第19話

店を出て5分くらい外を闇雲に探して大通りを歩く。人に囲まれて探す所じゃなくなって困っている時に、秋華から電話が掛かってくる。


「もしもし、見つかった?」


「褒めても良いよ〜。ちゃんと2人とも見つけたし、追いかけて来てたあの女も居ないよ〜」


「良かった、こっちは囲まれたから2人をお願い」


「えまじ? 有名人は辛いね〜、うちなんて走り回ってても全然平気だったし。むしろ変な目で見られたし、一応世界2位だったし?」


「はははっ、じゃあ多分世界大会みたいな個人主催大会だったんだよ」


「ちーがーうーしー! とりあえずこのままご飯食べてくし、回らないお寿司行って請求するかんなー」


「どうせならお肉もお寿司もあるお店にしなよ2位の人」


「はー! 頭きた、言われなくても最高級のお店行くし! 行こ輝祈ちゃん、星海ちゃん──じゃーなばーか!」


「あっ、ちゃんと領収書ね。それとありがと」


「2人とも、今から行くお店全部出してくれるらしいから買い倒すぞー!」


もう聞こえてなかったのか、少し遠くなった声で秋華が両手を上げて騒いでるのが想像出来た。タイミングがめちゃくちゃなお礼も最後まで噛み合わなかった。

通話が切れてから現実に戻されて、この人混みをどうしようか考えていると、メッセージが入る。


『どーいたしまして』


それと、感謝しろよとふてぶてしい顔の猫のスタンプが送られてきていた。


わらわらと群がる人混みが少しずつ大きくなっていくのに対して、なんの対策も見つからないままスマホをしまい、ビルの広告に大々的に映された自分を恨めしく思う。


もうすぐ大会が始まる時期は毎年CMまで作られ、4連覇の期待と今までの強さと実績を元にしたワンフレーズが添えられ、かっこいいギターの曲とナレーションが街中に響く。ただ写真を撮られただけなのに、こんなCMになるなんて誰が想像出来ただろうか。


恥ずかしくて堪らずにハダリーに電話を掛け、何かがあった風に人混みを掻き分けて強引に進む。


「ちょっと大変で」


「どうかし──」


「長久手のショッピングモールの入口で合流で」


「はい? 今からですと少し時間が──」


「はーい、急いで行くから」


勢いで通話を終わらせていつもの倍の時間を掛けて店に戻り、店の戸締りを金庫番である安田君に任せて車を出す。ここまで来ても追ってくる人たちに笑顔で頭を下げながら道を空けてもらい、さっきの電話のフリ作戦で出した少し遠い長久手のショッピングモールに、特に用もないのに向かう。


あの意味の分からない電話で車を持っていないハダリーは来るはずもないし、せっかくだからドライブがてらお詫びの品でも買って帰ろうと信号を曲がる。

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