5-11 シルフィアの能力

 二年前、皇歴四百九十八年。異世界からの転生者が前帝を排し現帝を擁立してから一週間後。突然の政変により、皇都ロアヴィクラートは混乱の渦中にあった。転生者の率いる反乱軍が皇国軍を壊滅させたため、街の治安を維持する者はいない。

 襤褸を纏うシルフィアは貧民街を歩いていた。靴はないから足の裏は傷だらけ。木の皮や根を剥いで飢えを凌いでいるため指先は傷だらけで、唇は乾燥してひび割れている。空腹のせいで覚束ない足取りで、ゴミの散らばった路地をフラフラと進む。


 反乱軍が宮殿の宝物庫を開けて財宝や食料を配っているという噂を聞き、シルフィアは宮殿を目指した。反乱軍のせいで国内が荒れて誰もが困窮に陥っていたが、シルフィアはそんな事情は知らないし政治理念もないのだから、食べ物さえ貰えるなら支配者が誰でも構わない。

 汚水まみれの堀に浮かぶ魚でなければ、なんでもいい、そう思いながら宮殿に向かう途中で人さらいに遭った。外套を被った男に腕を引かれ、暴れる間もなく馬車に乗せられ、貴族の屋敷へと連れて行かれる。服を剥ぎ取られ水をかけられ、押し込まれた薄暗い部屋では若い男が待っていた。


「ふふふ……。薄汚いが、僕好みの可愛いエルフだ」


 シルフィアは自分の身に何が起きようとしているのかは分からなかったが、男のいきりたつ男茎を見て、ただならぬ危機感は抱いた。シルフィアは逃げようとするが、扉は開かない。手首を引っ張られ、強引にベッドに押し倒される。


「やめて! 許して! 助けて!」


「ああっ、いい声で鳴くねえ。可愛いよ。もっと、怯えた声を聞かせてくれ」


「いや、いやあ……」


 シルフィアは涙を零しながら、貧民街で顔見知りの女性から教わった言葉を口にする。


『いいかい、シル。もし変態ヤローに捕まって、どうにもならなくなったら『お尻でしてください』って言うんだよ。運が良けりゃ最悪の事態だけは避けられるから。糞ヤローのガキを孕むなんてことだけは、死んでも拒否するんだ』


 シルフィアは震える声で男に懇願した。


「ガキのくせに、とんだ変態だ! 最高の拾いものだ! いいよ! けどさあ」


 襲ってきた暴力は、別種のものであった。その男、グラハム・ルドフェルは魔銃をシルフィアの眼前に突きつける。


「これが何か分かるかい? 知らないだろ。これこそが前帝の部隊を壊滅させた力さ。異世界人の転生者とやらは、便利な物をこの世界にもたらしてくれたよ。これさえあればなんだってできる。僕は魔銃に選ばれた。ほら、こうやって使うんだよ」


 グラハムはシルフィアの痩せこけた左腕を狙い、発砲。6.2x20㎜魔力弾はシルフィアの体内に侵入し炸裂。左腕は千切れ飛んだ。


「きぃ、やああああっ! あっ、あっ! い、いぎぃ……」


 シルフィアは痛みで全身を跳ねさせる。


「動くなよ! 上手に狙えないだろ! 先に縛りつけておくべきだった」


 グラハムはシルフィアの右腕を押さえつけ発砲。


「いっ、いあっ! あっ、あっ……」


 シルフィアは痛みと失血で痙攣し、意識朦朧となった。


「あっはっはっ! やっと大人しくなった。でも、まだ挿入いれる前から死んだりするなよ。死ぬ瞬間が最高なんだからさあ! 知ってる? 知ってる? 魔銃って五感が強化されるんだよ。射精した瞬間の快楽も、桁違いなんだよ!」


 グラハムは快楽に酔いしれながら幼い体を破壊しつくしていった。シルフィアは痛みで意識をとり戻し、痛みで意識を失い、また意識を呼び戻される。


「ああ、楽しいなあ。それじゃあいよいよ幼いエルフの具合を確かめさせてもらう

よ。先ずは、広げないといけないよねえ」


 グラハムは魔銃をシルフィアの下腹部に押し当てる。そして、銃口が血で染まったシルフィアの体に触れた。その瞬間、先天的な適性か素質か運命か――。魔銃は融けるようにして幼い身体に吸収され、所有権が強制的に移り変わる。魔銃の上位概念である存在が、シルフィアの「死にたくない」という想いに応じる。傷は癒え、魔銃は形状を変えて失った血と四肢の代わりとなった。こうして、シルフィアは体内に魔銃を宿し、常時発動型の装着型魔銃を己の四肢とする。


 その能力は、生体の限界に依存しない腕力と脚力。そして――。

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