push

草乃

push1:“もしもし、俺だけど”

 着信が、5件入っていた。2件は友達で1件が非通知、残り3件はアイツからだった。

 多分最後のやつだろう、留守番電話サービスに音声を残したみたいだ。

 呆れながら溜め息をつきつつも、頬の筋肉が上がるのを感じる。

 私今、絶対ニヤケた。自分でも気持ち悪いと思う。

 深呼吸をして、気持ちを落ち着かせ留守電を聞く事にした。

 たいした用件なんて、ないのだろうけど。


“あー……。もしもし、俺だけど……”


 誰からか分かっていてさえも、俺って誰ですか? なんて聞いていじめたくなる頼りない声。

 少し低くて、けど高くもない心地好い声。私はこの声が好きだ。

 これを聞きながら、彼がこの電話の向こうでどんな姿でいるのかどのくらい緊張していたのか想像する。

 半端じゃない照れ具合も、声の震え方から察しがつく。


 このフレーズで始まる留守番電話が来たのは、付き合い始めてから5回目だ。

 いつまで、増えていくんだろうか。

 携帯を手にしていとおしむ様に見つめた。

 きっと、今メールを送ったからもうすぐ電話が掛かって来るだろう。まだ当分こちらからは掛けないつもりだ。

 彼から掛かってくる電話が嬉しくて。たとえ今、口元が緩んでいてもみえないと分かっていても手で覆ってしまう。

 だってそうでしょう、今、すぐにでも着信の合図に真っ黒な画面が光り出すのだから。


 大好きな、彼からの電話に、何事も無かったかのように平静を装って、出なければならない。

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