第615話 全力で誤魔化す

 1発だけ、それならば魔導士の全力だと思ってもらえる。

そう誤魔化すつもりで、メテオストライク(小)を撃った。

だけど、よくよく思い出せば、メテオストライクは2発目だったよ!

極小と小だから撃てたという体でも言い訳にならないのが痛い。


「そうだ、魔導士が2人居たことにすれば……」


 使用者の珍しい【メテオストライク】使いが2人?

そんなことでどうにかなるのか?


 撃ってしまった後で、俺は致命的な失策に気付いた。

だが、もう遅い。撃ってしまった後だ。

このまま開き直って誤魔化すしかない。


カキーーーーン


「え?」


 だが、そこで予想外の事態が起きた。

地竜の前面に魔法陣が輝いている。

それは対物理防御の魔法、所謂防御障壁バリヤーだった。

それにメテオストライク(小)が弾かれたのだ。


 いや、極小でなく、小だぞ?

それは弾かれたというよりも、盾でなされたと行った方が良いか。

地竜の防御障壁バリヤーは斜めに展開していて、メテオストライク(小)の運動エネルギーの向きをほんの少し逸らしたのだ。


 メテオストライクは、本来は大質量を利用した攻撃だ。

大質量が落下することで、質量エネルギーと運動エネルギーで大被害を齎す。

その比重を運動エネルギーに割り振ったのが極小や小になる。

弾頭が軽いのでなすのにはむいていた。


「くそ、盾防御の応用に誰かが気付いたのか?」


 これは現用戦車の前面装甲の考え方だ。

厚い装甲で耐えるよりも、装甲を寝かせて滑らせるように逸らしてしまう。

ミサイルが突入直前にポップアップして上から当たるのはその効果を削ぐためでもある。


「やはり誰かが入れ知恵してるよな?」


 この世界の技術から逸脱する新兵器の数々、そして既存技術の新たな運用方法、教国には俺たちと同じ召喚勇者がいる!


 教国の教えの根本には勇者排斥思想がある。

勇者の存在が世界を歪め滅ぼすことになる、それを防ぐのが女神教の教えであるという考えだ。

これは勇者召喚による次元の歪みを危惧してのことで、それを防ごうというのはわからなくもない。

だが、勇者召喚が行われてしまえば、歪みはもう発生してしまった後だ。

召喚勇者を殺しても、何の解決にもならない。

むしろ、召喚勇者が減れば、当事者は新たな召喚をしようとする。

それは世界の破滅を早める手助けになるのでは?

教国はその矛盾にどうして気付かないのだろうか?


 1つ気になることがある。

アーケランドが持つ勇者召喚の魔法陣は俺が壊して、直されないようにアイテムボックスの中に隠した。

つまりもう勇者召喚は行われない。

それなのに教国が頑なに勇者排斥論を裏で推進し続ける意味。


「まさか、滅びの加速が目的?」


 そのためには勇者召喚が行われなければならない。


「アーケランドを攻めるのは、勇者召喚の復活が目的か!」


 その後ろにいるのはアレックスなのか?

つまり今は教国とアレックスが共闘している?

現代技術の流出はアレックスの存在で説明がつく。


 いや、待て。

教国に大型帆船が齎されたタイミングは、アレックスがアーケランドを牛耳っていた時期と重なる。

俺たち召喚勇者が教国の暗殺集団勇者排斥論者の脅威に晒されていた真っ最中だ。


「何が何だかわからなくなった」


 少なくとも、面倒事が進行しているという事実が判った。

その面倒事の最たるものが、目の前の魔導砲牽引地竜だった。

今は射角のせいで撃てないが、城壁に接近されれば魔導砲が攻城兵器として機能しだすはずだ。

しかも地竜は戦う意志を失った反乱領民を踏みつぶそうと進軍している。


 ここはこちらも現代知識でどうにかするしかない。

そして、俺はあることを思い出した。


「【ストーンバレット(メテオストライク極小)】」


 通常ならば、魔法には詠唱と魔法名が必要だ。

だが、俺たち召喚勇者は詠唱破棄や無詠唱が使える。

魔法名を口にするのは、仲間への伝達以外の何ものでもない。

つまり、口にする魔法名と実際に発動する魔法が違うなんて芸当も出来る。


 そのテストとして、ストーンバレットに偽装したメテオストライクを撃ってみた。


ヒュン ドーーーーン


 おかしなことがあるとすれば、ストーンバレットが空から降ってくることだろうか。

弾かれるならば、弾かれない角度で撃つ。

弾かれるならば、防御障壁バリヤーを越えて当てる。


 そして、その目論見は成功した。

地竜が防御障壁バリヤーを展開するも、空からの攻撃に呆気なく沈んだ。


「これで誤魔化せたな」


 俺は自己満足に浸っていた。


「空から降ったら、どう見てもメテオストライクよね?」

「つーか、ストーンバレットって聞こえた人が何人いたんよ?」


 ぜんぜん誤魔化せてなかった!

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