第11話

   ◆



「はあぁっ!? こ、琴乃ちゃん!? この人が!?」

「いやぁ、美人だなんてそんなぁ」



 美人だなんて一言も言ってないぞおバカ。


 場所は変わり、俺達はショッピングモールの屋上にある広場に来ていた。

 子供向けだが巨大ジャングルジムがあり、親御さんが休めるよう休憩スペースもある。


 その一角にあるスペースに対面で座る俺達。

 因みに俺の隣は琴乃で、琴乃の前が竜宮院。で、俺の前が久遠寺だ。



「えぇ……確かに大人っぽいとは思ってたけど、変わりすぎじゃないかしら……? 大学生にしか見えないわよ」

「あっはぁ! 梨蘭たんに褒められちゃった!」

「あ、このテンションは琴乃ちゃんだわ」



 苦笑いを浮かべる久遠寺。

 まあ、中身はお子様ですから。


 琴乃は缶のロイヤルミルクティーを一気に飲み干すと、ムンッと鼻息荒く身を乗り出した。



「私のことはいいんです! そ、れ、よ、りぃ……ね、璃音たん?」

「そうよね、琴ちゃん」



 ピエロのように口角を上げる2人。

 さっきの今で2人共仲良くなったのかよ……コミュ力たけーな、おい。


 さて、どうしようかな。

 お茶を飲みつつ、さっきの爆弾発言についてどう濁すか考える。

 ……というか久遠寺が墓穴を掘っただけだし、なんで俺がこいつの尻拭いをしなきゃならんのだ。


 前に座る久遠寺をチラ見。

 久遠寺も同じように缶ココアを飲んで思案してるようだ。

 ……が、明らかに動揺している。手とかプルップルに震えてるじゃないですかヤダァ。



「梨蘭ちゃん。さっきのセリフはどういう意味かしら?」

「そうだよ梨蘭たん。もう言い逃れはできないZE☆」

「ぐ……ぬぅ……!」



 おい、俺を恨めしそうな目で睨むんじゃない。元はと言えばお前のせいだろう。


 だけど……あんなにスッキリ見事に爆弾発言されたら、もうどう言い繕っても無理だろうな。



「2人共。このことはオフレコで頼む」

「ちょっ、アンタ言うつもり……!?」

「仕方ないだろ。お前があそこであんなこと言わなきゃこうはならなかったんだし」

「むぐぅ……ふんっ」



 久遠寺も諦めたらしい。全く、この子は……。



「さっきの久遠寺の発言から察してる通りだ。俺とこいつは、『運命の赤い糸』で結ばれている」

「やっぱりね……さすがに驚いたわ」



 竜宮院は物珍しいものを見るような目で、俺と久遠寺を交互に見る。

 糸の色までは言わない。聞かれてないし、聞かれたとしてもバカ正直に答えるつもりもない。

 濃緋色なんて、普通に考えたらありえない色だしな。



「ほっへぇ〜……そんな奇跡、本当にあるんだねぇ」

「そうね。私も冗談半分で2人が『運命の赤い糸』で結ばれてたらおもしろ……素晴らしいとは思ってたけど、まさか本当に結ばれてるなんて」



 おい、竜宮院のやつ今「おもしろい」って言いかけたぞ。こいつ実は性格悪いな?

 ……とりあえずそっちは置いといて。



「さっきも言った通り、このことはオフレコで頼むな。余り知られたくないんだ」

「わ、私からも……お願い。これは、その……」



 久遠寺も顔を真っ赤にして賛同した。

 俺らの犬猿の仲っぷりは、既に銀杏高校でも有名となっている。

 そんな俺達が赤い糸で結ばれてると同中の奴に知られてみろ。絶対面倒くさいことになる。主に龍也と寧夏。



「わかってるわよ」

「うんうん。私達、誰にも言わないよ!」



 ほっ、よかっ──。



「「夫婦水入らずでほっといて欲しいってことだもんね」」

「「断じて違うわい!」」



   ◆



『ではでは、ここは若い2人に任せて〜』

『私達は退散するわね。じゃ、2人共。また学校で』



 なんて言い残し、2人は行ってしまった。

 で、ここに残された俺と久遠寺。ぶっちゃけ何を話していいのかわからない。


 本当なら直ぐ帰ってもいいんだが……なんとなく、それも惜しいような気もする。



「…………」

「…………」



 ……どうすりゃええんや?

 久遠寺を見ると、俺と同じようにどうすればいいかわからないような顔をした。


 ……よくよく考えてみると、久遠寺と2人っきりになるのはあの階段のとき以来か。

 前は2人っきりだといがみ合ったり、気まずかったりしたけど……なぜか、今はこの無言の空気さえ心地よく感じる。


 なるほど、これが赤い糸効果か。


 だけど、これ以上ここで何もせず時間を潰すのもな。

 俺の時間もそうだが、久遠寺の時間も無駄にしちまってる。それは申し訳ない。



「あー……帰るか?」

「ぇ……帰っちゃうの……?」



 うっ……な、なんだよ、その捨てられた子犬みたいな顔……!

 久遠寺梨蘭、お前そんなキャラじゃないだろっ。もっとさ、狂犬みたいにがうがう噛み付いてこいよ……!



「……暇なら、その……少し話すか?」

「あ、アンタが、どうしてもって言うなら……」



 いや、俺は帰ってもいいんだけど。

 なんて言ったら、またあんな顔させそうだから言わないでおく。


 つってもなぁ……こいつと話すことなんてないんたが……あ。



「そうだ。何でお前がここにいたんだよ。買い物か?」

「あぁ、璃音に聞いたのよ。アンタが見知らぬ美人とデートしてるって」

「……つまり、俺と美人がデートしてるって聞いて飛んできた、と?」

「そうそ……って、ちちちちち違う! 断じて違うから! アンタが誰とどんな関係になろうと……ちょっとは気にするけど、気にしないから!」



 気にするんかい。

 でも……そうか。俺が見知らぬ女性と一緒に歩いてたから、あんな怒ってたのか……。



『アンタは一生ッ、私だけを見てればいいのよ!』



 …………。






 やっべ、超嬉しいどうしよう。ニヤける。






「真田、どうしたの? 顔真っ赤だけど」

「き、気にすんな。思い出し羞恥だ」

「あー、あるある。そう言えば私も前にね──」



 久遠寺が楽しそうに話しているが、その内容すら頭に入ってこない。


 あの天敵のような久遠寺と一緒にいて、こんな状況すら嬉しいと思うなんて……やっぱり『運命の赤い糸』は呪いだな……。

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