第598話 教国の聖女になるまで4
アーケランドと教国の国境を越えた。
と言っても明確な国境線も関所のようなものも無かった。
街道で繋がる街の所属がどちらの国か程度の緩い国境だった。
では、なぜ国境を越えたと判ったかというと、宗教的な文言の書かれた看板が現れたからだ。
教国は布教活動に熱心らしい。
もしかするとアーケランド側に越境しているのかもしれないけど、そこの取り締まりは緩いようだ。
「これならば、私も聖女の評判があれば持て囃されそうね」
これまで野盗やお貴族様の私兵には襲われたけど、王家の追手は来ていない。
私の死の偽装は上手く行ったということだろう。
ダンジョン内では遺体がダンジョンに吸収されるという現象があると、よく
魔物の死体を資源とする場合、消えてしまうと困る。
しかし、ゾンビなど素材として役立たずで残っても困る魔物もいる。
それらがご都合主義の如く、ダンジョンによって処理が違うという有難い仕様だった。
たまたま私が入っていたダンジョンは残る方だった。
魔物が掃除ボランティアをしない限り遺体は放置される。
だが、魔物が頑張ったとしても、パーティー全滅の痕跡はなんとなーく残る。
それが報告され、帰って来なかったパーティーの全滅診断になるわけだ。
私の遺体は「魔物が〇〇しくいただきました」という扱いになっていることだろう。
え?装備は食えないだろうって?
スライム系で装備を食べてしまう魔物も居るには居るけど、その消化速度は遅い。
そこは他の冒険者が発見報告の報酬として懐に入れているのだ。
私が路銀を頂いたようにね。
それがパーティー全滅診断へと繋がるわけだ。
◇ ◇ ◇
「聖薬の聖女様、こちらの教会にお寄りください」
いつものように聖女アピールをしていると、教会のシスターが目の前にやって来て跪いた。
私は困惑する。
教国に入って初めての街で声がかかるなんて早すぎる。
私の目標は教国中央での聖女認定と囲い込みだからね。
「私には使命があるのです。
先を急ぎますので」
早くアーケランドから離れたいのに、ここで足止めされてなるものか。
ほら、私を私兵の軍で襲ったアーケランドのお貴族様がまだ何するか判らないし。
「せめてお食事と宿泊だけでも!」
どうせ食事と言っても、精進料理を質素にしたようなやつでしょ?
教会なんて清貧を好むに決まってる。
それで自分たちに酔うんでしょ?
「美味しいお肉をご用意しております」
私の表情を見て悟ったのか、シスターは美味しい肉があると言って来た。
もしかして、この世界では生臭OKなのか?
いや、よくよく考えたら、それ仏教だったわ。
「女神様のお恵みに感謝を」
私は打算によりシスターに付いて行くことにした。
美味しいお肉に釣られたのは言うまでもない。
旅の間、食べ物といえば質素なパンと干肉だったからね。
どうせ宿はとらなければならない。
豪華な宴で歓待してくれて、しかもタダならば断る手はない。
◇ ◇ ◇
「何これ、美味しい!」
「お気に召していただけて嬉しい限りです」
私は大接待を受けていた。
美味い食事、清潔な寝床、至れり尽くせりなお世話。
人間、ここまでされると駄目になるよね。
その居心地の良さで、ついつい滞在日数が伸びる。
よくよく考えたら、このために聖女をやってるようなものだ。
アーケランドで勇者として戦わされることも、厳しい訓練も無い。
アーケランドから逃げられるならば、この生活も悪くない。
「ああ、お酒も美味しい」
何のリスクもなく贅沢生活ならば、ここに永住しても良いかも。
食事やお酒に禁忌がないのも気に入った。
教国中央だと、戒律に厳しいご老人とかいるかもしれないし。
ここならば、ポーション製造機にされるわけでもないし、聖女として敬ってもらえる。
ああ、お酒の量が私を馬鹿にしていく。
その瞬間までは夢のような日々だと思っていた。
「大変です! 教会が武装集団に囲まれています!」
教会で働く下女が慌てて宴会場に飛び込んで来た。
「なんですって!」
「ここは男子禁制で修道女しかいないのに!」
ああ、すっかり忘れていた。
リスクがあったんだった。
私を奴隷にして一儲けしたい、アーケランドのお貴族様がいたんだった。
この世界、魔銃という銃があるんだったな。
今度は銃対策をされているんだろうな。
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