――――――




「えっと、1㎡で100DP……。ボス部屋ってどのくらいの広さがあるんだろう?」




 これをボス部屋全体に配置しようとする。

 すると、消費DPが1万と出てくる。



 ボス部屋の広さは100㎡なんだ……。



 って、一万DPも持ってないよ!?




 別モニターで常に表示しているダンジョンステータス。




――――――――――――――――――――

№1524【カナタダンジョン】

マスター:如月奏きさらぎかなた

ランク :F LV :1 階層数 :2 クリア特典:なし

所持DP:1,039

【モンスター】

《1階層》

スライム:LV1(0/5)

オーク:LV30(0/1)

《2階層》

スラ妖精:LV20(1/6)

ダイヤスラ妖精:LV60(0/1)

【ダンジョン侵入者数】

今日:64 昨日:25

【配信視聴者数】

今日:115,843 昨日:112,541

【スパチャ金額】

今日:10,000 昨日:4,520,000

【インセンティブ(DP)】

今日:28,386 昨日:26,161

――――――――――――――――――――




 明日になったら、とんでもない額のDPがまた入ってくる。

 ただ、倒された魔物たちを復活させるとそれほど残らないのだけど――。


 それに現在のDP量。

 ボス部屋全体をスキル無効にするには全く足りていない。




「ちょ、ちょっとダンジョンの強化に使いすぎたかも……。じ、時間稼ぎをお願いしていい?」


「私は最初からそのつもりですよ?」


「ご、ごめんね。一応ロザリオを四つと残りをスキル無効化の罠に……。ろ、6㎡しか買えなかった……。一応ボス部屋の中央に設置したよ」


「了解。それならあとは任せて!」




 遥は普段着の茶色パーカーと黒スカートのまま、キャスケットを被り、手にはしっかりと分厚い辞書を持つと、マスタールームの出口へと向かって行った。



 その後ろ姿を僕は不安に感じながら見守っていた。




◇◇◇




 モニターでボス部屋の様子を映し出していた。

 しっかりと相手のステータス、そして、遥のステータスも側のモニターに表示させて……。


 僕の前には、既に十近いモニターが浮かんでいる。

 いざという時には、僕が管轄しているダンジョンのモンスターには。DPを消費すれば付与バフや治癒を与えることができる。


 そして、それは僕の守護者となった遥にも有効的だった。


 それをすぐに行えるように、支援の選択画面も表示している。

 あとは、配信をそのまま行っている。

 それどころじゃない……、というのは分かっているが、今だからこそ、飛んでくるスパチャが助かっていた。


 そして、ついにボス部屋で遥と土田が向かい合っていた。


 漆黒のマントに身を包んだ、黒い短髪の少年、土田正樹つちだまさき

 薄暗いダンジョンの中で、その姿はほとんど視認できず、唯一見えるのは血走った赤い瞳だけだった。

 両手に鉄製の短剣を持っているようで、戦い方は暗殺者スタイルということがよくわかる。

 ただ、それを使うことはほとんどないのだろう。


 スキルを見る限りだと、完全にスキル特化タイプに違いない。

 土田もスキルには絶対的な自信を持っているようで、遥を前にしても腕を組み、高笑いをしていた。




「くっくっくっ、今度の相手はガキか。ガキに戦わせるなんて、やっぱりダンジョンマスターは極悪非道のやつらばかりだな」


「……」




 一方的に話しかけてくる土田に対して、遥は口を開くことすらなかった。

 何か言う前にその体が光り輝き、左手に持っていた辞書が開く。

 そして、指を突きつけると巨大な火の玉が土田を襲っていた。


 しかし、土田は涼しげな表情をしたまま、一歩も動かない。

 すると、彼に向かっていた火の玉が途中で消滅していた。

 それと同時に遥が持っていたロザリオが、甲高い音を鳴らして壊れていた。




「……どうして?」


「そんなことは決まっているだろう? 魔法もダメージを受けたら消滅するのは筋だからな。それよりもお前にもダメージを与えたはずだが、なぜだ?」


「……」




 無駄な情報を渡さないようにしようとしているのか、遥は言葉数を減らしていた。

 しかし、土田は自ずと応えにたどり着いていた。




「そういえば、ダメージを肩代わりしてくれる装飾品があると聞いたことがあるな。それを使っているのか……」




 その言葉と同時に、再び遥の服から甲高い音が鳴る。




「やはりそうか。なら、あと何発耐えられるか、試してやろう!」


「――させない!」




 今度は遥の前に巨大な竜巻が現れる。

 それによって、遥の姿が完全に消えてしまった。




「ちっ……」




 土田は舌打ちをするとサッと手を払い、竜巻にダメージを与え消滅させていた。




「相手が風であろうと関係ない。俺がダメージを与えられると思ったものは全て固定ダメージを与えるんだからな。……あれっ?」




 土田が回りを見渡すが、遥の姿はそこにはなかった。

 いや、ないように見えた……というのが正しい。


 モニター越しに見ていた僕だからわかる。

 遥は竜巻の魔法を使った後、別の魔法を使い、その姿を透明に変えていた。




「逃げたか、隠れたか。隠れているのなら、その程度で防げるなんて思わないことだ。固定ダメージの範囲指定を入った敵全てにすれば良いだけだからな」


「へぇ……、そんなこともできるんですね」




 ボス部屋の中央で姿を現す遥。

 パタッと本と閉じると、初めて土田に対して微笑みかけていた。




「でも、大体の能力はわかりました。もうその能力は通じません」


「な……にを。馬鹿なことを言うな! もう良い、死ねぇぇぇ!!」




 土田がスキルを発動させる。

 手を突きつけ、口元がニヤリとつり上がりながら――。


 しかし、遥がダメージを負うこともなく、ロザリオが壊れることもなかった。

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