込めてβ

 夢でしか逢えない。

 ずっと、そうだった。

 彼女は、起きると全部忘れていると言っていた。あなたのことを忘れてしまって。それで、泣いていると。

 忘れていたほうがいいんじゃないかと、思う。自分は、起きても夢を覚えている。

 覚えていると、普通の日常生活に支障を来す。まるで彼女がそこにいるかのように、錯覚してしまう。

 彼女に逢うことはできなかった。

 本気で探していない、というのもあるが、結局のところは、こわいだけだった。彼女は、夢を覚えていない。現実で、彼女を知っているのは、自分だけ。


「むりだなあ、これじゃ」


 ひとりごと。ひとりの部屋に吸い込まれていく。

 彼女のことを、よく知っている。夢の中では、いつも一緒だから。

 でも。

 現実世界で、突然目の前に現れて。夢でいつもあなたと一緒だったんですとか言い始めたら。やっぱり無理だった。あやしまれて終わり。何も意味がない。最悪の場合、通報されるかも。

 いつか彼女は、違う夢を見るようになって。そして自分は、ひとり残される。たぶん、きっと、そうなる。


「通報されるよりはいいか」


 いや違う。通報されるのは百歩譲ってかまわないとしても。そんなことよりも、彼女に逢って、あなたは誰ですかと言われるのが、たぶん、いちばん切ない。

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